1984年の9月9日のサンマリノGPが終わった直後からホンダのF-1エンジン開発チームの指揮は桜井さんが取る事になったのはすでに見ました。

これにより翌1985年後半戦に入るまでにF-1番長 川本さん、そして整備担当で現場監督だった土師(はじ)さんといった第一期ホンダF-1経験世代がチームを去り、以後は本格的に新世代による運営に切り替わり、いよいよ無敵ホンダの伝説が始まる事になります。ただしこの辺りの世代交代は決して順調に行われたわけでは無い、というのはまた後で見て行きましょう。

ちなみに84年まではホンダはF-2にも参戦していたのですが、9月23日の第11戦が最終戦だったため、こちらは土師さんが最後まで面倒を見て終わったようです。

さて、ここで桜井「総監督」が本格的に指揮を執る事になった1985年から最終年92年までの第二期ホンダF-1エンジンの戦績を確認して置きましょう。ちなみに桜井さんは87年で「総監督」を引退、その後は88年から90年までは後藤治さんが、91、92年は安岡章雅さんがプロジェクトリーダーの肩書でその仕事に就いています。
ちなみに安岡さんは第二期F-1の責任者になりながら後にホンダを去らなかった唯一の人なんですが、驚くほど情報が少ない人で、中村さん、桜井さんといった個性的な面々が多い歴代ホンダのF-1責任者の中でも特異な存在となっています。



ホンダはエンジン屋として83年の途中からF-1に復帰、84年に一勝をあげたものの以後はパッとせず、とても年間チャンピオンを狙えるエンジンではありませんでした。その状況が一気に変わったのが85年最終戦までの三連勝でした。その前のデトロイトGPと合わせてこの年に四勝すると、以後は常勝ホンダの時代が始まる事になります。

そもそもホンダの年間複数勝利はこの1985年が初めてだったのですが、翌1986年には16戦9勝を上げてコンストラクターズチャンピオンを初めて獲得、以後、1991年まで6年連続でその地位を守り抜き、さらに1987年からはドライバーズチャンピオンのエンジンも5年連続で獲得する事になりました。

とりあえずこのコンストラクターズ6連覇のウチ、最初の2年はウィリアムズ、その後の4年はマクラーレンと組むのですが、その間にピケ(一回)、プロスト(一回)、セナ(三回)の三人がドライバーズチャンピオンになっています。
それ以外にも1987、88年にはロータス、1991年にはティレルにもエンジンを供給、この3年間だけは2チームへのエンジン供与となりました。ただしロータスもティレルもチャンピオン争いには関係して来ないので、ここではとりあえず忘れましょう。ちなみにこの辺りは日本人F-1ドライバー、中島悟さんの活動が影響してるのですが、その辺りもまた後で。

とりあえずホンダの快進撃が始まる1986年から最後の両チャンピオンを獲った1991年までのドライバーを紹介しておきます。赤く塗られているのがドライバーズチャンピオンを獲った人。1986年はドライバーズを取り損ねてるので、該当者なしです。参考までにどちらのチャンピオンにもなれなかった1985年は、ケケ・ロズベルグとナイジェル・マンセル、同じく1992年はゲルハルト・ベルガーとアイルトン・セナでした。

 年    
 1986(ウィリアムズ) ネルソン・ピケ ナイジェル・マンセル 
 1987 ネルソン・ピケ ナイジェル・マンセル 
 1988(マクラーレン) アラン・プロスト アイルトン・セナ
 1989 アラン・プロスト アイルトン・セナ
 1990 ゲルハルト・ベルガー アイルトン・セナ
 1991 ゲルハルト・ベルガー アイルトン・セナ

ちなみに6年連続コンストラクターズチャンピオン獲得は、1960年代末から1970年代にかけて事実上F-1を支配していたエンジン、フォード・コスワースDFVの7連覇に次ぐ歴代に二位の記録となっています。
ただしこの記事が書かれた2019年の段階までで6連覇を成し遂げたエンジンは他にルノー(1992〜1997)、フェラーリ(1999〜2004)、メルセデス(2014〜2019)があり、4社で同率2位の記録なんですけれども。

ついでに気が付いた人も居るかと思いますが、ホンダが初チャンプとなった1986年以降は同じエンジンが6年連続して獲得し続けるという異常な時代となっており、1986年から2004年までの19年間で、ホンダ、ルノー、フェラーリの三つのエンジンがそれぞれ6連覇を成し遂げました。F-1の歴史の中でも特異な19年間ともいえます。その時代を表にするとこんな感じですね。

 年  エンジン
 1986〜1991(6年)  ホンダ
 1992〜1997(6年)  ルノー
 1998  メルセデス
 1999〜2004(6年)  フェラーリ

*全てコンストラクターズチャンピオンのエンジンとして。1986年のホンダのように年によってはドライバーズチャンピオンは逃してる

その連続記録にちょっかいを出してたのが(笑)メルセデスのエンジンで、1998年に一度だけチャンピオンを獲ってルノーの7連覇を阻止したのですが、翌年からはフェラーリの天下になってしまったのでした…。ちなみにメルセデスはなぜかそういった傾向があり、2009年にもフェラーリの三連覇を阻む形でチャンピオンエンジンとなりながら、翌年からはルノーエンジンを積んだレッドブルが四連覇を成し遂げてしまうのです。

もっともその後、2014年から2019年まで6年連続で車体を含めたメルセデスチームとしてコンストラクターズチャンピオン&ドライバーズチャンピオン両タイトル獲得と言う記録を後に打ち立てているので、かなりスゴイことはスゴイんですけども。
同一エンジンの両タイトル6連覇はフォード・コスワースに次ぐ単独2位、さらにチームとしてドライバーズ&コンストラクターズ6連覇は単独一位(2位はシューマッハによる5連覇を成し遂げた2000〜2004年のフェラーリ)となっていますから、メルセデス恐るべしなのです。


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