ちなみにせっかくGと重量と力の話が出てきたので最後にちょっと脱線。 重量の数倍もの力が掛かる運動なんて軍用機でもなきゃやらない…と言うべきところですが、例外があります。高速でカーブを曲がるレース用車両で、特に近年のF-1などは最大で5G以上の加速度が掛かっています。高速カーブだと時速250q以上で曲がってしまう車体には凄まじい荷重倍数が掛かるわけです。 これは降力、いわゆるダウンフォースで強烈に車体を地面に押しつけ、ガムテープみたいな粘着性を持つタイヤで曲がる結果、運動エネルギーが車体を外側に吹っ飛ばす力に変換されず、そのまま車体に掛かって来るためです。 よって車体重量の5倍の力を支えながら強引に路面に押しつけて曲がってるわけで、そりゃタイヤも痛むよね、という話になります。当然、ちょっとでもタイヤが滑れば、加速度は横向きのトン単位の力に変換されるので、車体は強烈な横滑りをしながら、すっ飛んで行く事になります。F-1マシンがカーブの途中でダウンフォースを失う怖さはこれです。 そこまで荷重倍数があるなら、これまた数パーセントの重量差でも大きな影響が出て来ます。よってF-1の軽量化は加速が良くなる、という単純な話では無く、タイヤの負担、その摩耗の量も変わってくる話なのです。 ただしF-1の場合、安全性確保の意味もあって車両の最低重量が定められいるためどれもほぼ同じ重量となり、これは2021年だと752kgでした。ただし乾燥重量なので、実際はここに燃料の重量とドライバーの体重が掛かって来ます。よって5Gの荷重倍数だと最大約4トン(tw)以上の力が車体に掛かってるはずで、これを抑え込んでるF-1のタイヤはすげえな、という話になります。 となると燃費が良くて搭載燃料が少なくて済む低燃費エンジンの方がタイヤへの負荷の点でも有利になります。 すなわち燃費がいいエンジンは単に加速が良くなるだけで無く、この強烈なタイヤへの荷重倍数の負担も減らすのです。そして当然、ドライバーの体重も軽い方がタイヤへの負担は有利です。燃費よりこっちの方が重量を減らすのは楽ですから、ドライバーの体重と体脂肪率管理は重要なんですが、未だに国際映像では各ドライバーの体重&体脂肪率データが出ません。 ホントに欧米の連中って、モータースポーツに関してはド素人だよな、と常々思うところです。国際中継ではすぐに車のアップにして、どうやってカーブを曲がってるのか、前後の車との車間はどうなってるのか、さっぱり判らん映像を連発しますからね、アイツら。 ただしドライバーは軽い方が有利なのは間違いないですが、その高い荷重倍数に対抗するには筋肉マッチョにならないと死ぬので、この辺りはジレンマとなります。 でもって、さすがに5Gまで行くカーブはサーキット内でも限られますが、4Gくらいまでなら結構ありますので10s違えばタイヤに掛かる力は毎回40sほど減ることになります。まあ3トン(tw)を超えて来ると思われる全体の荷重に比べると約1.3%ほどと微々たるものですが、それでも何度もその力を受けながら305qという規程の距離を走る事を考えると、ドライバーの体重差は馬鹿にならない気がしますね。 ついでに言えば、ドライバーの体にもこのGは掛かっています。最も影響を受けるのはよく動いちゃう頭部で、5Gだと自分の頭の重さの5倍の力を受けます。すなわち、その重さのヘルメットを被って横に寝た状態でこれを支えられるだけの首の筋力が必要になるのです。当然、相当な疲労になるはずで、これを軽減するには頭が軽い、すなわち脳みそがより少ないドライバーの方が有利となります。この点はもう少し注目されても良い気がします。 ついでにロン毛とヒゲもまた、当然不利です。個人的には全身脱毛で鈴鹿なら一周あたり二千分の一秒くらい変わるんじゃないかと思っておりますが、誰か試してくれないものでしょうか。 といった感じで、今回のお話はこれまで。 |