■徳陽艦についての基礎知識



というわけで、今回の台南訪問の主要目的がこれとなります。
台湾海軍が1977年から2005年まで、28年間使用していた駆逐艦、DDG925 徳陽艦(Te Yang)。
退役後、2009年からここ台南で展示されてるようです。
ちなみに徳陽は台湾の都市の名前。

で、最初に書いて置きますが、わざわざ見に来たものの、資料的な価値はほぼゼロでした(泣笑)…
まあ、雰囲気だけでも楽しもう、とう感じなら横須賀の三笠よりよほどマシですが…

この艦はもともとアメリカ海軍が1945年5月に進水させ、7月には艦隊に就役させていた駆逐艦、
すなわちギリギリ第二次大戦世代の駆逐艦、DD837 サースフィールド(Sarsfield)でした。
これを1977年まで32年間にわたって使い倒した後、台湾海軍に譲渡したものです。
つまりこれ、第二次大戦時世代の駆逐艦となります。
実に60年近く海の上で現役だったわけで、これは日露戦争の
戦艦 三笠が朝鮮戦争まで現役バリバリだった、
みたいな話ですからスゴイですな…。

ちょっと脱線すると、台湾海軍はこういった艦船の宝庫で、
第二次大戦期の潜水艦もアメリカから譲渡されてます。
2013年のアメリカ旅行記でも触れたように、
1945年7月、つまり終戦前ギリギリに進水し、後に台湾譲渡された
元バラオ級の潜水艦SS792 海豹(Hai-pao)は
2017年1月現在でもまだ除籍されてません。

でもって、今回調べていたら、それどころかもっと凄いのが居て、
さらに古い1944年11月進水の、テンチ級の潜水艦、
SS791-海獅(Hai-shih)も、実はまだ除籍されてないようです。

…マジですか。
前回調べた時は、台湾人でも既に引退してるはずだ、
と言ってるのを見て、てっきり既に除籍済み、と思ったんですが…
おそらく現役潜水艦としては、世界最古でしょうし、
現役の軍艦としても下手するとアメリカの帆船軍艦USSコンスティテューションの
次くらいに古いんじゃないでしょうか。
両艦は台湾海軍の広報資料などで見ると、2016年春の段階では港に係留したまま、
各種訓練用施設として使用されてたようで、まだしばらく退役の予定無しだとか。
さすがに遠洋航海、潜航などはやってないみたいですが…。
ちなみにこの2隻は台湾のAFVクラブから台湾軍仕様の状態でプラモデルが出てます。

さて、この徳陽艦に話を戻すと、これはアメリカ海軍の戦時製造駆逐艦の最終型、
ギアリン級(Gearing class)98隻の中の1隻なわけです。
この型の駆逐艦の多くは1970年代まで(つまりベトナム戦争まで)アメリカ海軍で使われた後、
台湾、パキスタンなど当時のアメリカの取り巻きというべき国々にばら撒かれました。
(すなわち当時のアメリカにとってインドは敵なのだ)

そんな1隻なんですが、アメリカ海軍時代、1960年代前半に既に大幅な改装が行われてます。
それ以外にもチョコチョコいじってた形跡があり、
さらに台湾海軍に移管された後、1989年ごろにも大改装がされてしまったため、
残念ながら第二次大戦期の駆逐艦の特徴はほとんど残ってません。
まあ、それでもなんとなく雰囲気は感じられる、という所でしょうか。

さらに加えて(笑)、台湾海軍の写真を見て気が付いたんですが、
その1989年の大改装で積まれたと思われる新型の対艦ミサイルやCIWS(ファランクスか?)は
全て取り外されてしまっており、その跡にはどこから持ってきたの?
という感じの極めて適当な兵装が積まれています(大笑)。
すなわち現在載ってる装備の大半は、実は一度も実際に搭載された事が無いもので、
おそらくそこら辺りで余ってたのを、適当に乗っけただけです。
…………
あ、なんか深圳で見たミンスクの悪夢がちょっとよみがえって来て、泣けて来ましたよ(涙)…

なので、あらゆる意味で資料的な価値は0なんですが、まあ、せっかく見て来たのだし、
という事でざっと紹介だけして置きますか…。



ちなみに後ろから見ると艦尾にSarsfield の名前が残ったままになってたりします。
ついでにここにある5インチ単装の主砲も、実際は一度も積まれた事がなかったものです(笑)…
どっから持って来たんだろう、これ。
まあ、後で書くように、これはこれで実は結構、貴重なんですけどね。

建造時は全長で119m、満載排水量で3460t、最高速度で36ノット出たとされますから、
当時の典型的な駆逐艦、と言っていいでしょう。
駆逐艦というと小型艦と思ってしまいますが、それでも全長100mは超えてますから、
近くで見ると意外に大型だったりします。

こんな船がパカスカ沈んじゃうんですから、第二次大戦時の砲撃、雷撃戦は
なかなか恐ろしいものだなあ、と思いにけり。


■Image credits: 
Photographer: PH1 D.D. Deverman.
Official U.S. Navy Photograph,
from the collections of the Naval History and Heritage Command.
.
Catalog #: NH 107002



こちらは台湾に来るちょっと前、1973年7月に撮影されたアメリカ海軍時代のUSSサースフィールド。
主砲は本来は5インチ二連装だったのが判るかと。
ちなみにUSSサースフィールドはギアリン級の中でもかなり早くからいろいろ改造されてしまった艦なので、
この段階ですでに大戦時の面影をほとんど残してません。

■Image credits: 
Photographed by R.A. Schrieber, of Combat Photo Unit 3.
Official U.S. Navy Photograph, now in the collections of the National Archives.




1950年11月に撮影された同型艦のUSSアーネスト・G・スモール(Ernest G. Small )。
ちなみにこの艦も後に台湾海軍が引き取ってます。
連装5インチ砲塔が艦首側に二つ、露天に近いむき出しの艦橋とその屋上の対空射撃管制装置、などなど
これらが本来のギアリン級駆逐艦の姿です。
まあこれを98隻も造ってしまったんですから、やはりアメリカ海軍はすげえな、というとこです。

ちなみにUSSアーネスト・G・スモールはこの写真が撮影された1年後、1951年10月に
朝鮮戦争の対地砲撃任務中に機雷に接触、さらに荒天の波で
第一砲塔から前の艦首部を完全に喪失する、という大ダメージを負います(9名死亡)。
が、後進しながらタグボートに引かれ、日本まで来て応急処置を受けると、
自力で西海岸のロングビーチまで帰還、修理後、任務に復帰してるのでした。

さらにスゴイことに、それにも関わらず1971年まで現役を続け、
さらにその後は台湾海軍が引き取り、
1999年まで運用しておりました(最後は2003年に標的艦として沈められた)。



その徳陽艦を横から。
煙突の配置とかギアリン級の面影を残してなくはないんですが、、まあ、ほとんど別物ですね。
ちなみに見学できるのは船体の上部構造のみで、下の船体内は一切入れず。
それ以外でも見れない部分の方が多く、ちょっと残念。

といったとこで、さっそく見学に行ってみましょうか。
今回は前部主砲から甲板を通って艦橋の後ろ、一つ目の煙突のとこまで行きます。
艦橋及び、船体後部は次回にて。


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