とりあえず、全体像から見て行きましょう。まずは真正面から。狭い博物館の中で、ここまでキチンと真正面から写真が撮れる場所は意外に貴重かもしれませぬ。

とりあえずアゴ下の防塵フィルター以外はMk.V(5)と外観上の大きな差はありません。プロペラもまだ3枚です。主脚を胴体側に取り付けてるため、その間隔が狭く、地上での取り回しが大変だったろうなあ、という辺りも見て置いて下さい。ライバルのドイツのMe109 はさらに狭いので、どちらも機体の地上走行は大変だったのでした。ちなみに戦闘機としては間違いなく失敗作ながら、ハリケーンは主翼側に車輪を付けて主脚間の幅を確保し安定性を維持できました。この点では優れた機体であり、ハリケーンが荒れ地の前線基地でも安定して運用できた理由の一つがこれです。

話を展示の機体にもどしましょう。
左右の主翼の赤いシールは7.7o機銃の銃口に砂塵が入って詰まらないようにするための封印。ちなみにイヤラシイ粘着的なツッコミを入れるなら、ビヨーンと飛び出してる20o機関砲の砲口にもこれを貼るのが正解で、この展示ではその辺りの考証がややいい加減です。こういった細かい落とし穴を避けながら考証して行くのが博物館の機体見学となるわけです。ついでに言うなら赤いシールはイギリス本土では普通ですが、マルタとか北アフリカでは白や茶色の封印シールが使われてる事が多かったはず。



真横から。
こういった写真が撮れるのも貴重で、広大な面積を持って余裕のある展示をやってるアメリカ空軍博物に感謝ですね。ただし後ろ側には一切回り込めない展示ですけども…。

主翼が薄いため、高速化と、軽量化(胴体への取り付け部にかかる負荷が小さいので構造が単純化できる)に成功してるのですが、その代償として大きな20o機関砲は内部に搭載出来ず、このように主翼の前方にビヨーンと飛び出す形になってしまいました。それでも十分高速だったので、問題は無かったとも言えますが。
ただしアゴ付きの熱帯型の場合、やはり空気抵抗の増加はあったようで、イギリス空軍のテスト(AB.320repotrt 15 Apr. 1942)によると最高速度は高度5500m前後で354マイル/h、すなわち約566.5km/hとなっており、通常のMk.V(5)の記録(W.3134report 18 june 1941)の高度6100m前後で371マイル/h、約595q/hより高度も速度もやや低下しています。まあその差は僅かではありますけども。



ちょっと上から。一脚の先にカメラを付けて持ち上げ、タイマー撮影したモノ。
主翼上面にみえる凸部は20o機関砲の弾倉収容部。手前で主翼下に飛び出してるのは気流から機体の速度を測るピトー管。これが下に飛び出してるのは主翼周辺の乱流を避けるため。乱流を吸い込んじゃうと正確な速度が判らなくなりますから。



反対側のやや後ろから。こうして見るとホントに主翼が薄いのだ、というのが判るかと。
ついでに以前の記事でも指摘したスピットの特徴、主翼取り付け部後部の跳ね上げ、そして翼端に向って主翼の翼断面が下に向くねじり下げ構造なども見て置いてください。



斜め前から。
個人的にはもっともスピットがカッコいい角度だと思ってますが、アゴが邪魔ですね(笑)。

ちなみにアメリカの国籍章、青地に白星の周辺に黄色いフチがついてますが、これはトーチ作戦の前後にのみ使われたもの。敵味方識別を容易にするためとされますが、こんな細い黄色い帯を地上や上空で認識できたとは思えず、意味があったんでしょうかねえ…。実際、後のノルマンディー上陸戦ではもっと目立って判りやすい識別塗装、いわゆるインベンションストライプス(invasion stripes 日本語だとスを抜いて表記される事が多いが複数形が正解)、太い白黒の帯が機体後部と翼面下に描かれるようになりましたから、これ、ほとんど効果は無かったんじゃないかと思われます。

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