■ソウルの基礎知識

というわけで、旅行記では毎度おなじみ、基礎知識編から行ってみましょう。

今回訪問したのはお隣の国、韓国こと大韓民国の首都、ソウルです。
私の世代の人間からすると、韓国は軍事国家そのものであり、
しょっちゅう大統領が追放されたり殺されたりしてる国、
という印象があるんですが、わずかこの15年でまるで別の国になりましたね。

実際、あの国で最初の民主的な選挙で大統領選が行われたのが1987年、
さらに軍人以外の大統領が誕生したのは1993年の金泳三氏が最初ですから、2012年現在でも、
まともな民主主義国家としてはわずか20年前後の歴史しか持ってません。
そう考えると、その経済的な成長、国家としての体制を整えるスピードは
実に驚くべきものがあると言えます。

半島の途中で分断されているため、その面積は日本の北海道と四国を合わせたほどで、
その中に5000万人近い人口を抱えている国が韓国です。
そんな国の首都、全国民の1/5(人口約1000万)が住むという
恐るべき人工密集地帯、ソウルはどんな街なのか。
(ちなみに周囲の衛星都市と合わせると人口の1/4を超えるらしい)

まずはその場所から見てみましょう。



上に書かれた赤い線が北朝鮮との国境線、いわゆる38度線です。
ちなみに38度線といっても緯度にそってるわけではなく、
ご覧のようにかなりうねっています。
これは休戦協定が結ばれた段階における両者の占領エリアをそのまま認める、
という取り決めがあったためで、
人工の国境でここまでグチャグチャなのも珍しいかもしれません。

でもって、この地図で注目したいのはソウルから国境までの距離。
最短距離だとわずか30km前後であり、これは大阪駅から神戸とほぼ同じで、
東京駅から横浜と比べるとやや遠いくらい、といった距離になります。
このため、ソウルは常に臨戦態勢、という世界的に見ても珍しい首都となってます。

実際、この距離は脅威で、北朝鮮が戦争になったら、
ソウルを速攻で火の海にしてやる、としょっちゅう言ってるのは単なるハッタリではなく、
大口径の榴弾砲なら、北朝鮮の領土内から余裕で射程距離に入ってるのです。
先制攻撃があった場合、ソウルは確実に激しい砲撃にさらされる事になるでしょう。

でもって、これは歩いても1日程度で走破できてしまう距離でして、
実際に1968年1月には北朝鮮の31名の特殊部隊が
徒歩で国境を突破、そのまま走るようにして
ソウルにある大統領官邸、青瓦台を襲撃を企てる事件がおきました。

この時は直前で検問に捕まって銃撃戦となり、多くの特殊部隊隊員が逃亡、
以後、2週間近くに渡って各地で逃亡と戦闘を続ける事になります。

いわゆる青瓦台襲撃未遂事件ですが、逃亡した特殊部隊兵が
逃亡先で頑強に抵抗したため、最終的にはアメリカ兵を含め
70人近い死者を出す大事件となりました。
ちなみに、後に韓国の経済発展のきっかけを作る事になる軍人大統領、
全斗煥は、この時のソウル警備司令部の大隊長の一人でした。

よくこれで戦争にならなかったという感じですが、理由は単純で、
当時、アメリカはベトナムで手一杯であり、韓国で何が起ころうが興味がなかったのです。
そうなると、必ず出てくるであろう中国軍と
やりあう自信がなかった韓国は戦争をあきらめます。

ただし当時の朴大統領は怒りが静まらず、密かに対北朝鮮の特殊部隊を編成させ、
これをピョンヤンに送り込む作戦を開始させるのです。
が、アメリカの横槍などもあり、最終的にこの計画は中止になってしまいます。

ところが1971年8月、今度はこの特殊部隊が反乱を起こしてソウルに乗り込む、という
実尾(シルミド)事件が発生する事になります。
最終的には市内で銃撃戦になり、最後には自爆でほとんどが死亡、
数名が生き残りますが、これも軍法会議で死刑とされました。

31名(北朝鮮の特殊部隊と同じ人数)で結成された部隊は
3年の訓練期間中に7名が死亡するという(訓練で22.5%が損耗…)
異常な状況に置かれた上に、作戦中止後は
むしろ疎んじられて不満が爆発したものらしいです。
ちなみにこの部隊は軍人ではなく、高額の報酬で集められた民間人集団だった、
とされていますが、詳細はよくわかりません。

そんな感じで、極めてキナ臭い都市であった韓国ですが、
21世紀に入ると敵の北朝鮮が完全に国家破綻状態になってしまい、
かなり安全性が高まることに(笑)。
実際、今回、現地を見て歩いた感じでは、
完全に普通の大都市になりつつあるなあ、という印象でした。

ちなみに、この38度線の西の外れは漢江(ハンガン)、
ソウル市内を流れる大河の河口となってます。
でもって、この北岸側は北朝鮮領なのです。
なので、漢江をさかのぼって侵入してくる、という手もあるわけで、
まあ、これだけ不安の多い首都もある意味、珍しいでしょう。



本編でも書きますが、ソウルはやたらめったら地下街と地下鉄がある街です。
東京や大阪だと私鉄電車が走るようなエリアでも電車が地下を走ってたりします。

さらに地下鉄駅に連絡するわけでもなく、街中に唐突に地下街があったりします。
なんで?と思ったんですが、答えは全て戦時のシェルター、防空壕として使うためでした。

なにせ不意討ちを食らったら、最初は一方的に叩かれまくる事になるわけで、
そのため、地下の避難壕として、地下街や地下鉄が市内中に作られることになったようです。

写真の赤い看板は、地下鉄の駅や地下街に入る階段の入り口には
必ず貼られているもので、避難所といった意味の案内が書かれています。


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