■光る翔鶴
最初に攻撃を開始したのは爆撃隊なのですが、
索敵爆撃隊(VS)と急降下爆撃隊(VB)どちらのSBDが先に爆撃に入ったのかは
記録が見つけられなかったので、はっきりしません。
とりあえず、攻撃開始から5分以上経った
11:05前後に最初の命中弾が出て、さらにその直後に2発目の爆弾も命中しました。
翔鶴の戦闘詳報が日本国内に現存しない(少なくとも私は見たことが無い)ので、
その被害内容は引用元のはっきりしない戦史叢書の記述に頼るしかないんですが、
まず1発目が前部飛行甲板の左舷に命中、
これによって機体用のエレベータが一時使用不能になった事もあり、
翔鶴は離着艦能力を喪失する事になります。
二発目はこれも飛行甲板に命中するのですが、
やや後部よりの右舷側に当たったようです。
これによる具体的な損害は不明ですが、飛行甲板が
さらなる損傷を受けたのは間違いありません。
アメリカの場合、より強力な1000ポンド(約453.5s)爆弾ですしね。
また、着艦装置使用不能という報告がMO機動部隊の戦闘詳報にあるので、
もしかしたら、この時の損傷かもしれません。
ちなみにこの命中弾のどちらかを当てたとされるSBDのパイロット、
パワーズ大尉(Lt. John J.
Powers)は必中の距離まで爆弾を投下せず、
通常の投下高度より200m近く低い、高度100〜200m辺りで爆弾を投下したため、
その爆風の回避に失敗、これに巻き込まれて墜落したとされます。
その勇敢な爆撃に対して、後にアメリカ軍の最高勲章、
名誉勲章(Congressional
Medal of
Honor)が与えられた、という事なんですが、
SBDである以上、後部座席に航法士が居たはずです。
が、こちらが勲章をもらった、という話が見当たらないので、ちょっと気の毒な気が…
さて、再度、ここで同じ図を。
その爆撃隊の攻撃開始後から雷撃隊の攻撃が始まります。
上の図で赤い実線で示されてるのがその雷撃隊の航路ですが、
雲の中から全機が一団になって襲撃したため、
目標の挟み撃ちには失敗したようです。
この結果、9機のTBDが放った9発の魚雷は全て翔鶴の左舷側から撃たれたと見られ、
しかもこの内3発は、例の不良品(涙)でまともに水中を走らなかったとされます。
それでも攻撃隊の報告では残り6発の内、3発命中確実、もしかしたら4発命中してる、
と書かれているのですが、これまた攻撃側の報告の魔術で、
実際は1発の命中弾もありませんでした。
爆撃を回避しながらの魚雷回避だったはずですが、
翔鶴は見事に全魚雷を回避してしまったわけです。
この辺り、爆弾を2発食らったとはいえ、
翔鶴の操舵は的確に行われていた、と言っていいと思われます。
ちなみにこの時の戦闘指揮は艦長ではなく、
航海長が執っていた、という証言もあるようですが、詳細は不明。
■Image
credits:
Official U.S. Navy Photograph, now in the collections of the
National Archives.
Catalog #: 80-G-17030
さて、例によってアメリカ側の雷撃機から撮影された写真で、
USSヨークタウン隊の攻撃下にある翔鶴を見て行きましょう。
右手前に見えてるのはTBDの尾翼です。
雷撃隊の報告書では、翔鶴が爆撃を避けるために右に急回頭したところに
魚雷を撃った、とされるので、おそらく雷撃隊の攻撃開始直後の写真だと思われます。
いきなり注目が1で、これは魚雷の航跡なんですが、明らかに蛇行してる上、
矢印の先、魚雷本体らしきものが見えてる位置に、水しぶきが上がっており、
これは魚雷が水中に潜らず水面に浮いてしまってるためと思われます。
すなわち例の不良品魚雷3本の中の1本で、なるほどこりゃヒドイ、という感じですね。
ちなみに2はキチンと走っていた魚雷の航跡だと思われますが、
ご覧のように、すでにその先に翔鶴は無く、水柱も上がってませんから、
少なくとも外れ、おそらくはこれも不発だったのではないか、と思われます。
注目は3で、その大きさと方向から魚雷の航跡ではなく、
おそらく翔鶴の護衛艦のものだと思われます、左に向かってるように見えますので、
この段階では翔鶴周辺にも護衛艦が居た可能性がありますね。
4は例によって対空砲火の水柱で、翔鶴だと25oか40o機関砲だと思うのですが、
どっちのものかは判断が付かず。
ただし、この水柱が立ってる方向に敵の雷撃機が居るはずなのに、
それが全く見当たらないので、もしかすると上空の爆撃機を撃った弾が
海上に落下して来たものかもしれません。
5も恐らく護衛艦の航跡ですが、全く艦影が見えないので、
どうも翔鶴から遠ざかって行ってしまってるような…。
6は爆弾による水柱で、一見すると煙が出てるので命中に見えますが、
これは外れで、この段階ではまだ命中弾はありません。
(最初の命中弾はもう少し前の位置のハズ)
ついでにこの爆発は水柱より火薬の煙の量が多いので、
接触してから0.5秒前後遅れて爆発する遅延信管ではなく、
直ぐに爆発する接触信管かもしれません。
アメリカ側の記録ではMark
21 と
23 という2種類の信管を使ってますので、
どちらかが遅延信管で、もうひとつが接触信管ではないかと。
ちなみに海上に落下した場合、遅延信管だと水中で爆発、衝撃波による破壊が行われ、
接触信管だと、ほぼ水面上で爆発するため、爆弾本体は大気中で爆発する事になり、
その爆風と高速で飛び散った破片で艦上構造物の破壊、人員の殺傷を行います。
どっちがより効果的かは、一概には言えませぬ。
さて、問題は7でして、この艦首の白い部分が全くの謎です。
こんなとこに白い塗装は無く、あるいは火災の炎かとも思ったんですが、
艦首部がこんなように燃える、などというのは普通、考えられません。
実はこれ、他の写真でも写ってたり、写ってなかったりするので、
正直言って全く判断が付きませぬ。
位置的に見て、艦が風上を向いてるかを見る
艦首甲板上の蒸気発生装置が暴走して大量の蒸気を吐き出してる、
という可能性が高い気がしますが…。
ただし、それだと写真によって
写ってたり、写ってなかったりする理由が説明できませぬ。
とにかく謎、という事にしておきます(手抜き)。
■Image credits:
Official U.S. Navy Photograph, now in the
collections of the National Archives.
Catalog #: 80-G-17422
こちらも急激に右回頭中で、激しく爆撃を受けてる状況の翔鶴。
まだ最初の命中弾が出る前のようですが、
少なくとも2発がかなりの至近弾になってるのが見て取れます。
その水柱のすぐ右上にみえる小さな薄いシミのようなものは航空機の機影で、
爆弾を投下後、離脱して行くSBDでしょうか。
手前の水しぶきはアメリカ海軍の解説だと対空砲火が着水したもの、
とされてますが、魚雷を投下したようにも見えますね。
その右上に見えてる黒い煙は対空砲火の破裂したもの。
とりあえずこの写真では、例の謎の艦首部の白いものは見えなくなってます。
■Image credits:
Official U.S. Navy Photograph, now in the
collections of the National Archives.
Catalog #: 80-G-17027
写真の撮影順がはっきりしないのですが(写真のカタログ番号は必ずしも時系列順では無い)
とりあえず、これも右回頭中の翔鶴。まだ損傷を受けてない事、高速運転&波が荒いため、
かなり大きな航跡を残しながら進んでいるのが見て取れます。
白いカーテンのようなものは爆弾の爆発で生じた水柱が崩れて水しぶきになったもの。
■Image credits:
U.S. Navy Photograph, now in the
collections of the National Archives.
Catalog #: 80-G-17031
ついに命中弾が出てしまった翔鶴。
上に向かってキノコ型の煙が立ち上ってるので、
爆発が生じた直後だと思うんですが、なんぼ1000ポンド爆弾でも、
単発でここまで巨大な煙は出ないと思うので、
2発の爆弾が、ほぼ同時に命中してる?
あるいは、最初の爆弾で火災が起きてた所に2発目が命中した?
そして、この写真でもまた、謎の艦首の白い部分が生じてるのも注目。
何か光ってるようにすら見えますが、こんなところで光るものは無いはずで、
やはり風向き確認用の艦首蒸気口から、水蒸気が大量に噴き出して、
太陽光を反射してる、とかですかね…。
とりあえず、この後、火災が発生して大量に煙が出たこともあり、
USSヨークタウン隊は空母一隻撃沈確実として報告してしまいます。
(This
carrier was so badly damaged that it finally
sank)
が、当然、翔鶴は沈んでおらず、それどころか
USSレキシントン隊の来襲までには消火も進んでいました。
ただし、USSレキシントン隊の到着時にはまだ煙を出していたようで、
これがアメリカ側の攻撃目標になったようです。
とりあえず、大よそ15〜20分に渡って続いたUSSヨークタウン隊の攻撃は、
この翔鶴への2発の爆弾命中のみで終了しました。
それ以外の艦にはほぼ被害は無く、翔鶴が一人で貧乏くじを引いた形になってます…。
という感じで、今回はここまで。
次回は、第二波攻撃のように見せかけた迷子部隊(笑)、
USSレキシントン隊の攻撃を見て行きましょう。
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