■その力は力ではない

ちなみに、仕事率の単位は壮絶に面倒で(笑)、



となります。

ちなみにSI系単位だと、W(ワット)が単位となるのですが、
さすがにここまで来ると、
素直にSI系単位のW(ワット)にした方がいいかもしれません…。
ただし、Wは仕事の略号でもあるので、取り違えないよう、注意が要ります。

さて、仕事率の従来の単位としては、あまりに有名な馬力(hp)があります。
先に書いたようにこれはワットが蒸気機関の能力を示すために
考え出したもので、馬1頭あたりの仕事量、という事になっています。

ある意味、非常にわかりやすい単位で、10万ワットの力です、
といわれても、はあ、さいですか、という感じなのに、
13万4100頭分の馬の仕事ができます!といわれると、
イヤーン、チンギス・ハーンも真っ青!という感じになります。

ただし、これは最初に述べたように英語のHorse Powerであり、
Power と Force に区別の無い日本語で馬力、と直訳してしまった結果、
非常に誤解される元になっています。
正しくは馬労力、馬仕事、とでも訳すべきで、少なくとも
原語では力学的な「力」の意味はありません。

よって力の大小を意味する言葉ではなく、
馬力がデカイ=力がデカイ、という事では全く無いのです。
実際、これは仕事率の単位ですから、
どれだけ効率よく仕事をするか、を見るだけであり、
力学的な力の大小の比較はできません。

ただし、仕事率(馬力)が高い=高速に移動できる、
つまり速度が出やすい という特徴にもなるため、
ピストンエンジンなどの性能を示す単位としてよく使われます。

ちなみに仕事率は、もう一つ、時間あたりの
エネルギーの使用量を見る次元にもなっています。
仕事=エネルギーですから、効率よく仕事をする、という事は、
それだけ速くエネルギーを消費する、という事でもあるのです。

よって、高い仕事率(大馬力)のエンジンは凄まじい勢いで
燃料を消費する、という私たちが経験的に知ってる事実が説明されます。
仕事率がいい、というのは、一気にエネルギーを使って、
一気に力を搾り出せる、という事でもあるわけです。
当然、燃費は悪化しますが…。



自動車や航空機で使われるピストンエンジンでは、性能比較に
仕事率(馬力かW)が使われる事が多いのですが、おそらく速度が重要な要素となるからでしょう。



あまり分かりやすい例ではないですが…。
航空機などに詰まれる星型エンジンを横からカットしたものです。
通常、1のピストンは圧縮、爆発の過程で上下運動を行ないます。
この段階ではピストンの質量(m)に燃料の爆発により加速(a)を与えているので、
純粋に力(F)が発生しています。

が、ピストンがどんだけ上下に動いたところで、
車輪やプロペラは回せませんから、これでは役に立ちません。
そこで、2の位置にある回転軸にクランクやら遊星歯車やらを入れて、
ピストンの上下運動を回転運動に変換してやります。

この結果、ピストンの上下運動の力が回転運動に変換されるわけです。
この回転速度と、当初のピストンの力、
この二つからピストンエンジンの仕事率は求められます。

力(回転力なのでトルクと呼ぶ)×回転数(一定時間内の回転数だから速度になる)

といった計算式が使われるのが普通ですね。
やや変形ではありますが、これも 力(F)×速度(v)の計算式になっています。



最後に仕事率の単位、馬力と
普通に計算して出てくるW(ワット)の換算について少しだけ。

まず、仕事率には長さと質量が関係するため、
フィート&ポンドのイギリス&アメリカと、早くからメートル&kg単位を使っていた
フランス、ドイツとでは、両者の「馬力」に微妙な差があり、注意が要ります。

通常、イギリス、アメリカ馬力がhp、フランス、ドイツの馬力はpsで表記され、
両者は異なる量の単位となるのです。
特に第二次大戦機のエンジン出力では、この換算が鬼門になりやすいです。

ちなみに、それぞれのkw(キロワット)数への換算を書いておくと、

1hp = 約0.746kw(イギリス、アメリカ)

1ps = 約0.736kw(フランス、ドイツ)

となります。
ちなみに、第二次大戦中の日本はメートル式ですからpsのはずですが、
なぜか表記はhpとなっているものが多く、正直、理解に苦しみます。
なので、日本の場合、表記はhpですが、
基本的にはフランス、ドイツ馬力となっており、ここら辺りも要注意です。

といったところで、エネルギー(E)、仕事(W)、仕事率(P)の解説は終わりにしましょう。

個人的にエネルギーは愛のようなものだ、と考えてます(笑)。
どちらも誰でも知ってるけど、それを具体的に説明しようとすると、
かなり面倒な上に、人によって言うことが違う、というやっかいな性質を持つからです。

とりあえず、仕事をするには絶対必要な量、という説明は
これ以上簡略化しようがないレベルですから、これを理解した上で、
皆さんごとに理解を進めていただければいいと思います。

後は、力学的エネルギーと熱エネルギーは基本的に
異なるものなのに、なぜか保存法則が成立する、
ただし100%の変換は不可能、といった辺りがカギでしょうか。

はい、とりあえず、ニュートン力学入門編はここまでとします。


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