■そしてエンジンも進化する



この時代はアメリカの航空エンジンが徐々にヨーロッパに追いつきつつあった時代でもあります。
最終的に液冷エンジンでは微妙なレベルで終わりますが、
空冷エンジンでは世界一の性能を持つことになるアメリカが、
その基本を固めたのがこの時期だったと思います。

写真はカーチスライト社の、ライトJ-5 ウィーウィンド(whir wind)。
Whir wind はヒューっと吹く風、といった意味でちょっと洒落てますね。
ロッキードの高速流線形機、ヴェガや、
リンドバーグのニューヨーク パリ間飛行のスピリット オブ セントルイスで使われたエンジンとして有名ですが、
陸軍ではライト R-790の名前で採用してました。
小型ですが225馬力とそこそこの出力を持ち、使い勝手はよかったようです。



こちらはより大型化され、出力の上がったライト R-1820 サイクロンエンジン。
ちなみにライトというのはライト兄弟のライトですが、この時代はすでに経営に関わっておらず、
さらに言えば、カーチス社と合併してカーチスライト社になってました。
が、空冷エンジンは常にライトの名前がついており、一種のブランド戦略だったんでしょうか。

1931年の登場時には600馬力前後だったのが、
改良を重ねて最後は1400馬力超えまで行ってしまったスゴイエンジンでもあります。
B-17爆撃機を始め、カーチスのP-36(これの液冷エンジン搭載型がP-40)、SBDドーントレス、
そしてDC-3(軍用がC-47。ただしプラット&ホイットニーのR-1830を積んだ機体もある)などが採用、
おそらくこの時代でもっとも活躍したエンジンとなっています。



ちょっと時代が戻りますが、1921年に開発されたカーチスのD-12液冷エンジン。
知る人ぞ知る傑作エンジンで、アメリカ人ですら(笑)があまり気にしてませんが、歴史的な航空エンジンです。

当時としては画期的な一体化された鋳造シリンダーブロックを積み、375馬力を出してました。
従来のエンジンでは、シリンダ―部を一本ずつ鋳造して下のクランクケースに差し込んでいたのですが、
このエンジンから、左右の6気筒分を一体で鋳造、その中にピストン用の穴を穿つ、という構造になってます。
後の液冷エンジンの基本的な構造を初めて採用したエンジンなのです。

後にイギリス航空省はこれを購入して国内のエンジンメーカーに渡して参考にさせます。
当然、ロールスロイスもその影響を受け、ここからケストレルを生み出し、
それがやがて傑作エンジン、マーリンへと繋がって行く事になるわけです。
イギリス人はこの点を認めませんけどね(笑)。

もっともカーチス社はこの後の世界恐慌で経営不振に陥り、ライバルのライト社と合併、
カーチスライト社となって、上で見たように空冷エンジンを主要な製品にしてしまう事になるのですが。



参考までに第一大戦世代の液冷エンジンの構造はこんな感じ。
下のクランクケースに独立した気筒、シリンダーが一本一本、刺さってるのです。
写真は例の練習機、カーチスJN-4に搭載されていたカーチスOX-5エンジンで、1915年に登場したもの。
ここからわずか6年で、上のような近代的なD-12が登場する事になるわけです。



なんだこれ、という感じのオーメン A-4 樽型エンジン(Almen A-4 barrel engine)。
一見すると遠心ジェットエンジンにも見えますが、1921年に開発が開発された
18気筒のレシプロ(ピストン式)のエンジンです。

ただし、通常のエンジンと異なり、水平方向に平行に置かれた気筒(シリンダー)が輪のように配置されています。
リボルバー拳銃の弾倉(シリンダー)の穴にピストンが入ってるような状態を考えてもらえば近いです。
ピストンの前後運動はクランクシャフトではなく、樽部の中央に置かれた
立体的な円運動をするギアを介して円運動に変換されます。
このあたりは言葉で説明するのは無理なので、Axial engine で動画の検索をやってみてください(手抜き)。

当時の陸軍が開発を進めていた新型のエンジンであり、
オーメンさんが発明したものだそうで、展示のモノはその4号試作エンジンだとか。
この4号機ではリボルバーピストルのシリンダー部のように配置された9本の気筒を
前後に向かい合わせて計18気筒とし、それが中央部にある
例のスゴイ立体的な動きをするギアを介して軸の回転をさせていました。

軸線エンジン(Axial engine)と呼ばれるもので、出力の割には小さく、
軽く作れるのが特徴とされています。
展示のモノは450馬力で749ポンド、わずか340sとなっています。
ただし18気筒で450馬力というのは微妙な数字で、この辺りが何かの限界だった気がしますね。

ちなみに動作試験は成功したそうですが、当時の陸軍は空冷エンジンを主力とする事を決めており、
予算不足もあって、以後の開発は止められてしまったようです。
ちょっともったいない気もしますね。



こっちもまた特殊なギアの動きでピストンの前後運動を円運動に変換する軸線エンジンの一種。
ただし動作模型ですが。

展示ではウ―ブラー(Woobler) エンジンと書かれてますが、
恐らくイギリスのウーラー(Wooler)が発明した
ウーブル盤 エンジン(Wobble-plate engine)の間違いじゃないかと思います。 
ウ―ブラーはこんな構造ではないはずです。

これも気筒を水平に並べるタイプのエンジンですが、言葉での説明は難しいので、各自検索を願います…
とりあえず、20年代のアメリカ陸軍はいろいろやっていたのだ、と判ればオッケーです、はい。


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