さて、この日、朝に目が覚めてテレビを付けたら突然、ルノー戦車が塹壕を乗り越えてる映像が流れて来て腰が抜けるほど驚く。
一晩寝てる間に、世界で何が起きたのだ、と思ったら早朝から映画の放送中で、1927年の「Wings」という作品だと知る。幸い、サイレント映画のためセリフは英語字幕でストーリーも理解でき、ボーっと見ていたんですが、これが凄まじいシロモノでした。

アメリカから欧州の第一次大戦にやって来た、ヒロインと二人の男の三角関係が主題なんですが、正直、そんなものはどうでもよく(笑)、特撮なんて無いこの時代、空戦、陸戦、どちらも凄まじい物量撮影となっています。おそらく監督の趣味で暴走したとか思えないその映像は、見ていてアゴも外れんばかりに驚くようなシーンの連続でした。

これに比べたら、「空軍大戦略」も「地獄の黙示録」も「プライベート・ライアン」も、そしてお笑い航空映画の「トップ・ガン」も児戯に等しい、馬鹿みたい、という位の映像が、参ったか、これでもか、と流れるのです。
台北のホテルで朝から一人で「マジですかー」「死ぬ気ですかー」と独り言を連発しながら見てました(実際、撮影中に死者がでてるらしい)。



これ、手回し式、あってもゼンマイ式のカメラの時代に、機上から撮影してるんですよ。陸上で逃げ惑うエキストラの兵隊さんも半端な数ではなく、出て来る兵器も一部を除いて、恐らく全てホンモノ。ついでに言うなら、あ、これデススター戦の元ネタでは、というシーンもチラホラ。

いや、スゴイものを見た、と帰国後にあわててDVDを買ってみたら、第一回アカデミー賞作品賞、技術効果賞(Best Engineering Effects 初めて聞く賞だと思ったら第一回のみあった賞)の二冠を獲った作品だったと知る。
ちなみに監督はウィリアム・A・ウェルマン(William A. Wellman)で、1949年の作品、「戦場 (Battleground)」の監督じゃん、と驚くと同時に、なるほどと思う。

「戦場」は、1949年、終戦直後と言っていい時期に造られたバルジの戦い(Battle of the Bulge)いわゆるアルデンヌからバストーニュにおけるドイツの大反撃をアメリカの101空挺部隊が食い止める戦いを題材にした映画です。この戦闘は後の「バルジ大作戦」の映画の元ネタですが、「戦場」の方はその後のアメリカ戦争映画と違い、英雄的な兵も、バカで残酷なドイツ兵も出てこない、淡々と戦場の日常を描き、アメリカ兵が戦況もよく判らないまま戦い、死んでゆく話です。

しかも現場に派遣された小隊の描写に徹してるので、司令部もお偉いさんも出て来ません。なので兵士たちはもちろん観客までもよく訳の分からないまま話が進みます。そして主人公たちは命令のまま戦い、生き残り、死に、負傷し、最後にパットンの戦車軍団が駆け付けた後、撤退命令を受けて静かに歩いて戦場を去る、という地味な映画なのです。
よってその後、1950年代以降に量産されたアメリカ万歳、アメリカ軍最強、ドイツは馬鹿、といったステレオタイプ的な戦争映画とはまるで違うものでして、よくこんな映画をつくれたな、と感心します。その代わり退屈と言えば退屈な内容なんですが、一見の価値はあります。

特に実際に、戦場帰りの俳優、関係者がいくらでもいたので戦闘の描写は妙にリアルで、移動が終わるとひたすらタコつぼを掘るとか、M1ガーランドのマガジンと言うか弾倉の扱い方とか、寒さで遊底が凍ってしまう描写とか、その手の人には、おおおおお、と思わせる描写も多いです。最近はアマゾンのプライムビデオなどの配信でも「戦場」を見れますから、興味のある人はぜひ一度、ご覧ください。

ちなみにウェルマン監督は、第一次大戦時、アメリカ参戦前にフランスで設立された志願兵による義勇航空隊、ラファイエット航空隊(Lafayette Flying Corps)のパイロットでもありました(一部で有名なラファイエット飛行小隊 ではないのに注意。ちょっとヤヤコシイがラファイエット航空隊の中にあったのがラファイエット飛行小隊で、それ以外にも多数の小隊があった。厳密にはEscadrilleはフランス空軍独自の編成でアメリカの飛行小隊より多くの機数を持つ最低単位の部隊。CorpはForceに次ぐ最も大きな組織で航空群といった所)。

ちなみにウェルマンはニューポール17と24に乗って3機撃墜(Kill)、5機撃破(Out of control、第二次大戦以降で言う所のProbables)を記録してます。エースパイロットにはなれなかったものの、こんな経歴を持つ映画監督は他にいないでしょう。すげえな。ついでに、ドイツ軍の対空砲火で撃墜もされ、生還はしたもののこの時のケガが原因で、生涯片足を少し引きづっていたとされます。

といった辺りの情報に興味を持たれた方は著作権期限切れの安いDVDが日本でも手に入りますから、「つばさ」の一見をお勧めいたします。ホントに腰が抜けるような衝撃を受けますよ、これ。



といった思わぬ映画鑑賞後、この日の朝食もホテルのビッフェで。中華とポテトフライですが、おかゆ、美味しかったです。



外に出て見ると晴れてる。この日以降は、晴れ男の実力回復、という感じで春の沖縄以来の不調を吹き飛ばす快晴が続きます。



でもってさっそく今日も台北駅の地下鉄駅に向かう。本当は少し早く出て駅の周辺を散歩しようと思ってたんですが、例の映画をうっかり最後まで観てしまったため、すでに午前8時半、本日の目的地の故宮博物院はすでに開館済み。よって速攻でそちらに向かうことにする。早く行った方が空いてるでしょうしね。
 


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