■夕撃旅団南へ

出国前から、もっとも困難な戦いになる、と想定されていたのが
今回のHTMS メークロン号(HTMS Mae Klong)の戦いであった。
あまり情報がなく、さらにまともな交通機関の無いタイが相手ゆえ、
30度を超える炎天下、長時間徒歩移動の可能性があったのだ。
よって、疲労がたまった旅行後半では危険だと判断、
タイ上陸翌日、本格活動初日に、その遠征を設定したのである。

最悪の想定で動いたのだが、
結果的にほぼ最悪(涙)の事態となり、
喜んでいいだんか悪いのだか微妙ながら、
我が判断は正解だったとなる。

が、その代わり得たものも極めて大きかった。
そんな二日目の旅行記は、いろいろ基礎知識が要るので、
その解説から入ろう。



バンコク近郊に大戦期の日本製軍艦が保存されている、
というのは以前から知っていた。
というか、日本文化圏の人としては、
かなり初期、もしかすると初めて現場に行ったと思われる
人物から直接話を聞いたのだ。

が、不幸にしてその時、彼はしこたま酔っ払っており、
かてて加えて、私も苦手な酒の影響でアタマが回ってなかった。
その結果、会話のテンションの高さに反比例して内容が無い、
という典型的な酔っ払い会話になってしまい、
結局、それがどんな艦で、どこにあるのか、
今となってはさっぱりわからん、という事態に。

が、今回せっかく行くのだからと、彼のホームページを見て、
さらに可能な限りネットで情報を集めたところ、
どういった艦なのか大筋で判明、その展示場所もなんとか特定できた。

ちなみにタイ語は世界標準文法で、英語と同じ主語+動詞+目的語の語順となる。
(ただし修飾語の位置がちょっと変わってる)
よって日本語なんかよりよほど翻訳しやすいはずだが、
なぜかタイの人の書く英語は、妙な言い回し、
変な表現が多く、資料を読む時だけでなく、現地でも結構悩まされた。
そんな中から、渡航前に判った事をざっとまとめると以下のようになる。

タイで保存されてるのは戦前の1937年に日本の浦賀造船所で輸出用に建造された
総排水量1422トンの護衛用艦艇(Corvette/Sloop)
HTMSメークロン(H.T.M.S. Maeklong)で、
なんと1995年までタイ海軍で現役だった軍艦であった。
(日本語表記ではメコン、メクロン等あるが命名元になった川は
メークロン川というのが一般表記なのでそれに従う)

アメリカの空母などでは40年超えて現役、ってのが珍しくないが、
戦前の軍艦で58年間現役だったってのは、珍しいだろう。
これはさすがにタイの軍艦でも最長記録だとのこと。

もっとも、2014年現在、まだ現役の
台湾のバラオ級潜水艦などもあるが、
あれは戦争中の艦であって、戦前のものではない。

ホントにタイの人はものを大切にするのだなあ、とちょっと感動。
ちなみにタイ海軍によると、こういった護衛用艦(Corvette/Sloop)としては
世界最古である、としているが、
それはCorvette/Sloop といった
分類の面倒な艦艇の定義にもよるので、微妙じゃないかなあ。

ちなみにタイの軍艦の名前に付く接頭辞、
HTMSはHis Thai Majesty's Ship、タイ国王陛下の船の略で、
イギリスのHMSに対して1文字多いのはタイの名ゆえとなる。
当然、タイ海軍は王立海軍だ。

そのHTMSメークロンが退役後、博物館として公開されてる。
この艦、戦後に大幅な改修が加えられたものの、
日本製の兵装を多く残しており、
まともな状態で保存されてる世界で唯一の
大戦期の日本製の軍艦、という事になる。
うーむ、これはちょっと見ておきたい。

ちなみに、似たような経歴の現存艦に
中国の武漢市で保管されてる
砲艦 永豊(いわゆる中山艦)がある。
が、あれは一度沈んだのを引き上げたもので、
資料的価値はちょっと微妙な部分がありにけり。
そもそも総トン数では836トンと極めて小型な艦でもあるし。

ただし中山艦については「中国砲艦 中山艦の生涯」
という近代中国史を知る上でも優れた著作があり、
興味のある方は一読をお奨めしたい。

さて、といった感じで展示されてる軍艦の来歴は大筋でわかった。
では、それはどこにあるんかいな。


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