■おまけ1 予備タンクと増槽について

今回のレポートで、ちょっとわかりにくかったかなあ、と思われる、
予備タンクの話を追加で少しだけ説明して置きます。

予備タンク、というのは機体内部にある「普段は使わないタンク」
のことで、機外に取り付ける増槽とは全く異なるものです。
なにゆえ「普段は使わない」のかというと、理由は二つ。
一つは、使うと飛行時の性能が落ちるから、もう一つは機体の飛行安定性が悪くなるから、です。
性能が落ちる、というのは重くなって加速も最高速も低下すること、というのはなんとなくわかるでしょう。
では、もう一つの安定性が悪くなるって何よ、という話を少し。

水平飛行している飛行機は、主翼が発生する上向きの揚力によってのみ支えられており、
それ以外の部分は、基本的に下向きの力の方が打ち勝っています。
なので水平飛行中の機体は、飛行機模型を手のひらの上に載せてるような状態とは異なり、
どちらかと言えば、主翼付近の下から指一本で支えてるような状態で、
重心点を中心に、微妙なバランスを取って機体を水平に維持しています。

で、通常、航空機はほぼ左右対称ですから(ドイツのアレを除く)、
左右方向の重心点は胴体の中心線上にあると考えてよく、
ここで問題になるのは、前後方向(縦方向)の重心点です。

これはヤジロベエが一点においてバランスを取って水平を保っているのによく似ています。
ヤジロベエの脚、支点にあたるのが飛行機では主翼となっているのです。
でもって、単発レシプロ機は、最も重いパーツであるエンジンが機首にあるのが普通ですから(一部の例外は忘れる)、
その重量バランスを取るために「支点」、つまり主翼は、エンジンに近い前方に置かれます。
これは重いモノは支点の近くに、軽いモノ(尾翼部)を支点の遠くに置いたヤジロベエの状態です。
ここら辺は、エンジンを機体中心部に置ける現代のジェット戦闘機などと比べ、大きく異なる点となります。

このため、機体の前後重量バランス、というのは常に変わらないのが望ましいのですが、
戦闘機の場合、どうしても変わってくるものが二つあります。
弾薬と燃料です。これらの満載時と使い果たした後では、かなりの重量差が生じます。
なので、弾薬は機銃ごと重心点付近の主翼中に埋め込んでしまうのが理想ですし、
できれば燃料タンクもそうしたい所。
が、現実には主翼に入る容量には限界がありますので、通常、同体内にもタンクを付けますし、
機体によってはそもそも主翼内に燃料タンクなんて積めなかったりもします。
まあ、大抵の機体に胴体内タンクは存在するわけです。

が、先に書いたように、胴体内タンクは、飛行中に中の燃料が減ってゆくことによって、
機体の重心位置をずらしてしまう危険性を持っています。
その結果、機体の前後バランスが取れなくなると、機首を上下させるピッチングが起こり、
最悪の場合、コントロール不能になる可能性を持ちます。
なので、ここに燃料を入れるのはちょっと危険、ということになり、
一応タンクは付けたけど、早めにそれを使いきってしまってね、
だから長距離出撃の時だけ使ってね、ということになるわけです。

これらのタンクがあったのは、F6F、F4F、F4U、P51Dなどですが、日本機でも飛燕の初期型や、
予備タンクではないけど、満タンにしちゃヤバいタンクというのはゼロ戦の21型などにあったらしい、という話も。
また、P51Dの予備タンクは、満タンにするとさらに危なかったようで、
オーヴァーロード(過負荷)状態での飛行テストにおいても、満タンより40リットル前後、少なく積んでます。



米海軍のF6F-5特性(Characteristics)一覧シートから。
オレンジ色で囲った部分が予備の75ガロン(283.5リッター)燃料タンク。
その前にある青で囲ったのが87.5ガロン×2のメインタンク。
胴体タンクとはいえ、主翼と胴体が繋がってる部分ですし、十分機体の中心部じゃん、
とか思うんですが、この位置でも燃料を入れてしまうと機体の前後バランスが崩れたようです。
極めてデリケートなんですな、航空機って。

比較的低い位置に置かれているのは、背の高い機体なんで、高低の重心点に合わせると、
あの位置になるんでしょう。
つーか、こうしてみると、パイロットの座席位置、タッカイなー、F6F(笑)。
コクピットはお二階になっております状態ですな
 
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