■太平洋の基礎知識

はい、今回は早くも連載三回目でして、最初の予定だと、
とっくに珊瑚海海戦の話が終わってるはずなんですが…
どうも最初に知っておいてね、という事柄が思ったより多く、
今回もちょっと回り道から入ります。

今回は太平洋における一連の空母決戦が行われた舞台、
太平洋地域の基礎知識から入りましょう。

とりあえず、太平洋戦争における主要な地域をまとめたのが下の地図で、
だいたい東西約1万1000km、南北約5000kmというところです。
西は日本軍が欲しくてしかたなかった資源地帯、マレー半島とスマトラ島周辺から、
(マレー半島にはスズ鉱山、ゴム園、そしてスマトラ島にはパレンバン油田がある)
東はハワイまで、南は珊瑚海から北は沖縄とミッドウェイまでです。
(ちなみに沖縄よりミッドウェイの方が北にある)
いわゆる南西太平洋一帯、といった辺りですね。

これ以外の海域でも、例のインド洋作戦や
北の果てのアリューシャン列島作戦などもあるんですが、
どれも戦争の主要な流れの外にある戦いばかりなので、
とりあえず無視できると思われまする。
実際、1942年だけでなく、1944年の分も含め空母艦隊決戦は、
全てこの地図の中で起きてますし。

 

この中で、開戦時に主要なアメリカの軍事拠点があったのは
大きく2箇所で、一つは右端に見えてる太平洋のメトロポリスことハワイ、
そして地図の左端に位置する、アメリカの植民地フィリピンでした。
(厳密言うならハワイも州になる前で、植民地に近い存在だったが)
ところが太平洋.西側のフィリピンは開戦直後に日本に占領されてしまいます。
(それでも開戦から半年近く持ちこたえてるけども)

となると、太平洋におけるアメリカの主要な軍事拠点は
一気に8000kmも東の彼方、ハワイだけとなってしまうのです。
ここからでは距離がありすぎて、日本がやりたい放題の南西太平洋には
ちょっと手が出なくなってしまうでしょう。

が、そもそもフィリピンとハワイの間の島々、
すなわちミクロネシア周辺は当時、日本の統治領であり、
この海域を突破してフィリピンとの補給路を維持するのは
開戦前から困難と見られていたようです。
(日本艦隊の基地、トラック諸島(現チューク諸島)がここにあるのだ)
よってアメリカとしてはフィリピンが持ちこたえられるとは、
最初からあまり考えてなかった節があります。
このため、アメリカ軍はフィリピンの代わりに、開戦前から徐々にハワイより西、
すなわちハワイより日本側の海域の島々に前線基地を造りつつありました。



それがこれらの島々です。

太平洋北側では、あのミッドウェイ諸島であり、
さらに開戦直後の激戦地となり、かつ日本最初の敗退の地となったウェーク島でした。
南側では、オーストラリアに近いサモア、フィジー、そしてニューカレドニアですね。
個人的には北の三つの島々(ハワイ込み)を北の大三角、南の三つの島々を南の三連星と呼んでおります。

ただし、アメリカの参戦予定は早くても1942年後半以降であり、
(当初の計画では1943年まで戦争準備が必要とされていた)
1941年12月では、まだ建設中の段階で開戦を迎える事になってしまってしまいました。

この結果、開戦直後、まだ拠点完成前に日本軍の攻撃を受ける事になったのが、
北側で一番西に位置していたウェーク島でした。
日本の南洋における艦隊停泊地、トラック諸島にも近かった事から(約2000km)、
脅威を感じた日本が開戦とほぼ同時にここを占領に向かうわけです。

ウェーク島に駐屯していた海兵隊は、日本の攻勢を一度は撃退するものの、
最終的にはその占領下に入ることになってしまいます。
ついでに、この戦いは空母艦隊決戦においてもちょっと興味深いのですが、
その話は、また後で。

それでも、ウェーク以外の5つの島々は、
開戦から半年以上、日本からの脅威は受けずに済み、
(圧倒的な空母戦力を持ちながら、これらアメリカの前線基地の構築に対して、
日本は開戦後、美しいまでに全く何の手も打ってない)
この結果、これらの島々が、後に太平洋戦争における
アメリカ側の重要な反撃拠点となって行くのです。

特にオーストラリアの東側に位置するフィジー、サモア、ニューカレドニア
の南の三連星とニュージーランド(太平洋戦の主役、アメリカ海兵隊第一師団が駐屯した)は、
アメリカ側の反抗作戦の根拠地となりました。
開戦から8ヶ月、早くも1942年(昭和17年)の8月から始まる
アメリカ軍のソロモン諸島への上陸作戦は、この地区を拠点に行われる事になるのです。

以下余談。
フィジーとサモアは当時イギリス領だったからアメリカが拠点にできたのもわかるが、
ニューカレドニアは既に降伏済みのフランス領、すなわちナチスドイツ側だったはず。
なんでアメリカが?と思って調べてみたら、島民がナチス支配下のヴィシー政権を嫌っており、
さらに日本が攻めてくるのでは、という恐怖から
オーストラリアとニュージーランドに軍事援助を求めたそうな。
(白人にとって黄色人種は敵でしかない)
が、両国にそんな余裕は無く、そこで話を聞いたアメリカが、
その戦略的に重要な位置と、島にあった世界最大規模のニッケル鉱山に目をつけて、
開戦直後の12月から駐留することになったんだとか。
なるほど。


最後にもう一度同じ地図を。



とりあえず、北の大三角と、南の三連星、ここがアメリカの拠点であり、
対して日本は統治領だったトラック諸島(現チューク諸島)を
艦隊泊地として軍事基地化していた、というのが開戦前の状況です。
そして開戦直後に、ウェーク島だけは、日本の手に落ちました。

で、日本軍はこの後、南方方向に進出し始めます。
理由はよくわかりません(笑)。
とりあえず、トラック諸島のすぐ南にあるビスマルク諸島を押さえてラバウルに軍事拠点を建設、
そこから東のソロモン諸島の島々、すなわちガダルカナル島などへと進出してゆくわけです。
さらにはここからオーストラリアの牽制のため、ニューギニア島の占領も始めます。
が、それらの島々の先にあるのは、アメリカの南の三連星ですから、
当然、アメリカもその進出をだまって見てるわけには行きませぬ。

この結果、両軍勢力圏の最前線となったソロモン諸島が、
この大戦を通じて最大の激戦地となり、世界初の空母艦隊決戦となった
珊瑚海海戦も、この海域で発生することになるのです。

ちなみに、コント56号の大暴走大作戦、ミッドウェイ海戦を除けば、
1942年の全ての空母決戦も全てこの海域、
すなわちソロモン諸島を中心とした海域で戦われる事になります。


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