◆スピットファイアデータ編 Mk.VIII(8) &
IX(9)でニンニンの巻
Mk.VIII(8)とIX(9)
は同じ2段2速過給器の最強エンジン、マーリン60系を搭載した機体だけに、
●4枚プロペラ化
●ラジエターの増設(右翼下1基から両翼下2基に)
●機首下の気化器インテークの延長、
●1気筒あたり1本で片側6本となった排気管
●エンジンの大型化にあわせ、5インチ(約13cm)延長された機首部
などなど、共通点が多い。
このため、確実に両タイプを見分けるには、尾輪を見るしかない。
Mk.VIII(8)のみ引き込み式となっているので、
飛行中に畳まれていたり、地上時にはその後ろの収容部分が少し凹んで見えたらMk.VIII(8)、
そうでなければMk.IX(9)だ。
ついでに、Mk.IX(9)とXVI(16)は事実上、同じ機体で、エンジンがロールスロイス純正(Mk.IX)か
アメリカでライセンス生産されたパッカードマーリン(Mk.XVI)か、の違いしか無い。
ただし、パッカードマーリンのマーリン266(イギリス名)は、
いかにも低空用のマーリン66をそのままライセンス生産したようなネーミングだが、
実はさらに輪をかけて低空用にギア比がふられており、厳密には同じエンジンとは言えない。
ついでに、通常用マーリン63のパッカード版、マーリン69(ややこしいな)は、
スピットのXVI(16)には採用されていないようだ。
さらについでに、マーリン266を積んでおきながら、
なぜかXVI(16)は全機通常高度用のF型に分類されている。ここら辺は、後述。
とりあえずMk.IX(9)と、Mk.I三兄弟シリーズとの違いも見ておこう。
三兄弟は外見上は、ほぼみな一緒なので、一番わかりやすい写真のあったダメスピことMk.IIにご登場願おう。
究極最終超絶スピットファイアことMk.IX(9)も機体そのものはこの兄弟と一緒。
なので、改修ポイントはエンジン関連の機器が並ぶ主翼下面と、機首部分に集中する。
コンディション最悪な機体なんだが、特徴的な部分をつかみやすいので、
とりあえずRAF博物館でゲートガードやってるMk.IX(9)にご登場願おう。
ちなみに三兄弟とMk.IX(9)の違いを理解するには、最低でも数が6つまで数えられる必要がある。
私は10まで数えられるので余裕だが、皆さんは大丈夫だろうか。
まず、もっとも少ない数字で理解できるのが、主翼の下の箱状のアレことラジエター。
上のMk.IIには右翼に1基しか付いてないが、下のIXには両翼下に2基となっている。
スピットはMk.Iのころからラジエターの冷却力不足を指摘されていたが、
さらに強力なマーリン60系を搭載するとあっては、その増設は不可避だった。
ついでイヤでも目につくのがプロペラの数。4枚に増えている。
エンジンをナンボ高出力にしても、それをスピードにうまく変換できねば無意味なわけで、
まあ、こうなった。
これ、かなり決定的な変更ポイントなんだが、飛行中の写真だと見えなくて
機種判断の基準には意外とならない。
さて、みんな、次は6つだぞ。片手じゃたりないぞ。準備はいいかな?
エンジンの横、機首から飛び出してる排気管に注目。
Mk.IIは片側3本なのに対して、下のMk.IX(9)は片側6本。
そもそもマーリンは12気筒なのだから、各気筒ごとに排気管を1本ずつ割り当てたのがMk.IX(9)ということになる
ただし、現存するMk.IやV(5)などにこのタイプの排気管をくっつけた機体が結構あるので
現存機の写真で判断するときは注意が必要。
でもって、最後が、気化器、キャブレターの空気取り入れ口。
機首の付け根部分、機体下面にあるのだが、わかるだろうか。
Mk.IIのはやる気のカケラもない排水パイプみたいのがついてるだけだが、
これがMk.IX(9)だとキレイに整形され、かなり前方に延長されている。
まあざっとこんなとこでだろう。
この両機のルーツとなったのが高高度戦闘機として開発されたMk.VII(7)だ。
忘れられがちだが、Mk.VII(7)は、スピットファイアにおける、最初の大規模改修が行われた機体だった。
余談だが、スピットの大規模改良機は、Mk.VII(7)、Mk.XIV(14)、Mk.21と、
どういうわけか、7の倍数になっている。狙ったのか偶然かはちょっとわからないが。
Mk.IX(9)&VIII(8)の母体となったのが、この高高度戦闘機として作られたMk.VII(7)。
コクピット下部の機体表面がツルピカ仕上げで、本来あるはずの搭乗用ドアが消えてるのがわかるだろうか。
与圧コクピットなので、空気漏れを防ぐためのものだろう。
ほかにも先っぽがとがった翼端パーツ、短いエルロンなどなど、特徴満載なのだが、
なにせ140機しか造られていないニッチな機体なので、知っててもむなしい…。
この機体を通常戦闘機に改造したのがMk.VIII(8)、マーリン60シリーズ搭載に必要なパーツだけ
かっぱらって行ってMk.V(5)の機体に載せてしまたったのがIX(9)である。
だから、上の写真で解説したMk.IX(9)の特徴は、唯一、気化器空気取り入れ口を除いて、
すべてこのMk.VII(7)にもあてはまるのだ。
ちなみにさっきからさっぱりMk.VIII(8)の写真が出てこないのは、私が持っていないからである。エヘン。
で、これがその尾輪。引き込み式なのがわかるだろうか。
Mk.VIIIもこれと同じタイプの尾輪がついている。
こちらはMk.XVI(16)の尾輪。
ごらんのように、かなりやる気のない…というかMk.Iとほぼ代わらないままの品。
さて、Mk.IX(9)はMk.Iからの正統進化というか、
ほとんどかわっていない機体であったのに対し、
Mk.VIII(8)は、Mk.VII(7)から発展した機体だけに、いくつかの点で進歩している。
外見上では大きな差がないが、その内容は結構異なる機体となっていた。
引き込み式の尾輪もMk.VII(7)から受け継いだものだが、
実は最大の特徴は、燃料搭載量だったりする。
Mk.VIII(8)は、Mk.VII(7)で増設された燃料タンクを
そのまま引き継いでおり、胴体内タンクが96英ガロン、翼内に27英ガロン、
計123ガロン(559.1リットル)を搭載できた。ゼロ戦とほぼ等しい。
(ただし、テストデータなどを見ると、実際には120英ガロン(545.5)しか積んでない)
この結果、航続距離は740マイル、1191kmまで延びた。
Mk.VIII(8)が地中海やアジア方面といった戦場に優先的に配備されたのは、
英本土と違って、航続距離が要求されるこれらの戦場に向いていたからだろう。
まあ、単純に「Mk.IX(9)が主力なっちゃったから余ってた」というのもあるだろうが…。
一方、スピットMk.V(5)の機体を流用したMk.IX(9)は燃料搭載量は
85英ガロン(386.4リットル)のまま、増えていない。
もっとも、後期の生産型になると胴体後部にタンクを増設して搭載量を増やしているので、
1942年の登場時には、長距離任務はまだ必要な要素ではなかっただけらしい。
で、Mk.IX(9)の燃料タンク増設型はコクピット後部に75英ガロン(340.9リットル)タンクを搭載、
コクピット前部の通常タンクと合わせると、計160英ガロン、727.3リットルを積めた。
極めて大雑把な数字だが、マーリン60系エンジンの平均燃費はリッター2km前後なので、
航続距離は950マイル、1500Km近くまで延びていたと思われる。
90英ガロン(409リットル)の使い捨て増槽を付ければ軽く2000kmを超えたはずで、
制空戦闘機を名乗る資格は十分にあった。
ただ、マニュアルを見ると、あくまでこの後部タンクは
「特殊な遠距離任務用やで 普段はここに燃料入れたらあかんで」
とされているので、さほど活用されなかったのかもしれない。
ここに燃料を積んでしまうと機体の重量バランスがくずれ、
まっすぐ飛ばすだけで精一杯、という状態になったしまったかららしい。
よほどのことが無ければ、いざとなったら切り捨てられる落下型増槽を使ったようだ。
この落下型増槽は、例のフェリー用に開発されたスリッパ型とは異なり、
最初から使い捨てが前提の円筒状のもの。
30、45、90英ガロン(136.4、204.6、409リットル)の3タイプがあった。
これはMk.V(5)の後期生産型からすでに使われていたようだ。
ついでだが、水滴風防のローバック、RAF式に呼べば後方視界確保型(rear
view)機では
胴体後部が削られてしまっているので、このタンクの容量は、
66英ガロン(300リットル)に減っている。
だが、どんな魔法を使ったのか、前部の下タンクを37英ガロン(168.2リットル)
から47英ガロン(213.7リットル)に増やしており、その総搭載量はほとんど変わってないのだ。
つーか、前部タンク、10英ガロンも拡張できるなら、最初からやればいいのに…。
航続距離では100km前後の違いだろうけど、ヨーロッパ戦線では大きい数字だぞ。
やっぱり航続距離には、そもそも不満を感じてなかったのか?
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