■Mk.V(5)

で、三兄弟の末弟、北斗さんの家ならケンシロウにあたるのがこのMk.V(5)。
エルロンを金属製に付け替えているので、
高速飛行時のロール性能が改善されてるはずだが、このデータではそれはわからない。
つーか、イギリス空軍、テストというと速度と上昇力ばかり測ってるような…。



●まずはA翼搭載型。
最高速度は約30kmほど上昇しているが、上昇力は微妙な上昇に留まる。
まあ、一応能力的には上昇してるが、やはり正直微妙かなあ…。

試験地:ボスコムダウン

1941429

Mk.V A  シリアルX.4922

マーリン45

◆武装:7.7mm×8(A Wing)

 

◆機体重量2.93t6450lb

 

◆給気圧(boost pressure) 最大9lbs/sq

100オクタンガソリン

最高速度

600km/h(375mph)  6340m(20800ft.)

3048m10000ft.)での最高速度

539.2km/h(337mph)

6096m20000ft.)での最高速度

596km/h(372.5mph)

実用上昇限界(Service Ceiling

11490m(37700ft.)

上昇力 

 

3048m10000ft.)まで

3.6

4572m15000ft.)まで

5.2

6096m20000ft.)まで

7.1



●次はB翼。
やっぱ20mm機関砲の砲身はそれなりに空気抵抗源らしく、全域にわたり最高速が低下してます。
最大ブースト圧が0.1上がってますが、まあ誤差の範囲。
つーか、やはり上昇力、上がってるんですな20mm搭載型。なんでやねん。
今回は重量までこっちが重いのに…。いや、ほんとなんでやねん。
あの銃身カバーには、上昇力が上がるマーリンの魔法でもかかってるのか?

試験地:ボスコムダウン

1941618

Mk.V B  シリアルW.3134

マーリン45

◆武装:7.7mm×4+20mm×2(B Wing)

 

◆機体重量2.96t6525lb

 

◆給気圧(boost pressure) 最大9.1lbs/sq

100オクタンガソリン

最高速度

593.6km/h(371mph)  6126m(20100ft.)

3048m10000ft.)での最高速度

529.6km/h(331mph)

6096m20000ft.)での最高速度

592.8km/h(370.5mph)

実用上昇限界(Service Ceiling

11430m(37500ft.)

上昇力 

 

3048m10000ft.)まで

3.08

4572m15000ft.)まで

4.62

6096m20000ft.)まで

6.38



●次はC翼…のテスト機。これまた0.2ほど最大ブースト圧が上がってますがまあ、誤差の範囲かな、と。
20mm4門なんですが、最高速度はむしろB翼より上がってます。なんでやねん…。
その分、上昇力は落ちてるんですが、これは重量増加によるものでしょう。
前回のB翼機に比べ、200kg近く重くなっているのは、機関砲の重さだけでは説明がつきません。
銃弾も20mmの方がはるかに重かったとか、防弾関係が追加された、
電子機器などの追加装備があった、などが可能性として考えられます。
が、それでこの数字なら立派。C翼、もっとも多く生産されるわけですな。

試験地:ボスコムダウン

194238

Mk.V (C)   シリアルA.A.873

マーリン45

◆武装:20mm×4(C Wingのテスト)

 

◆機体重量3.14t6917lb

 

◆給気圧(boost pressure) 最大9.3lbs/sq

100オクタンガソリン

最高速度

598.4km/h(374mph)  5791m(19000ft.)

3048m10000ft.)での最高速度

データなし

6096m20000ft.)での最高速度

594.4km/h(371.5mph)

実用上昇限界(Service Ceiling

11090m(36400ft.)

上昇力 

 

3048m10000ft.)まで

3.5

4572m15000ft.)まで

5.2

6096m20000ft.)まで

7.35




●おまけ トロピカル型

いわゆるアゴフィルター付き形。オーストラリアでゼロ戦と対決したのがこれだ。
直訳すると南方用型だが、別段、暑い地方向けに熱対策をしたわけでもなく、
単に砂漠や乾燥地帯でのホコリが吸気口から入りにくいよう、
そこにデカイフィルターをつけただけ。
そもそもスピットは、長袖で十分な日が多いイギリスの夏でさえ
エンジン冷却が不十分、との評価を受けており、
これを北アフリカやらオーストラリアに送り込んだイギリス人はいい根性してるといえる。

ちなみに「アフリカの星」こと158機撃墜スコアのドイツエースパイロット、ハンス・マルセイユは、
アフリカ戦線で「西側連合国」相手にそのほとんどのスコアを稼いだ、とされる。
遠まわしに「あの最強の連合軍相手に!158機も!」と言ってるわけだが、
アフリカに最初のスピットであるMk.V(5)が配属されたのが1942年5月、本格配備は夏からで、
彼の戦死する9月の段階までにアフリカでスピットと会うのはよほどの幸運が必要だった。
彼の総スコアの内、スピットはほとんどないはずだ。
最大のカモは多分ハリケーンとP40で、腕もあるが機体の性能差もあったんだろうね。

試験地:ボスコムダウン

1942312-42

Mk.V B  シリアルA.B.320

マーリン45

◆武装:7.7mm×4+20mm×2(B Wing)

◆トロピカル型

◆機体重量3.04t6695lb

 

◆給気圧(boost pressure) 最大9lbs/sq

100オクタンガソリン

最高速度

566.4km/h(354mph)  5304m(17400ft.)

3048m10000ft.)での最高速度

データなし

6096m20000ft.)での最高速度

563.2km/h(352mph)  

実用上昇限界(Service Ceiling

11060m(36300ft.)

上昇力 

 

3048m10000ft.)まで

3.85

4572m15000ft.)まで

5.74

6096m20000ft.)まで

8

まあ、空気抵抗のカタマリみたいなアゴフィルター付き、ある程度は予測してましたが、かなり性能落ちてます。
あらゆる条件で、最高速度にして30km近い低下、上昇力も最大で30秒近く低下しとります。
うーん、これでMe109F&Gと戦えって言われてた地中海&北アフリカの皆さんは気の毒だな。



●トロピカル型 増槽付時

おまけその2、増槽、すなわち追加で機外に取り付ける燃料タンクを搭載した場合のデータ。
基本的には満タンに近い状態でのデータだと思う。
増槽をつけた場合、どの程度性能が落ちるのか、というのは意外に資料がないので掲載。
ただし、スピットの増槽は、ゼロ戦や米軍機のように、機体の下にぶら下げる円筒形のタンクではなく、
カマボコ型の箱状のもので、これを機体にぴったり貼り付けて使った。
空気抵抗的にも優れていたし、搭載燃料も409リッターと、なんと胴体内タンクより多かったりする。

試験地:ボスコムダウン

1942312-42

Mk.V B  シリアルA.B.320

マーリン45

◆武装:7.7mm×4+20mm×2(B Wing)

◆トロピカル型

◆機体重量3.39t7485lb

◆増槽付き(90英ガロン= 409リッター)

◆給気圧(boost pressure) 最大9lbs/sq

100オクタンガソリン

最高速度

540km/h(337.5mph)  5304m(17400ft.)

3048m10000ft.)での最高速度

データなし

6096m20000ft.)での最高速度

536km/h(335mph)

実用上昇限界(Service Ceiling

10210m(33500ft.)

上昇力 

 

3048m10000ft.)まで

4.7

4572m15000ft.)まで

7.05

6096m20000ft.)まで

10


さすがに、かなりの性能低下となっている。
最高速度はゼロ戦とほとんど変わらないレベルにまで低下。
まあ、戦闘に入るときは切り捨てていたと思うが、
このタンク、そもそもは機体の長距離移動、フェリー対策として作られていたものなので、
戦闘時に簡単に切り離せたのか、使い捨てでコスト的に割りにあったのか、
そこら辺はよくわからない。


●さらにおまけ 「今!必殺のスゥゥゥパァァァア!スピットッォォォフォアイアー!」データ

最後にいわゆる「こんなこともあろうかと」「今、必殺の!」でおなじみ、マーリンエンジンの緊急モード、
すなわち戦闘給気圧(Combat boost)使用時のデータ。
高高度では意味がないモードなので、低空用に羽根車をカットした50Mエンジンでテストしている。
一時的に、過給器による給気圧を、エンジンの耐用限界ギリギリまで開放するもの。
制限時間はわずか5分、高度10500ft.(約3200m)以下の高度でなければ効果が無く、
使用時にはただでさえ燃費の悪いマーリンの燃料消費量は実に40%増し、
搭載燃料の少ないスピットファイアには、まさに命がけの選択となる。
これを必殺技と呼ばずに、何と呼ぶ!
モード突入時には、コクピットにあるブーストリミッターを一時的に解除、
まさに「リミッター解除」であり、これを超必殺技と呼ばずになんと呼ぶ!

当時のイギリス人パイロットも「リミッター解除!」と叫びながら使っていたはずだ!
多分だがな!
見たわけではないけどな!


試験地:ボスコムダウン

1943525

LF Mk.V B    シリアルW.3228

マーリン50M

7.7mm×4+20mm×2門武装(B Wing)

◆戦闘用ブースト圧使用

◆機体重量2.93t6450lb

 

◆給気圧(boost pressure) 最大18.2lbs/sq

100オクタンガソリン

最高速度

560km/h(350mph)   1798m(5900ft.)

3048m10000ft.)での最高速度

555.2km/h(347mph)

6096m20000ft.)での最高速度

537.6km/h(336mph)

実用上昇限界(Service Ceiling

10880m(35700ft.)

上昇力 

 

3048m10000ft.)まで

2.25

4572m15000ft.)まで

データなし

6096m20000ft.)まで

5.6


給気圧は18.2lbs/sq、通常のマーリン45の最大給気圧は9前後だから、いきなり倍だ。
気をつけたいのは、この「緊急出力」に意味があるのは高度3000メートル前後まで、ということ。
給気圧をあげてゆく、というと空気の薄い高空用にむけてドンドンアップ!と思うが、実際は逆で、
高度が上がるにつれて、給気圧は下がってゆく。
マーリン45の場合、海面高度から4500m(約15000ft.)までは給気圧9のままだが、
そこからは急激に下げ始め、6000m(約20000ft.)で4.6、9100m(約30000ft.)では-0.5となっている。
マイナスの給気圧って、それって羽根車を逆回転?とか思ったが、
あまりに空気が薄く、過給器をかけても1を超えられないらしい。
だから、空気の薄い高高度では上げたくても給気圧を上げられないのである。
よって必殺!コンバットブーストは発動できないのだ。

で、実際に数字を見てみよう。
実は同じB翼の通常時に比べ、最高速は落ちているのだが、
空気の濃い、高度1798mで560km出してるのだから、単純に低下した、とはいえない。
ついでに、高度3048m(10000ft.)の時は20km前後の速度上昇となっており、やはり低空に強い。
上昇力は6096mまでも含めてアップしており、やはり効果はあるようだ。


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