■垂直離着陸の誘惑



さて、では実験機の館ラストスパート、そして輸送機コーナーまで今回は見て置きます。
写真の左手が実験機の展示、右辺りからが輸送機の展示、
一番奥が大統領専用機、いわゆるエアフォース・ワンの展示で、ここはまた次回。
すなわち、今回で終わりませんでした…
フフフフ…馴れてるさ、このパターン…



ライアンX-13ヴァートジェット。
1955年12月に初飛行した、久しぶりに登場の純粋なXナンバー実験機ですね。
Vert jet は垂直離着陸(Vertidal)ジェットの略。
その名の通りこの姿勢のまま垂直に上昇、離陸して、着陸時はこの姿勢で横滑りしながら、
奥に見えてる発着台に着陸する垂直離着陸機です。

空軍が垂直離着陸ジェット機の基本データを得るために発注した機体で、
同じ垂直離着陸でも、後のハリアのような複雑な推力変更装置は持たず、
尾部の固定ジェットエンジンだけで離着陸可能となってました。

そもそもは海軍が潜水艦から運用できるジェット機の開発をライアン社に依頼、
それに応えて垂直離着陸ジェットして開発していたもの。
ただし無人機で実験してる途中で海軍の計画は中止になったらしいのですが、
それを空軍が引き継いだ機体らしいです。

この姿勢のままホバリング(空中浮遊)も可能で、
その姿勢で前後に自由に動けるほか、飛行中にこの姿勢になってそこで静止、という芸当も可能でした。
その間、パイロットは上を向いたままですから、操縦は難しかったと思いますが…

ついでに見事な無尾翼デルタですが、最高速度は600q/h以下だったとされ、
高速飛行向けであるデルタ翼に殆ど意味がない、という設計になってます。
なぜデルタ翼にしたのかは謎ですが、機体が極め得て小さいので、
燃料タンク、武装用のスペースを確保したかったのでしょうか。



横から見るとこんな感じ。

手前の翼端部に見えるパイプは姿勢制御用のジェット噴射口。
おそらくジェットエンジンの圧縮空気を使ってたと思うんですが詳細は不明。
さらに胴体が短く、垂直尾翼の効きが悪いので(力点の位置が支点(重心点)に近すぎる)、
これお補うため主翼端にも安定板がついてます。

注目は垂直尾翼の舵面の小ささで、これじゃほとんど効かないでしょう。
どうせこの位置ではまともに舵は効かない、
と見切って姿勢制御用のジェット噴射で操縦してたんじゃないかと思われます。

極めて小型な機体なので、胴体収納式の脚は無く
テスト飛行中は固定脚をつけ、滑走路からの離着陸も可能にしてました。
このため、展示の垂直離着陸用発射台を使用する場合は、これを外します。
この写真で胴体横に見えてる骨組みが主脚の取り付け部で、
この状態で運用する場合は車輪部を外してます。

ついでにこの発射台、本来はトレーラーに積まれて移動可能となっており、横向きに機体ごと倒せました。
V-2ミサイルみたいに、あちこちに移動しての運用を考えてたのかもしれませんが、
予算不足とさすがに実戦投入は無理、という判断からあくまで実験機だけで終わってます。

ちなみに展示の機体は2機生産された内の2号機。
かなり野心的な実験機ながら事故損失等は無く、
1号機もサンディエゴの航空宇宙博物館に現存してるようです。




ベルXV-3。
1955年8月に初飛行した、世界初のチルトローター垂直離着陸機。
XVというのはX番代の実験機とはちょっと違って、主にこういった垂直離着陸用の実験機に付いてた型番でした。

離着陸時は翼端部のローターを上に向け、飛行時はこれを正面に向けてプロペラにして飛ぶ、
という機体で、言うまでも無く冷戦の館で見たオズプレイの祖先にあたります。
すなわちティルトローターの基礎技術は1955年にすでに完成していながら、
それから34年経ってようやくオズプレイが初飛行、そこから実戦配備までさらに18年もかかったわけです。
(ついで言えば、その間にスミソニアンで見たティルトローター第二世代実験機、XV-15があった)

このあたりは物理的な航空技術の問題に加えて、この手の機体の操縦の難しさ、
すなわち失速事故の起きやすさの問題が大きく、これは完全なフライバイワイア、
コンピュータ制御による機体制御が成熟するのを待つ必要があった、という面が少なからずありました。

話をXV-3に戻すと、もともとは空軍陸軍共同開発の垂直離着陸実験機で、
すでに通常の航空機の開発は見切りをつけて、ヘリコプターメーカーに舵を切っていた
当時のベル社が受注に成功したもの。

後のティルトローター機と違ってエンジンは胴体内に1基積まれてるだけで、
左右のローターは胴体内から回転軸(シャフト)で駆動してます。

ちなみにベル社の機体ですから、もちろん事故で損失しており(笑)、
2機製造された内、現存するのはこの2号機でのみです。
そんな機体ですから、振動が大きく安定性も悪く、とても実用的ではない、
と判断されて、この段階ではそれ以上の進展はありませんでした。
つーか、ホントになんでベル社、こんなしょうもない実験機ばかり造ってながら
空軍から干されなかったんでしょうね…。


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