個人的にはあまり好きではない2008年、ホンダ最後の年のホンダRA108。

BARのスポンサーのタバコ屋、BAT(ラッキーストライクのメーカー)は2005年をもってスポンサーを撤退してしまいました。
その結果2006年からチームを引き継いだホンダが、第一期と同じ、コンストラクターズとしての参戦を開始します。すなわちフェラーリやメルセデスのようにエンジンから車体までホンダのチームで開発、という事です。…それを拒否して2000年からBARにエンジン供与をやってたんじゃん、と思ってしまう所ですが、こういった迷走が第三期の特徴なのかもしれません。

ちなみに第三期における唯一の一勝はその最初の年、2006年のハンガリーGPでバトンがあげたもので、これは1967年のサーティス以来のホンダチームの勝利でした。なのでコンストラクターズとしてのホンダは、第一期の二勝と、この一勝で計三勝してるのです。
ちなみにホンダ第三期の初勝利はバトンの初勝利でもあり、実に115戦目で得た勝利でした。これは同じホンダで遅咲きの初優勝を遂げたマンセルの72戦初勝利よりはるかに遅いものとなっています。ちなみにバトンの同僚だったバリチェロもフェラーリで初勝利するまで125戦もかかった人という、不思議なコンビでした。

その2006年にはバトンは3位にも2回入っており、この結果、コンストラクターチャンピオンシップでホンダは4位に入ります。そこそこのスタートに見えますが、これがホンダチームとしては最高位で、以後は一勝もできないまま2007年8位、2008年に9位、そして撤退となるのです。

その撤退の年の車がこれで、バリチェロがイギリスGPで3位に入賞したものの、それ以外は表彰台にすら上がれず、6位二回、7位一回、あとは入賞すらできずに終わります(この年は8位までに入賞ポイントが与えられた)。 惨敗ですね。

なので失敗作、という以外書く事がありませぬ…



正面から。

この頃からF-1の空力部品は複雑怪奇の度を深めて行くのですが、ホンダの複雑怪奇は機首の上に乗ったV字形の部品でした。ダンボウィングとか呼ばれていたようですが、何のためのものかはよく判りません。この頃になると風洞実験でしか判らないデータを基に開発されており、しかもF-1の場合、むき出しで高速回転する四つの車輪という、盛大に気流を乱す空力的には頭の痛い部品があるため、もはや素人には何がなんだか見当もつかない、という世界が展開してます。

その極北の一つがこのRA108であり、ホンダ史上、第一期の3000t F-1と並んで、もっとも見苦しい車であろうと個人的には考えています。
 
 
横から見るとさらに何がなんだかわからない。
1990年代後半から、規定(レギュレーション)により後部ウィングの位置が低く抑えられたので、車体が間延びした上にケツが垂れてる、というあまりカッコよくない車が登場する事になりました。ついでに車体後部の魚の背ビレみたいな部分も個人的には嫌いです。
私がF-1が一番カッコよかったのは1988年、最後のターボF-1と1990年代前半の車と思ってる理由の一つがこの辺りの構造の変化です。ついでに1960年代の1500tF-1も結構好きですが。

ちなみに翌2009年から大幅に規定(レギュレーション)が変り、再びリアウィングは高くなるのですが、幅が狭いままのため、どこか貧相でやはりあまりカッコよくなりませんでした…。ついでに2017年から再びリアウィングは低くなってしまい、さらにカッコ悪くなってます。



この車はスポンサーの名前が無く、earth dreamsという文字が書き込まれ、青と緑の塗装が車体になされています。

おそらくバックミラーに移る時、背後の森に紛れて見えなくし、相手が油断したスキに抜いちゃうのを狙った迷彩でしょう。さらに横に並んだ瞬間に、となりのドライバーがearth dreamsってなんだよ、と悩んでブレーキングをミスするのを狙った高度な心理戦だと思われます。いくら当時のホンダだって馬鹿じゃないんですから、そのくらいは考えて当然です。

ついでにボディの横から飛び出した翼断面部分、どう見てもほぼ上下対象の遷音速対策翼断面なので、おそらくホンダは車が音速直前まで加速しても、十分な降力(ダウンフォース)を得られる秘密技術をすでに獲得していたのだと思われます。

とりあえず翌2009年、このearth dreams 塗装とホンダエンジンにオサラバしたブラウンチームは、メルセデスエンジンで、コンストラクターズ、そしてドライバーズの両チャンピオンをあっさり設立初年度に決めてしまいます。ちなみにホンダはタダ同然、それどころか手切れ金まで渡しての撤退でした。

…世界は不思議で満ちてますな。


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