■ニュートンの約束事
さて、前回までで、ニュートン力学の基礎を見てきました。
基本的な考え方はあれで十分だと思いますが、
実際にニュートン力学を扱う場合、
さらにそこにいくつかのルールが加わります。
今回からは、そういった実戦に必要なルールを見ておきましょう。
とりあえず、「慣性空間(慣性系)」、「ベクトル」、「重心と質点」、
「単位の次元」の4つが最低限、覚える必要があるルールとなります。
ここに微分積分、円運動辺りを加えれば、
明日から突然、宇宙空間に放り出されても、なんとかなる
といったレベルのニュートン力学を理解できるはずです。
前回までの知識でも、ロケットからジェットエンジンあたりの原理くらいまでは
ほぼ説明できるのですが、きちんと理解するにはもう少し、
いくつかのルールを知っておく必要があります。
さらに全体像を完全に理解するには仕事とエネルギーの概念まで
考える必要があるのですが、逆にそこまで行ってしまえば、
世の中の大半の運動はなんとか説明がつけられてしまいます。
とりあえず、そこまでもうちょっとガンバってくださいませ(笑)。
まずは慣性空間から見ておきます。
これはニュートン力学が成立する必須条件であると同時に、
最大の弱点ともなるルールです。
連載当初、多体問題、そして時間と長さの絶対性の否定から来る
相対論的限界がニュートン力学にはある、というのを書きました。
が、それ以前の問題として、そもそも慣性空間以外では
ニュートン力学は成立しない、
という基本中の基本、というべき限界があります。
実は弱点だらけなんですよ、この理論体系(笑)。
では、慣性空間(慣性系)とは何か?
それは第一法則こと慣性の法則が成立する空間です。
…そのまんまですね。
ここまでに見てきたニュートンの基本3法則は
慣性の法則、運動の法則、そして作用反作用の法則、
の順で理論が発展して行くものでした。
つまり、最初に慣性の法則ありきでした。
慣性の法則がないと、そこに力を加える運動の法則は成立しませんし、
そして等速直線運動、あるいは加速された運動、
どちらかが無いと物体の接触による作用、反作用は起きません。
そして、これらの3つが全滅するなら、
運動量保存の法則も成立しないのです。
よって基本中の基本、第一法則こと慣性の法則が成立しないと、
以後のニュートン力学の展開は崩壊するしかないわけです。
逆に言えば慣性の法則さえ成立してしまえば、
後はニュートン閣下のやりたい放題となります。
そのニュートン力学の生命線、
慣性の法則が成立するのが慣性空間であり、
慣性系とも呼ばれるものです。
その逆、慣性の法則が成立しない空間のことは
非慣性空間(非慣性系)と呼びます。
慣性の法則が成り立つ空間の条件については、既に見ていますね。
引力やら空気抵抗やら、物体の運動を拘束する
力が何もない宇宙空間を考えればいい、でした。
となると、今度は逆に慣性の法則が成り立たない空間、
非慣性空間とは何か、考える必要が出てきます。
これは、その空間内の物体に、
「常に」何らかの力が加わり続ける空間です。
こういった常に力が加わり続ける運動は加速度を生じ続けるため、
加速度運動と呼ばれます。
つまり、そこにあるだけ、あるいは等速直線運動をするだけで
物体に力が加わり続け、加速度運動(プラス&マイナス)が生じる空間、
これが慣性の法則が成立しない空間となります。
この点が一番わかりやすいのは、重力を受ける空間でしょう。
ここで例によって簡単な図にしてみますよ。
上が慣性空間、下が非慣性空間です。
とにかく、Let it
be、あるがままに、なのが慣性空間です。
これは既に説明したように、無重力、真空、といった条件により
外部から力を加えない限り、物体の運動になんの変化も起きない空間を意味します。
この中に置かれた物体は、何もしない限り何も変化しません。
力を加えなければいつまでも止まったまま、かつ一度力を加えただけだと、
永遠にその速度のまま等速運動を行います。
このように慣性の法則が成立する空間(系)なら、
以後のニュートン力学も連鎖的に成立して行きます。
慣性空間ブラヴォーですね。
逆に、とにかく、そこに物体があるだけで
運動が変化し続ける、加速度運動が生じるのが非慣性空間です。
これは地球上のような重力がある空間を考えるのが分かりやすいでしょう。
地球上で物体を「空中に置く」と静止せず、何もしてないのに、
地球中心方向、すなわち下に向って盛大に落下して行きます。
当たり前ですが地球に重力があるからですね。
重力は24時間365日(閏年は366日)完全営業ですから、力は常に加わり続け、
この結果、等加速運動、常に速度が一定量ずつ増加する運動になります。
よって、ここでは静止状態も等速直線運動も絶対に成立しません。
この結果、慣性の法則は成立せず、これは非慣性空間となるわけです。
さらに空気があるだけの空間なども非慣性空間となります。
この場合、静止した物体はそのままですが、
等速直線運動が空気抵抗によって止められてしまうからです。
この時、空気抵抗はマイナス方向の力として働いてます。
こういった空間では、運動の法則の主要部分、
「運動は力の大きさに正比例し、力を加わえた方向に直線で進む」
が重力や空気抵抗の影響で成立できません。
そうなると運動量の保存も成立できず、作用反作用の法則も不完全となります。
よって、ニュートン力学は崩壊します。
まとめると、物体に継続的に力が加わり続ける空間、
すなわち常に物体に加速度が生じる空間が「非」慣性空間であり、
その中ではニュートン力学は崩壊するのです。
ただし、この「継続的に、常に」という条件は重要なので忘れないでください。
一瞬だけ力が加わって終わるなら、それは通常の慣性空間で
普通に物体に力が加わったのと同じ条件として扱えるため,
基本的に、ニュートン力学で対処できます。
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