■空母についての基礎知識
地球生命体史上初の空母大戦争、珊瑚海海戦が行われたのは、
日本海軍による南方進出作戦の一つ、MO作戦の中においてでした。
この作戦に投入される上陸部隊船団護衛のため
インド洋作戦帰りの正規空母、五航戦の翔鶴(しょうかく)と瑞鶴(ずいかく)が
ソロモン周辺海域に進出することが決定、
さらに改造空母の祥鳳(しょうほう)の投入も決まります。
そこに日本海軍の暗号を解読し、MO作戦の妨害に出てきた
アメリカのUSSレキシントンとUSSヨークタウンから成る機動部隊が登場、
両者が珊瑚海周辺で激突するわけです。
(繰り返すが、この2隻がアメリカがこの海域につぎ込める全空母であり、
結果的には間に合わなかったが同時に残りの2隻にも出撃命令が下って現地に向かっていた。
対して日本側の派遣はまだ余裕があったのに全力ではなく、むしろ手を抜いたと言っていい。
2+0.5隻の空母だけで何とかなると思っていたのだ)
ただし当初の計画ではインド洋作戦で置いてけぼりを食った空母、
すなわち佐世保で修理中の加賀が戦線に戻りしだい、
単独でMO作戦に派遣される、という事になってました。
さすがにこれは危険、という事で取りやめになるんですが、
一時は本気でそれで十分、と判断されていたようです。
もし、この計画が実現されていたら、珊瑚海海戦は悲惨な事になっていたでしょう。
どうもここら辺り、日本海軍はアメリカの空母戦力をかなり甘く見ていたフシがあります。
まだ一度もまともに対戦したこと無いのに、ですね。
余談ですが、ミッドウェイ海戦までは、空母艦隊決戦は日本側が常に主導権を握り、
アメリカはそれに対応するので精一杯でした。
が、それ以後はアメリカ側が主導権を握り、日本がそれに対応して行く、という形になります。
そういった意味でも、開戦からわずか半年、1942年(昭和17年)6月の段階で
事実上戦争の勝敗は決していた、と言っていいんでしょうね。
ついでに、そんな珊瑚海で五航戦の二空母とともに投入されることになった悲劇の空母、
祥鳳(しょうほう)もちょっと紹介しておきましょう。
下の写真中央部のやや小さな空母です。
ついでに、今回の話とは全く関係ないのですが、手前に置かれた信濃の
アホみたいな巨大さ(特に横幅)にも驚いておいてください。
祥鳳(しょうほう)は、そもそもは潜水母艦からの改造空母でした。
潜水母艦時代の名前は剣埼(つるぎざき)だったのが、
空母に生まれ変わって架空飛行生命体の名に変更、祥鳳(しょうほう)となります。
赤城、加賀の時代は改名なしだったんですが、
この世代からは全て名前も空母式になってゆくのです。
ちなみに海軍の皆さんの架空飛行生命体の知識は極めて限られていたいのか、
先に就航していた正規空母、翔鶴(しょうかく)、瑞鶴(ずいかく)の次に完成した
これら改造空母の名前は祥鳳(しょうほう)、瑞鳳(ずいほう)と、
とても取り違えやすい名前になっております。
ついでに翔鶴(しょうかく)と祥鳳(しょうほう)では“しょう”の字が違う、というイヤラシさ。
ついでに、この改造空母 祥鳳(しょうほう)は例の“完成順では世界初空母”鳳翔(ほうしょう)とも
間違いやすいので要注意。
これ、現場の部隊でも混乱あったんじゃないかなあ。
何とかならんかったのか、この妙な命名…。
でもって1/700の模型で祥鳳を手前の加賀と比べると、
明らかに二回りは小さいのがわかるでしょう。
祥鳳は基準排水量(=船体重量)で1万1200トンと、珊瑚海の戦友、翔鶴&瑞鶴の半分以下で
搭載できる機体も半分以下の30機以下ですから、あくまで補助空母というべき存在でした。
さらに最大戦速は28ノットとされますから、30ノットを超えてくる(瑞鶴、翔鶴は34ノット)
戦闘行動中の正規空母に付いて行くのは困難で、
このため空母機動部隊に組み込むのはちょっと不安があります。
(ただし後で見るように日本には加賀という特殊例が居たのだが)
実際、ミッドウェイ前の日本海軍の場合、
まだ余裕があったため正規空母と改造空母は基本的に別部隊で運用をしてました。
ただし、ミッドウェイ後、手持ちに余裕が無くなってからは混在運用となるんですが。
このためMO作戦でも五航戦の二空母と祥鳳は完全に別行動となるのですが、
これが別行動にも限度があるだろう、という位に距離を置いて単独投入されたため、
祥鳳はアメリカ空母機動部隊の最初の空襲を一手に引き受け、
近代海戦史上まれに見る、という集中攻撃を受けて沈没することになります。
(後に戦艦大和がそれに近い状態になるが、これはまだ1942年の戦闘なのだ)
悲劇の船、と言っていいでしょう。
ついでながら改造空母の最大戦速の問題は、祥鳳のような軍艦からの改造空母と、
「鷹」の名が付く商船からの改造空母では、事情がかなり異なります。
商船改造の「鷹」シリーズは最大速度で21〜23ノットまで落ちるため、
さすがにこれを正規空母と併用運用するのは無理があるでしょう。
ちなみに速度に関しては日本の正規空母には加賀という問題児が居ました(笑)。
この空母、正規空母なのに最大速度は27ノットしか出ない、という艦でして、
他の正規空母より4〜7ノット(時速8〜13km)近く遅いのです。
なので加賀は日米正規空母通してもっとも脚が遅い空母でした。
(アメリカの中型空母USSレンジャー&ワスプも遅かったが、それでも29ノットは出た)
ただ、ミッドウェイ海戦の空襲時には、
同時に日本の全空母が最大戦速で回避運動に入ったはずですが、
加賀が出遅れた、という話は私は見たことが無いので、
グルグルまわる回避運動においては、それほど問題にならなかったんでしょうかね。
結局、速度に関係なく、飛龍以外の三艦に平等に爆弾は命中してますし。
ちなみに空母に速度が要求される最大の理由は、航空機の離着艦のためと、
大きな船体で敵の攻撃をよけるためで(高速で動き回るほど狙いにくい。ゴキブリを見よ)
最大戦速で移動するわけではありません。
そもそも艦船の場合、低速でも造波抵抗というタチの悪い抵抗源があるため、
高速を出すには膨大なエネルギーが必要となります。
30ノットを超えてくるとその燃料消費が半端ではなく、
そんなので長時間運行したらすぐ燃料がなくなってしまうのです。
ここら辺りはジェット機のアフターバーナーに近い感覚かもしれません。
ちなみに一定速度を超えると、どんなにスクリューで船体力を加えても、
その多くが波になって運動エネルギーを奪ってしまうため、
ほとんど速度が上がらなくなってしまいます。
この造波抵抗の壁になっているのが34ノット前後の速度らしいです。
(アメリカ軍のミズーリ級戦艦の試験データによる)
狭い甲板から飛行機を離着艦させるために何で艦の速度が必要なのか、というと、
これによって機体の速度が低くても、飛びたつことが可能になり、
着陸の時は両者の相対速度が低下することで安全性が高まるからです。
航空機が空を飛ぶのは主翼に対して高速の気流が流れ、
そこに揚力が発生する結果ですが、
逆に言えば必要な速度の気流を主翼に当てると、機体が止まっていても浮きます。
(機体の高速移動の代わりに主翼を高速回転させて揚力を得るのがヘリコプター)
なので、空母は離着艦時には風上に向かって高速航行して(風速+自艦の速度)、
離着艦に有利な高速の風を機体に与える必要があります。
ここら辺り、発艦時の空母の速度の重要性は簡単に理解できると思いますが、
実は着艦時も同じで、艦が十分な高速で動いてる必要があります。
狭い甲板に着艦する時は、安全に着艦するため、
なるべく速度を落としたいわけですが、
(着艦フックとケーブルで機体を強制停止させるため、速度が速いと
衝撃力で機体を破損させてしまうことになる)
落としすぎると飛行機は失速して墜落してしまいます。
この時、着艦速度が150km/hとすると、空母が50km/hで航行していれば
差し引きで100km/hの速度となり、その分、
着艦時に受ける衝撃の力も減ることになるのです。
上のような理由により、空母からの離着艦は必ず一定速度が必要で、
このため停泊時に航空機の離着艦を行うことはできません。
入港する前に機体を全て発艦させて地上基地に送ってしまのも、
出航後、海上で艦載機を収容するのも、これが理由です。
なので空母の高速性が求められるのですが、
それでも最大戦速まで使うのは戦闘時の攻撃回避などくらいで、
通常の離着艦で最大戦速を使うことはあまりありません。
(ただし真珠湾の時はかなりムチャしてるので、やってる可能性あり。特に加賀)
日本の正規空母では一番重い艦攻の発着艦でも
第三戦速あたり(最も早い第五戦速より二段階低い速度)で、
軽い戦闘機などだとさらに遅い戦速でやってます。
日本の空母の甲板の先端には蒸気口があって白い蒸気が流れるようになってました。
模型ではわからないですけど(笑)。
これは艦を風上に向けて操舵し、向かい風を得るための工夫でした。
艦橋から見て蒸気が艦の中央に引かれた白い線に沿って流れていれば、
それは艦は風上向けて航行してる、という事を意味します。
これがずれて流れてるようなら、艦は風上に正対してない、という事になります。
日本の空母の甲板先端部に見られる矢印のような模様は、
その蒸気の角度を測るためのもので、10度ずつの角度をつけて描かれてます。
ちなみにこの蒸気システム、なかなか便利そうですが
アメリカの空母には付いてません。
イギリスの空母は確認できなかったんですが、
日本側の独自の工夫でしょうかね。
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