■海軍の園



先に資料展示室の中2階部分に登ってしまい、そこから機体展示室を見る。
まあ、詰め込めるだけ詰め込んだなあ、という感じです(笑)。
でもって、ここってビルの2階なんだよなあ、と考えると、
いかにこの博物館が巨大なのか、がわかるかと。

なので展示の機体がF4F(FM)とかA4スカイホークとか、
同時代の機体の中でも小型機ばかりなのは
展示面積と床が耐えられる重量限界といった事情によるんじゃないでしょうか。

ちなみに、先に見た狭い入り口から
よくこんな機体を中に入れたなあ、と変なとこでも感心してしまいます。

まあ、分解して中で組み立てたのでしょうが、
組み立てスペースもほとんど無いんですよ、ここ。



さて、では展示機の紹介を。
まずはゼロ戦のライバル、
グラマン社のF4Fワイルドキャット…と見せかけて、
実は同機をゼネラルモータース配下のイースタンエアクラフト社が
ライセンス生産したFMの1。

ワイルドキャットは日本だとゼロ戦相手のヤラレ役、
という印象がやたらと広められてますが(笑)、
現実として開戦時に配備されていたワイルドキャットは
ゼロ戦と互角と言ってよい性能を持っていた機体です。

格闘戦に入ればゼロ戦圧勝ですが、入らなければ速度で互角、
それ以外の運動性能ではF4Fがかなり有利でした。
(ただしF4Fは後期後になるほど性能が落ちてゆく機体(笑)だが…)
つまり、わざわざ格闘戦に入らず、一撃離脱に徹していれば、
ゼロ戦は特に恐ろしい存在でもないわけです。

実際、この博物館の展示によると、撃墜損害比は6.9対1で、
F4Fが1機撃墜されるまでに日本機を7機近く落としている、となります。
(ただし対戦闘機だけでなく、艦爆、艦攻、さらには偵察機なども含むが)
まあ、ここら辺りの数字がどこまで正しいかは微妙ですが、
アメリカ側は、F4Fがそこまでゼロ戦に劣っているとは考えていなかった、
という辺りは知っておくべきでしょう。
とにかく旋回による格闘戦だけを禁止しておけば、
F4Fでも特に問題なく戦えたわけです。

ついでに憎きグラマンという感じの機体ですが、
実際はグラマンは、あまり生産しておらず(笑)
総生鮮数約7800機のうち約5300機がイースタンエアクラフト製でした。
これは全体の68%にもなります。

アメリカ海軍機の場合、メーカーが変わると、
機体名称も変更になるため、イースタン製のワイルドキャットは
正式にはF4FではなくFMと呼ばれます。
FMには二つの型があり、初期のがFM-1、後期の生産型がFM-2です。
ちなみに展示のFM-1は2機しか現存機がなく、それなりに希少な機体。

余談ながら、FM-2の現存機が多いため、FM-2が機体名称と混同されてるのを
たまに見かけますが、機体の名称はあくまでFMだけです。
FM-2の2は、F4F-3の“-3”の部分に当たる数字ですね。

ついでに展示の機体は戦争中、
カンサス州で練習機として使われていた機体だとか。



お次はぶら下げ展示の、ダグラス社製SBD-6 ドーントレス。
ちなみにdauntlessは豪胆な、不屈のという形容詞で、
アメリカには珍しい命名です。
(イギリスの場合、形容詞名称の兵器はいくらでもあるが)

今回の旅行記では初登場となる急降下爆撃機です。
前にも書いたように、上から落とすだけの水平爆撃ではまず当たらないので、
爆弾抱えて目標に向けて急降下、ここからなら外れないと思われるとこで
爆弾を投下するのがこの手の機体となります。

戦艦の主砲より空母が怖いのは、
その長大な射程距離(=航空機の航続距離)と同時に、
ほとんど確率と運という戦いになる砲撃戦に比べ、
急降下爆撃による、はるかに高い命中率が期待できたからでもあります。

もっとも、水面上の構造物を爆弾で破壊しても
そう簡単には大型船は沈まないので、
水面下に損害を与え、さらに空気よりはるかに密度の高い水による
強力な衝撃波で船体を破壊する魚雷による攻撃、
つまり雷撃機も出てくるわけです。

ドーントレスは大戦前半で使われた機体ですが、
日本側からすれば、あのミドウェイの悪夢を引き起こした
急降下爆撃機でもありますね。

ちなみに展示の機体は最終生産型(-6)だ、という以外一切情報なし。



突然、ベトナム世代の(1956年初飛行)のジェット攻撃機が登場。
A-4Cスカイホークです。
でもって、この機体も来歴は一切不明です。

まあ傑作機のひとつなのですが、博物館開館の1976年当時、
まだまだ現役だったので、選ばれたんでしょうかね。
ついでに、機首部横に槍兵のごとく長い棒を持っていますが、
これは空中給油のときに使う給油パイプです。
燃料タンクの位置から、こんな形状になってしまったらしいです。

アメリカ海軍、海兵隊はもちろん、イスラエル空軍でも活躍した万能機ですが、
実は最高時速でも970km前後で、音速どころか、
21世紀の旅客機よりも遅かったりします…。
その代わり、運動性は優秀で、海軍の展示飛行部隊、
ブルーエンジェルスがF/A-18を採用する前、12年近く使っていました。


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