■登れ艦橋 力の限り

さて、今回の探検は艦橋部です。
前にも書いたようにアメリカが第二次大戦直前に造った新世代戦艦は
レーダー世代の戦艦のため、その構造は後部の背の高いレーダー塔と、
その前にある低い艦橋部とに分かれます。






今回はその中でも近代化改装で造られた戦闘指揮所CEC、
そして2階建艦橋の艦隊指揮用艦橋と、航海用艦橋を見て行きます。
艦橋が2階建てで、下が艦隊司令室、というのは
イギリス艦と同じ構造ですね。
(ちなみにCECのあった場所が旧提督の部屋。
ここを追い出されて前回見た1階の豪華部屋に移動した)

写真でCECの前にいる案内係のおじいちゃんは
他の艦では装備されてない可能性もあるので、この点もご注意アレ。
装備されてる場合は、親切で話は面白いのでラッキーです。
ただし、適当なとこで切り上げないと、話が終わりません(笑)。

さて、何度も艦橋とアンテナ塔は別物として説明してますが、こうして見ると
なんだか一体化して同じ構造物じゃないの、と思うかもしれません。
が、艦橋の中には装甲指令塔部(Armoured Conning tower)と呼ばれる、
分厚い装甲で囲まれてた装甲塔が入っており、
これがアメリカの戦艦の特徴の一つにもなっています。
アンテナ塔にこの構造はありません。

第二次大戦期の新世代艦1号、ノースカロライナ級の艦橋を見ると、
なんだか潜水艦の司令塔みたいな丸みを帯びた塔があって、
そこに丸窓がついてるだけ、という冗談みたいな艦橋になってます。

これが戦艦の艦橋?と思ってしまいますが、
これこそが406mmの側面装甲を持つ装甲司令塔で、
その中に航海艦橋やら戦闘指揮所などを押し込んだ結果のスタイルなのです。
ちなみに装甲司令塔には、Bttle conn  戦闘司令塔という愛称(?)もあるそうな。

それに比べるとアイオワ級の艦橋はまともジャン、と思ったらこれまた大間違い(笑)。
実はアイオワ級も同じような構造で、装甲司令塔周囲に
無装甲の艦橋部を乗っけただけです。
つまり、その艦橋部はこんな構造になってます。



アイオワ級の艦橋の外壁を外してしまうと、
中にはオレンジ色の線で描かれたような、
装甲のカタマリの円筒形の塔が入っています。

この部分の図面が見つからなかったので
艦幅からの逆算で凡その数字ですが、最大直径で約5mあります。

ここは天井部(前回見た戦闘指揮所の天井)で184mm、
側面に至っては439mmという、引きこもりに与えたら打つ手なし、
というくらいの頑強な装甲がなされています。
ちなみに各装甲厚は、天井はイヤよ(184)、
壁よサンキュー(439)と覚えると暗記しやすいでしょう。
もちろん、なんの役にも立ちませんが。

この装甲司令塔は16インチ(46.2cm)砲の1トン級(2240ポンド)砲弾の
直撃に耐えられる設計になっていた、というから相当なものです。
指揮&操縦系がやられては
戦艦もただの浮かぶ鉄くずになってしまいますから、
アメリカの新世代戦艦10隻は、装甲厚が多少異なるものの、
基本的に全てこの構造になっています。
それ以前の戦艦は、よう知りませぬ(手抜き)。

ちなみに、この側面439mmの装甲厚は
アイオワ級艦内のもっとも分厚い装甲の一つで、
これと同じ位の厚さを持つのは
先に見た主砲砲塔と砲座部(バーベット)の正面だけです。
アメリカ戦艦で最も装甲が厚いのは船体中心部ではなく、
主砲前面と指令塔部だ、というのは覚えておいて損はないと思います。

が、さすがにこんな巨大装甲物体を艦内まで続けていたら、
中心部だけで異常な重さになってしまいますから、
艦隊指令艦橋から下は少し細くなって、さらに装甲も406mmに減ってます。
それでも、このまま艦体心臓部(Vital part)の装甲まで繋がっており、
なるほど、戦艦の総排水量は増えるわけです。

ちなみに1982年の近代化改装で作られたCECは完全にこの装甲の外にあり、
もはやこの時代に装甲なんざ意味が無い、と割り切っていたんでしょうね。

さらについでながら、大戦時中の戦闘指揮の頭脳部、
アナログコンピュータなどを積んだ砲撃座標追尾室は、
装甲司令塔の外ではありますが、
それでも艦体心臓部(バイタルパート)の装甲下にありました。
第二砲塔の後ろあたりにあったはずなんですが、
今回は全く近づけなかったので、詳細はわかりませぬ。



艦橋中に入ると、その真ん中に円形の装甲室があって驚くのですが、
実はこれこそが装甲司令塔の本体で、
艦橋どころか屋上から艦内にまで繋がってる装甲塔の一部なのです。

外から見るとあんだけデカイ艦橋も、
中にこんなのがあるため、意外に狭いのがわかると思います。
この点は現代の護衛艦の方がよほど広いでしょう。



実は、アイオワ級の装甲指令塔も航海用艦橋から下は
その前面の一部がむき出しになってます。

矢印の先、艦橋を支えてる支柱のように見える円筒部がそれで、
こうして見ると、途中から折れ曲がりつつ装甲塔が続いてるように見えますが、
角度が変わってるあたりから下は、実はただのカバーです(笑)。
実際の装甲司令塔は、上の図のようにやや細くなった上で
このカバーの中を垂直に艦内にまで続いてます。

ついでに、1階の艦体指揮用艦橋は、
前方向の拡張部分がなく、そのまま装甲司令塔に
取り込まれる形になってるのにも注意してください。
ここの本体はあの窓ガラス部ではなく、円柱部、装甲司令塔の方なのです。

さらに艦橋構造全体からすると、装甲司令塔はかなり細いのにも注目。
この外にいる人間は、戦闘時に死んでも仕方ない、と割り切られてるわけで、
そう考えると戦艦というのは怖い兵器ではあります。



最後にオマケ。

こちらはアメリカが大戦中に17隻(笑)も建造しちゃった
世界最強正規空母、エセックス級空母の艦橋内部です。
ちなみに、生産の勢いが停まらなかったため(笑)、
戦後もさらに7隻が完成、最終的に24隻も造ってしまいました。
まあ、終戦時のアメリカ海軍の打撃力は、ホントに凄まじいものがあります。
ついでに言うなら、終戦段階で次の新型空母 ミッドウェイ級も3隻が建造中で、
そのうち2隻はほぼ完成していました。

戦争中だけで正規空母が17隻完成ってあーたそれ、
日本がミッドッウェイで受けた損失の4倍以上の数ですよ…。
そして、先にも書いたように、これだけ造られたエセックス級ですが、
大破はあっても撃沈はゼロなのです。

ちなみに日本軍が撃沈した空母は、既に輸送空母になっていた
空母1号CV-1 USSラングレイを含めても全部で5隻のみ。
どないせいっちゅうねん…。
前にも書いたように終戦時に戦力のピークを持って来たのが
アメリカであり、この辺りは見事というほかありませぬ。

で、この写真はCV-12(退役時はCVS-12) USSホーネットのもので、
こちらも艦橋の後部に装甲部分があり、操舵手などはここに入ります。

ただし、やや薄めの装甲になってる上、
戦艦のように装甲司令塔構造にはなっておらず、
実はこの裏は普通に薄いドアがあって、そのまま艦橋の外に直接出れます。
つまり、あくまで正面方向の装甲のみ、という感じでした。
ついでながら、他のエセックス級は知りませんが、
USSホーネットでは、この装甲の中に艦長室があります(笑)。

この手の艦橋内装甲は、次の主力になる予定だった
ミッドウェイ級でも採用されてますから、
アメリカ海軍の標準的な装備だったようです。
さすがに原子力空母、ニミッツ級以降ではないと思いますが、
艦橋に入った事が無いので断言はできまぬ。
公開されてる画像を見る限りでは無いみたいですけども。

ついでにこの装甲、目視測定ですが100mmあるかどうか、
というレベルに見えました。
砲撃戦が前提となってない空母なのでこんなものなんでしょう。
(相手主砲の射程距離より遠くから攻撃するのだ)

が、実は戦争が始まってみたら、空母が食らうのは
戦艦主砲並の破壊力を持つ敵航空機からの爆弾だ、
という事が判明する事になるんですが…。


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