■力は正義だ

さて。
最近モノ忘れが激しく、前回、予告になんて書いたか思い出せないのだが、
なんとなく「加速力の話」と書いた気がするので、きっと大丈夫だろう。
「上昇力の話」も後でちゃんとやるしね(覚えてるやんけ)。



最高速度が同じでも、30秒で最高速に達するのと3年かかるのとでは、
そら同じ性能とは言えないであろー、というのが今回のお話


というわけで。
私が見た限りでは、英米の航空機試験において、その加速性、
つまり、どれだけ敏速に速度を上げれるか?に関するものは、ほとんど無いようです。
相手から逃げたり、逆に追いかけたりする必要がある戦闘機においては、結構重要な性能なんですけどね。
(2機種を並べて飛行させ、よーいドンで加速性を比べる、というのは結構やってる)

全てのデータてのデータを見たわけではないので、迂闊な事は言えませんが、
たぶん、水平飛行時の加速度は出力荷重で、ある程度推測できるからでしょう。

「出力荷重」とは機体全体の重量を、搭載しているエンジンの出力で割った数字で(機体重量/エンジン出力)、
自動車などで使われるパワーウェイト レシオと同じような考え方のもの。よって加速性を見る指標となります。
アホみたいに単純な話ですが、商品データが溢れてる自動車なんかと違って、
航空機、ましてや第二次大戦期の機体では、正確なエンジン出力と機体重量の数値を
キチンと手に入れるのすら困難だったりします。
が、今回、公平な実測による機体重量とエンジン出力のデータがそろってるんですから、
やるでしょう、これは!人として!


【2012.10追記】
この記事を書いて4年以上経ってから、正確に加速性を見るなら
出力重量比(パワーウェイト レシオ)じゃなければダメじゃん、と気がつきました(笑)。
つまり、割り算が逆で、エンジン出力÷機体重量でないと、
正しく加速力を求める計算になりません。
が、とりあえず、他の機体の数字と比較して優劣を見るだけなら、
どっちでも問題はないので(本来は数字が大きいほうが有利だが)、
ここでは、このままにしておきます…スミマセン。


余談ですが、7トンもある機体重量、どうやって測ったと思いますでしょうか?
これ、どうもある程度のブロックごとにばらして、それを別々に計量し、
最後にガソリンや弾薬の重量を加えて出してるみたいなんですね。
航空機のデータってのは、重量ひとつをとっても、かように取得が困難なのであります。

話を戻します(笑)。
なんで、この出力荷重に注目して、各機の加速性を比べてみましょう、というのが今回のお話。

なお、レシプロ機の場合、プロペラ性能というのも一つのポイントになるんですが、
ここでは、話を単純にするため、それは考えないでおきます(手抜き)。
まあ1944年にもなれば、プロペラの性能差なんて僅差ですよ、僅差(根拠無き楽観)。

また、航空機のレシプロエンジンは高度によってその出力が大きく変わるのですが、
今回の計算には、基本的に各機のデータにある「ミリタリーパワー」の項目の数字を使ってます。
日本機の場合、そんな設定があったのか、という疑問は残りますが、条件的には公平なはず。
ちなみに離昇出力よりは10%前後、少ない数字になっていて、海面高度付近の全開運転状態とかでしょう。

まあエンジン馬力のどの数字を取るのかで数字は動きますし、さらに重量も任務によって変わりますから、
以下の順位は変動する可能性あり、とは思ってください(月光は除く)。

というわけで、さっそく見てゆくでガンス。

 

横軸の数字が出力荷重(Power Load)となってます。単位はKg/HP。
数字は、エンジン出力の1HPあたり、どれだけの質量を動かすことになっているか、という意味になります。
1なら1HPで1kg、2なら1HPに2kgという数字になりますから、当然、これは数字の小さな軽い方が有利。
このグラフでは上に行くほど、加速がいいことになります。

ちなみに、この数字で見れるのは水平飛行時の加速の良さのみですから、下降、上昇能力は別です。

で、このデータは結構予想通りの結果となっており、トップは雷電、2位は疾風ですから、
うーむ、加速性の比較結果は日本機の圧勝ですね(月光を除く)。
今回のレポートで、初の日本ブラボーなデータですね(月光を除く)。

まあ、さすがは全員、戦闘機で、出力荷重は全機2.1から3.3の間に収まっています(月光を除く)。
エンジン馬力で2倍、機体重量で最大3倍近い差のある今回のメンツを考えれば、
どの機体もこの部分は慎重に考えて設計されているようですな。
単純比較はできませんが、乗用車などはKg/PSのパワーウェイト レシオで10前後が一般的ですから、
やはり戦争やる機械は違います(まあ、F1マシンとかは1を切ってますが)。

で、今回のビックリ大賞がP38。
米軍機で、唯一、加速力ベスト5に入ったのはなんと双発のこの機体なのでした。
P38、実は月光と重量的にはほぼ同じで実に7.5tもあります。
それがこの数字を叩き出すには、当然、暴力的なまでのエンジン出力が必要なわけでして、
V1710-89&91(左右でエンジンの回転の方向が異なるため名称が別)の
1570HP×2、計3140HP友情合体パワーによるものです。
実は、次で取り上げる上昇力でもP38、ずば抜けた性能を示してまして、
この加速性と上昇能力は「双発戦闘機としては優秀」なんてレベルではなく、
純粋に「戦闘機として優秀」な数値でしょう。
先に見たように、速度、高度ともに優秀でしたから、これはもう、化け物です。
全アメリカ航空軍を通じて、ナンバー1&2のエースパイロットを生み出したのは、
相手が日本軍でチョロかった、というより、機体性能そのものによると思います。

そのP38のライバルと言っていいゼロ戦ですが、うーむ、平凡ですねえ…。
軽くてキビキビ動く機体、という印象があったのですが、
32型、52型ともに加速力でP51、P38より劣ります。
P38なんて、32型の3倍重いんですよ(笑)。基本設計は同じ世代の機体なんですが…。
加速をよくするには、どんなに軽量化をしたところで、エンジンパワーの前には無力のようです。
力は正義だ。
…って、それ以前に、隼の2型より完全に劣ってるやんけ、ゼロ戦…。

しかし、こうして見ると疾風はやはり優秀ですな。
上昇力、加速力命で、他の部分は捨てたと言っていい雷電、鍾馗とタメ張ってます。
それであれの航続距離を持つんだから立派でしょう。
まあ、同じようにP51、ここでも優秀なんですが。

あと、P47、さすがのターボパワーでも限界がありましたね。
加速力、上昇力ともにやや見劣りがする結果になってます。

NEXT