■スピットファイア完全リスト
(2020.07 全面改訂)
というわけで、一覧表と呼ぶにはあまりにアレな量になってしまったが、行ってみよう。
ちなみに主要な量産型であるMk.I(1)、V(5)、IX(9)の三つを知ってるだけでも、
十分近所のスピット博士ぐらいにはなれる(笑)。
あとはオマケみたいなものなのだ。
とはいえ、脈絡もなく、24種類もの機体名を並べられても(一部海軍用シーファイアを含む)
訳がわからんと思うので、最初に少しだけスピット開発の流れを確認して置く。
スピットの凄い所は1937年、すなわち第二次大戦の2年前、
太平洋戦争に至ってはそれより4年も前に初飛行した機体が、
ほぼエンジンの進化と機体の構造強化だけで1945年の連合軍勝利まで主力として戦い抜いた事だろう
終戦まで第一線でがんばった、という点ではドイツのMe109はさらに古いが
こちらは最後まで無理やり戦わされた、という面が強いので性能で選ばれたとは言い難い。
スピットの進化はエンジンの進化であり、それは基本的に過給機の進化だった、
という点についてはこの記事の前に説明してあるので、ここでは詳細を省く。
とりあえず、その主要生産型を分類すると以下のようになる。
1942年の秋から、スピットはマーリンエンジンからグリフォンエンジンへと進化するが、
グリフォン スピットは高性能ではあったものの、正直、あっても無くても同じだった。
二段二速マーリン搭載のMk.IX(9)&Mk.XVI(16)があまりにも良くできた機体だったからだ。
実際、最も生産されたMk.XIV(14)ですら約900機しか造られておらず、
生産機数の面から見ても、主力は最初から最後までマーリン搭載スピットであり、
グリフォンスピットはとりあえず保険で造っておくか、という存在だった。
生産されたグリフォンスピットは地上攻撃、偵察、V-1飛行爆弾の迎撃などに投入されただけで、
主力戦闘機と言う存在には最後までなれなかったのだ。
結局、イギリスはドイツの降伏後まで、バランス良くまとまった2段2速マーリン搭載機、
Mk.IX(9)&Mk.XVI(16)の生産を続け、そしてこの機体で最後まで戦い続ける事になる。
(両者は事実上、同じ機体であり総生産数は約7000機にもなる。詳しくは後の表内で解説)
そんな存在の薄いグリフォンスピットだが、スーパーマリン社はなぜか開発に熱心で、
半新型と言った感じの中途半端なMk.XVIII(18)、
さらには事実上の新設計機、Mk.21以降の新世代スピットを戦争末期に送り出している。
が、Mk.21はすでにジェット化時代の入り口の機体で、さらにはドイツは敗北直前の時期であり、
結局、その改良型のMk.22などと併せても新世代スピットは500機未満の総生産数で終わってしまった。
事実上、無かったようなモノ、と考えていいだろう。
ワケが判らんのがMk.XVIII(18)で、ミッチェル世代の設計を残しながら、
主翼などを新設計としたものの、完全試作のMk.21より開発が遅れてしまい、
結局その生産開始は終戦に間に合わなかった。
さらにスーパーマリン社はこれらの新世代スピットと並行して、
その後継機にと考えていたスパイトフルを開発している。
そしてそれらすべてが空軍から期待したほどの発注を取れず、
戦後のスーパーマリン社の凋落に繋がって行く。
鋼の意思を持つミッチェルが、自らの命と引き換えに世に送り出したスピットファイアは
あまりにも特別だったのだろう。
ちなみに、マーリンは66の「お前はアホかハイブーストスペシャル」で
密かに2000馬力を達成しているので、実は2000馬力級エンジンだ。
よって、グリフォン前の二段二速マーリンMk.IX(9)から、
既にスピットは2000馬力級戦闘機だったりする。
■空軍向け スピットファイア 戦闘機型一覧
(グレーのものは、試作機で量産されなかったもの)
形式 |
特徴 |
エンジン種類 |
Mk.I (1) |
|
マーリン |
Mk.II(2) |
|
マーリン |
Mk.III(3) |
|
マーリン |
Mk.IV(4) |
|
グリフォン |
Mk.V(5) |
もともとは、はるか地中海のマルタ島などへの空中輸送用(フェリー)として |
マーリン |
Mk.VI(6) |
|
マーリン |
Mk.VII(7) |
|
マーリン |
Mk.VIII(8) |
|
マーリン |
Mk.IX(9) |
|
マーリン |
Mk.X(10) |
|
マーリン |
Mk.XI(11) |
|
マーリン |
Mk.XII(12) |
|
グリフォン |
Mk.XIII(13) |
|
マーリン |
Mk.XIV(14) |
|
グリフォン |
Mk.XV(15) |
|
|
Mk.XVI(16) |
|
パッカード |
Mk.XVII(17) |
|
|
Mk.XVIII(18) |
|
グリフォン |
Mk.XIX(19) |
|
グリフォン |
Mk.XX(20) |
|
グリフォン |
Mk.21 |
|
グリフォン |
■新世代スピットファイア
ここまで見て来たように、スピットファイアは1937年に初飛行した機体、
ミッチェルが設計責任者だった時代の機体を改造しながら新型エンジンを次々に搭載、
近代化に対応して来ていました。
が、航空技術が最も進んだ第二次大戦期において、
5年以上昔の設計の機体ではさすがに無理が出始めてきます。
さらにグリフォンエンジンの出力増大に対応する機体構造の強化、
速度増加に耐えられる主翼構造、といったものが1942年ごろから求められ始めます。
その結果、胴体構造も主翼も一気に新設計にしてしまったのが、
新世代スピットファイア、Mk.21以降の機体です。
いや、それはもう別の機体じゃん、と思うし、実際、当初はヴィクター(VIctor)、
勝利者と言う、ドイツが負けそうな段階で出て来る戦闘機の名前としては、
かなりひねりの無いものに変更される予定だった、という話もあります。
が、最終的にスーパーマリン社は、これもあのスピットファイアですよ、
と主張する事にした結果、Mk.21はその一族に加わることになったのです。
この辺りの理由は不明ですが、新型機とするより、あのスピットの新型、
とした方が売り込みやすかったのか、とも思います。
まあ、結果的には商売としては散々で終わるんですけどね…。
ちなみにスーパーマリン社はそれとは別にスピットの発展型とも言える機体、
スパイトフル(Supermarine
Spiteful)を平行開発しており、こちらは1944年6月に初飛行したものの、
わずか19機(先行試作2機を含む)の生産で終わってます…
ここまで見て来たようにスピットはその搭載エンジンによって
「マーリン型」「グリフォン型」に別れるのですが、同じグリフォン型でも、
ミッチェル設計世代のMk.XII(12)、XIV(14)、XVIII(18)までと、Mk.21以降はほぼ別物となっています。
それは設計だけでなく、ほとんどまともに量産されず、実戦にも投入されず、
結局、何の役にも立たなかった、という面でも同様でした。
この辺り、なにか別の分類をした方がいい気がしますが、
あれだけスピット大好きなイギリス人も、あったかなかったかよく判らんような
新世代スピットには無関心なようで、特にこの世代を指す呼称とかは無いようです。
一部で最終世代(Last
generation)、末期生産型(Latest
production)などと言った
表記も見られましたが、一般的ではありません。
昭和の日本の航空雑誌などではスーパースピットファイアなどとも書かれてましたが、
そういった英語表記は私は見つけられませんでした。
ちなみに最後はその改良型としてMk.22とMk.24が造られていますが、
事実上、ほとんど同じ機体で、新世代スピットは全部一緒、と考えてもさほど問題は無いです。
さらにいえば全部合わせても500機以下の生産数で在り、
スピットの全生産数からしたら、在って無いようなモノでもあります。
とりあえず、この一覧では「量産型」のMk.21以降は新世代スピットファイアとして、別表にまとめました。
Mk.21 |
|
グリフォン |
Mk.22 |
|
グリフォン |
Mk.23 |
|
グリフォン |
Mk.24 |
|
グリフォン |
●参考文献
Spitfire
Alfred
Price著
*大御所、Priceの本だがさすがに古いのもあって記述の一部は怪しい。
ただし貴重な写真とデータが多いので、基本となる一冊ではある。
Phil
H. Listemann著の
Squadrons! シリーズ
Ultimate Spitfires
Peter
Caygill著
RAFによる各スピットの試験飛行報告書類
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