■運動は位置になる

さて、落下運動では、重力による位置エネルギーがゼロになっても、
運動エネルギーは残っている、という話でした。
ここで両者を求める式を確認しておきます。

■位置エネルギー

力(F)×高さ(H)=位置エネルギー(E)

■運動エネルギー

1/2×質量(m)×速度(v)×速度(v)=運動エネルギー(E)

でしたね。
ここで、位置エネルギーは高さを失うと減少し、
逆に運動エネルギーは速度が上がると増加する、
という事に気が付きましょう。

つまり、高度を失うと位置エネルギーは低下しますが、
その距離分、重力加速度で加速された結果、
運動エネルギーは増加します。

…なんだか、前回見た仕事(W)と位置エネルギー(E)の
関係に似ているな、というのに気が付きますね。
片方が減ると、その分、片方が増える。
となると、ひょっとして、この両者にも
その合計が常に一定になる保存則が働くのでは?

この点を確認してみましょう。
まず仕事(W)量を求める基本式は

力(F)×距離(L)=仕事(W)

でした。
これはエネルギーを求める基本式と同じでしたね。
でもってこの距離(L)の項を、加速度と時間から距離を求める積分の式、

1/2×加速度(a)×時間(t)×時間(t)=距離(L)

で置き換えてしまったのが運動エネルギーの式でした。
よって同じ式を使って、

1/2×質量(m)×速度(v)×速度(v)=仕事(W)

という仕事量の式も成立します。
これは運動エネルギーを求める式そのものであり、
同時に仕事(W)の量を求める式にもなるのです。

ただし、これは運動エネルギーの話であり、
位置エネルギーでは成立しないのに注意してください。
位置エネルギーの式の「高さ」は、落下運動では

元の位置−移動距離=高さ

となり、逆に上昇運動では

元の位置+移動距離=高さ

となります。
つまり高さと移動距離は、同じ長さの次元でもイコールではありません。
よって、両者を同じとして扱うことはできないのです。
運動エネルギーの場合、移動距離は単純に移動距離なので、
仕事の式との入れ替えが可能となるわけです。

でもって全く同じ数式で求められる、
という事は落下運動で生じる仕事(W)量と
運動エネルギー(E)は等しい、という事を意味します。
となると、前回見た

位置エネルギー(E) + 仕事(W) = 常に一定



位置エネルギー(E) + 運動エネルギー(W) = 常に一定

と書き換えることができます。
よって前回のグラフの「仕事」を「運動エネルギー」に置き換えて、
以下のようなグラフが成立するのです。



これは、落下運動におけるエネルギーの総計は常に一定であり、
それは位置エネルギーと、運動エネルギーが相互に
変換される過程だ、という事を意味します。

すなわち運動における二つの力学エネルギー、
位置エネルギーと運動エネルギーの
合計、総量は常に一定だ、という事であり、
力学的エネルギーは形を変えて、常に一定量に保たれるのです。

これが
「力学的エネルギー保存の法則」
と呼ばれるものになります。
そこにあるエネルギーは、位置エネルギー、運動エネルギーに
交互に姿を変えるだけであって、その総量は常に
減らないし、増えることもありません。

ただし、これは力学的エネルギーのみで行なわれる仕事の場合であり、
ここにエンジンやロケットモーターのような
熱エネルギーによる力を持ち込むと、エネルギーの保存の法則は
成立するものの、話が少し変わります。

その点は、また後で。



地球上なんだけど、空気抵抗がない、といった特殊な空間で砲弾を撃ち上げた場合を考えます。

この時、最初にもらった運動エネルギーは、重力に引かれてひたすら減少して行きますから、
その保存量が切れたところで、もはや上昇は不可能となり、
あとはそこまでに稼いだ位置エネルギーを使って落下する事になるのです。
そして、その位置エネルギーの最大量は、最初に砲弾がもらった運動エネルギーと同じ量となる、
というのうは上のグラフから読み取れると思います。

逆に言えば、空気抵抗が無い場合、地上から撃ちだした砲弾は、
落下の終了時点、つまり地上に戻って来る段階で、発射速度に等しい速度で落ちて来ます。




だったら、空気抵抗を差し引いて考えても、
砲弾の最大到達高度から、弾頭を落っことせば同じ破壊力になるよね?
というのが航空爆弾の基本的な考え方です。
砲弾が到達する数千メートルの高度から、同じ重量の爆弾を落とすのなら、
これは地上、あるいは海上から撃った砲弾と同じ破壊力を持つわけです。

第二次大戦前、アメリカ空軍の独立を早くから主張していたミッチェルが、
航空戦力の実力を示すのに、戦艦を空爆で沈める、というデモンストレーションを
選んだのには、こういった背景もあったと思います。

ただ動かない目標相手ならともかく、
目標が回避行動を取れてしまう場合、
水平爆撃じゃまず当たらないので、目標に向ってゆく急降下爆撃となります。
この結果、少し投下高度は落ちますが、
急降下爆撃の場合、機体の降下速度が加わるので、
破壊力的には十分なレベルを維持できる事になるのです。

例えば第二次大戦機の戦艦の主砲弾の重量は700kg 〜1.2tくらいですから、
アメリカ海軍の場合、艦爆のSB2Cヘルダイバーもちろん、
F4Uコルセアでも、1発くらいはその程度の重さの爆弾がつめました。

しかも上から見て狙いを付け、回避運動を先読みして放り出すわけですから有利です。
少なくとも実戦で20q近くの遠くから主砲を100発撃ってその内5発、
つまり5%当たれば御の字という戦艦主砲に比べて、
少しはマシな命中率が期待できるでしょう。
(ただし、艦爆の厳密な命中率の計算はやったこと無いので断言はしません(笑))

なので、空母には主砲がない、といっても、
艦載機の攻撃力を考えると、逆に射程数十〜数百qの
高い命中率が期待できる主砲を装備してる恐ろしい艦なのだ、
という見方もできるわけです。

このため、空母が無い相手との海戦は、ほぼ一方的なタコ殴り戦になります。
さらに敵も空母を持っていると、これは壮絶な潰しあいになり、
何年もかけて建造した空母がポカスカ沈む、という恐ろしい戦いになって行きます。
これほど壮絶な力のぶつかり合いになる戦闘を
人類は他では未だに経験してないでしょう。

ちなみに、人類史上61万3561年の間で、
こういった恐るべき空母戦を経験した国家は、
世界広しと言えども、日本とアメリカだけです。



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