■Mk.I

ではまず、「元祖」Mk.Iの性能から見てみよう。
ただし、以下の表は全て1940年3月までのもので、
過給器の給気圧は6lb/sqinまでの状態。
(単位はポンド/インチの2乗“スクエアインチ”でメートル法ではないのに注意)

この一連のテスト後、Mk.IのマーリンII/IIIエンジンはシリンダヘッドを改良、
100オクタン燃料の導入にあわせ、給気圧を通常時9lb/sqin、
戦闘時緊急出力時で12lb/sqinまで引き上げている。
なのでバトル オブ ブリテンに参加していたMk.I はもう少し
高性能(特に低空域で)だったと思って欲しい。

試験地:マートルシャム ヒース

1939年7月12日

Mk.I  シリアルk.9793

マーリンII

◆武装:7.7mm×8門(この段階ではA翼とは呼ばない)

 

◆機体重量2.69t(5935lb)

●デ ハビランド 2ピッチ金属プロペラ

◆給気圧(boost pressure) 最大6.1lbs/sq

◆87オクタンガソリン

最高速度

587.2km/h(367mph)  5669m(18600ft.)

3048m(10000ft.)での最高速度

データなし

6096m(20000ft.)での最高速度

585.6km/h(366mph)

実用上昇限界(Service Ceiling)

10490m(34400ft.)

上昇力

 

3048m(10000ft.)まで

5.5分

4572m(15000ft.)まで

8.1分

6096m(20000ft.)まで

11.4分

試験地:マートルシャム ヒース

1939年7月20日

Mk.I  シリアルL.1007

マーリンIII

◆武装:20mm機関砲2門のみ(テスト用特殊武装)

◆20mm機関砲搭載テスト機

◆機体重量2.67t(5925lb)

●デ ハビランド 2ピッチ金属プロペラ

◆給気圧(boost pressure) 最大6.1lbs/sq

◆87オクタンガソリン

最高速度

582.4km/h(364mph)  5669m(18600ft.)

3048m(10000ft.)での最高速度

データなし

6096m(20000ft.)での最高速度

580km/h(362.5mph)

実用上昇限界(Service Ceiling)

11500m(34,500ft.)

上昇力

 

3048m(10000ft.)まで

4.9分

4572m(15000ft.)まで

7.5分

6096m(20000ft.)まで

10.7分

試験地:ボスコムダウン

1940年3月19日

Mk.I シリアルN.3171

マーリンIII

◆武装:7.7mm×8門(この段階ではA翼とは呼ばない)

*防弾装甲増加済みのタイプ

◆機体重量2.74t(6050lb)

●ロートル 定速金属プロペラ

◆給気圧(boost pressure) 最大6.1lbs/sq

◆87オクタンガソリン

最高速度

566.4km/h(354mph)  5761m(18900ft.)

3048m(10000ft.)での最高速度

512km/h(320mph)

6096m(20000ft.)での最高速度

565.6km/h(353.5mph)

実用上昇限界(Service Ceiling)

10580m(34,700ft.)

上昇力

 

3048m(10000ft.)まで

3.5分

4572m(15000ft.)まで

5.4分

6096m(20000ft.)まで

7.7分

表が3種類あるのは伊達や酔狂ではなく、ある程度、意味がある。

一番上は開戦直後の平均的なスピットの姿、
7.7mm機関銃×8丁、87オクタンガソリン使用、
デ ハビランド社製2ピッチ可変プロペラ搭載、防弾装備はあまりない状態。
木製固定ペラから2段階切り替えのプロペラピッチに進化、
時速586.5km/hというのはMk.Iの記録の中でも、最速の一つだと思われるが、
この機体は初期型で、実戦闘参加した機体より
防弾装備が少なく、やや軽めだった。
なので、これを「スピットMk.I の能力」と言うにはやや抵抗がある。
機体スペックは「どの状態の時のものか」という点に注意しないと、
うかつに判断するのは危険だ。

二番目のは20mm機関砲搭載テストの機体。
開戦直後の'39年7月に早くも行われているのに注意したい。
20mm機関砲のスピットへの搭載は、よく言われる
「バトル オブ ブリテンの戦訓を取り入れて」
というより、
「こんなこともあろうかと」
準備しておいた装備が予想通り必要になった、というところのようだ。
エンジンがマーリンIIIなのにも注目。
オリジナルのデータシートではなく、
テキストデータにされたものからの転載なので、
転記ミスの可能性は残るが、もしこれが正しいなら、
マーリンIIIは、2ピッチプロペラも、定速プロペラも、
どっちも搭載可能だった、ということになる。
20mm機関砲の出っ張りの空気抵抗の結果、微妙に速度は低下してるのだが、
どういうわけか、上昇力は大幅といっていい実力アップを見せている。
うーん、この機体、7.7mm機銃は全部降ろしてしまっていたので、
最初の機体より20kg程度軽いのだが、その程度でここまでの
性能アップは考えにくい。
試験場所も時期もほぼいっしょであるので、気候的な影響もないだろう。
夏だから上昇気流でも捕まえてしまったのか…。
この機体だけ、実用上昇限界が飛び抜けて高いので、
「たまたま上昇気流にぶつかった」可能性はあると思うのだが、
実はこの後出てくるMk.V(5)でも同じ現象が…。

最後のが、実戦投入直前のスピットの姿で、
ロートル製定速金属プロペラに変更、コクピットに防弾ガラスを付け、
主翼の弾倉も防弾板で守るようにするなど、防護系の強化を行った。
約50kg程度重量が増加しているのはその防御装備ためだろう。
最高速度の低下は、主にその重量増加の結果と考えられる。
もっとも、先に書いた通り、この後で過給器の給気圧を上げてパワーアップ、
という根本的な改良が行われるので、この資料を見て
Mk.I の性能はこんな感じか、と思ってしまうと、微妙に異なると思われる。

もっとも適したプロペラピッチに自動的にあわせてくれる
ロートル社製の定速プロペラを搭載、その結果、重量増加にもかかわらず、
上昇力が大幅に上昇しているのが目を引く。
6000mまでなら3分も早いのだから、かなり有効な装置だったと言えるだろう。


NEXT