ゼロ戦を別にすると、もっとも現存機に恵まれた日本の大戦機が
この紫電改で、戦後、アメリカが4機持ち帰った紫電改のうち、
3機が現地で生き残っています。
(ちなみにアメリカ軍占領軍は海軍機の小型機に関しては
ほぼ全て4機ずつの接収を要求してる。陸軍機は結構数がバラバラなのに)

今回はそのうち、スミソニアンの航空宇宙博物館別館、
ウドヴァー・ハジーセンターの機体と
アメリカ空軍博物館の2機を紹介しましょう。
残りの1機は、フロリダ州ペンサコラにある
アメリカ海軍博物館で展示中ですが、この機体は私は未見です。

ついでに日本にも愛媛県の公園に一機、
戦後に海中から引き上げられて、
最低限の補修だけを行なった機体が
展示されていますが、これも私は未見。

ちなみに400機前後しか造られてないのに、
紫電改は初期、中期、最終と三つも生産型があります。
現存機は全て中期型の21型甲型(N1K2-ja)らしく、
最初に紹介するスミソニアンの機体もこれです。

終戦後にアメリカが接収して持ち帰って試験したもので、
大村基地と追浜基地から2機ずつ接収された内の1機です、
スミソニアンの解説ではどこからの接収か不明と書かれてますが、
世界の傑作機No.124によると大村基地で接収された5341号機だとの事。

その後、1983年まで海軍基地で
野ざらしにされていたものをスミソニアンが引き取り、
(ただし上の世界の傑作機によると1988年までとなってる)
後にチャンプリン航空博物館が1991年ごろから1994年にかけてレストアしました。
なので、いわゆるスミソニアンによるレストア機ではありません。

チャンプリンの民間施設がどこまで正確なレストアを行なったのか、
私には判断がつきませんが、元々、雨ざらしでボロボロになっていたため、
かなりの部分が新たに作り直されてしまっており、
少なくともオリジナリティの維持、という点ではあまり期待できません。

この点はどうも私が見てない唯一の機体、
海軍博物館の機体が一番状態がいいようです。

それでも、かなり丁寧にレストアされてますから、
一定の資料性はあると思いますので、一通り紹介しましょう。



例によって大量に機体を詰め込んでしまってる
ウドヴァー・ハジーの展示機なので、見られる角度が限られます。

まずは可能な限り真横から。
この尾翼に向けてちっとも胴体が絞り込まれない太い胴体が紫電改の特徴です。
普通に考えて、重くなるし流線形でない胴体は機体後部の圧力抵抗の増加を招きますから
ロクな事がない設計となってます。

まあ、それも理由があるわけで、
そもそも紫電改は少々変わった産まれを持つ戦闘機でした。

最初は水上戦闘機の強風、という機体が開発されたんですが、
どうも水上機なんて使い道ないぜ、という事になり、
これを陸上機に改造して紫電という戦闘機が造られます。
ところが、これがかなりの問題作で(約1000機ほど量産しちゃうんですが)、
それを実用に耐えるレベルにしたのがこの紫電改という事になります。
つまり紫電を改良したから、紫電改ですね。

なんだこの開発の迷走、と言う感じですが開発会社の川西は
海軍軍人の最強の天下り先、というより退役軍人が
完全に乗っ取ってしまった会社だったので、
仕事が途切れないように、海軍側が気を使った結果がこれでしょう。
社内には仕事も無いのに会社に雇われてる
元海軍軍人がやたら居て、威張っていたそうですから、
海軍にとってこれほど居心地のいい天下り先は他にないでしょうし。

で、最初の強風を紫電に改造する時、
この太い胴体のスタイルが採用されたようです。
そもそもフロートに水平に乗っかってた水上機の強風と違い、
尾輪で三点姿勢となる陸上機の紫電では、デカいプロペラに細い尾部だと
三点姿勢で機体が上を向きすぎる事になります。

これではマトモに離着陸できません。
そこで、妥協案としてこのスタイル、
機体後部を高くするために胴体を絞り込まない、という形になり、
紫電改もそれを受け継いだ、という説が有力なようです。



正面から。

同じエンジンの疾風と同じく、
強大なエンジンパワーを生かすために4枚プロペラです。
海軍の場合、紫電改の同期というかライバルと言うか微妙な存在の
三菱の雷電からすでに四枚プロペラを採用してました。

もう一つ、主翼から飛び出した4門の20mm機関砲が
この機体のウリの一つで、この強力な武装は、
当時でも第一線級のものでした。
(故障さえしなければ…)

ただし海軍は当初、この機体に天下り先の確保以外、
それほど期待はかけてなかった様に見えます。
そもそもゼロ戦以降の戦闘機に関してはゼロ戦のパパ、
堀越さんに全てを任せる気だったはずです。

ところが彼の設計した機体は、
全て悲惨な状況に置かれてました。
まず、いろいろあった局地戦闘機、
本土防衛用(普通に考えると陸軍の仕事のはずだが…)の雷電は
実用化まであまりに時間がかかってしまい、
さらにゼロ戦の本格的な後継機、
烈風も全く実用のメドが立っていませんでした。
実際、烈風は最後まで量産に入れないまま終戦を迎えてます。

なので、それらの代役として急遽注目されたのがこの紫電改で、
ようやく登場したゼロ戦の後継機として海軍の期待と
天下り先を、その太い機体で一身に背負って行く事になるのです。

ちなみに紫電改はデブ戦闘機という印象がありますが(私だけ?)、
これはシリまで全く絞り込まれない胴体と、
後で見る主翼と胴体間のフィレットによるもので、
このため正面や上から見ると、それほどデブな印象がありません。



なんとか後ろから撮影。

この角度で見てもそれほどデブな印象はありませぬ。
というか、この機体、基本的に背が高すぎる、
つまり胴体が妙に縦長で高いんですよね。

同じエンジン(ハ45)の疾風はもっとスマートですから、
これは設計担当者のセンスの差なんでしょう。

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