■私の理想の流体は粘性の無い人です
さて、そんなわけで摩擦と粘性を考えると、非常に複雑な話になります。
が、幸いにして高速航空機などを例外にすれば、
これを無視して計算してもほぼ実験結果と一致する事が判ってました。
だったら、とりあえず粘性の影響を無視しておき、
(となると自動的に摩擦も無効になる)
どうしても必要な時のみ、これを考慮すればいいじゃない、という事になります。
それが完全流体(理想流体)と呼ばれる「仮想流体」による計算です。
■粘性を持たない単純な流体を想定する これを完全流体と呼ぶ
として、これを元に流体の運動を計算すれば話は簡単、という事です。
力学ではおなじみの、とにかく単純化して考える、というヤツですね。
ただし、これでも本気でやると、かなり複雑な話になるんですけど…。
とりあえず話が簡単になったとろこで、まずは基本中の基本、エネルギー保存の法則が、
その完全流体を使った流体力学ではどうなるか、を考えて見ましょう。
通常のニュートン力学の場合、物体が持つエネルギーの保存法則は
位置エネルギー + 運動エネルギー = 全エネルギー(常に一定)
ですから、
質量×重力加速度×高さ(位置エネルギー) + 1/2×質量×速度×速度(運動エネルギー)=一定値
(mgh +
1/2mvv =
一定値)
という形で、示されます。
(熱力学を考慮するなら熱エネルギーを入れる必要があるが、単純化のため今回はパス)
これは位置エネルギーが大きくなれば運動エネルギーは小さくなり、
その逆もまたしかりで、常に物体の持つエネルギーの総量は変わらない、という事を意味します。
自由落下運動などは、この単純な法則がそのまま適用できるので、
そのエネルギーの総量は常にスタート地点の位置エネルギーに一致する事になります。
質量×重力加速度×落下開始時の高さ(mgh=Fh)ですね。
流体力学では質量が密度に変わり、さらに力とエネルギーが同じものになってしまうので、
この点を考慮して上の式を変形すると、
密度×重力加速度×高さ + 1/2×密度×流速×流速 + 静圧力&エネルギー
= 常に一定の全圧&エネルギー
(ρgh
+ 1/2ρvv + P = 一定の全圧&エネルギー)
といった形になります。
単純に質量が密度に替わり、そこに必ず流体に生じる力、静圧を加えただけです。
ちなみにこの数式をゼロからキチンと導くと、相当、面倒なんですが、
流体力学では密度は質量になる、エネルギーと力は同じものである、
という基本を抑えていれば、以上のように簡単に導いてしまえます。
ただし流れが途中で圧縮されて密度が変わると話が変になるので、
■圧縮は無い流体である(非圧縮流体)
という前提も加わります。
さらに力とエネルギーの保存則ですから、最初の流れに途中で新たな力が加わると、
これまた保存則が成り立たなくなり、話が変になります。なので、
■流れは一定で余計な力は外部から加わらない
という前提も追加されます。
よって
■粘性を持たない単純な流体を完全流体として想定する
■圧縮は無い流体である(非圧縮流体)
■流れは一定で新たな力が加わない
という条件の下でのみ成立する事になりますね。
このエネルギー&力の保存法則の式を
「ベルヌーイの定理」と呼びます。
流体力学の基本中の基本の定理です。
ただし通常、航空機や船舶などでは、水平方向の流れを問題にします。
なので位置エネルギー、落下の力(=エネルギー)はほぼ無視できるので、
航空機に関連する場合は、最初の位置エネルギーを0として、
1/2×密度×流速×流速(運動エネルギー&力) + 静圧力&エネルギー
= 一定の全圧&エネルギー
(1/2pvv + P = 一定)
という形で示される事が多いです。
この式は動圧と静圧を合わせた全圧は常に一定値である、という事を意味してます。
流体力学において力とエネルギーは同じものですから
当然、エネルギーも一定値で保存されており、
これは両者の保存則、エネルギーと力の保存則が同時に成り立っていることを意味します。
で、式を見ればすぐに気が付くと思いますが、密度が不変という状況下では、
動圧の大きさは流体の速度だけで決定されます。
すなわち速度が落ちてれば動圧が下がります。
が、全圧は一定で保たれるので流体の速度が落ちて動圧が下がると、
静圧力&エネルギーの数値が上がってこれを補う事になる、というのが読み取れるのです。
すなわち、
●流体の速度が下がる(動圧が下がる↓)と静圧(気圧)は上がる(↑)
という事を意味します。
当然、その逆もまたしかりで、
●流体の速度が上がる(↑)と流体の静圧(気圧)は下がる(↓)
というのも、同時に見て取れます。
これが航空力学の基本中の基本となりますから、まず覚えてください。
ちなみに、力&エネルギーの保存だけでなく質量保存の法則も
流体力学では成立します。
こちらは「連続の式」と呼ばれる方程式で示され、とりあえず式だけ書いて置くと、
密度×流速×通過する断面積=一定
ρVS=一定
となります。
ちなみに運動量の保存則も成立するのですが、
それこそが古典力学の極北、ナビエ・ストークス式なので、
この記事では取り扱いません。
そこまで踏み込んだ内容を私がやるわけないのです。
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