さて、ここからはまず機体の全体像を見て行きます。

まずは横から。
固定の脚にスパッツ(Spats/原語としては短長靴といった意味)、空気抵抗を減らすカバーを付け、
単葉(主翼が一枚)で舵面(ジュラルミン骨に羽布貼り)を除けば全金属という設計は
1938年(昭和13年)採用の日本の機体としてはそこそこ先進的でしょうか。
だいたい欧米から3年遅れ、というのが当時の日本の最新技術というのが個人的な見解ですが、
この機体もほぼそんな感じで、ガンバってはいるでしょう。



今度は反対側から。
横から見ると、尾部に向かってギュっと絞り込まれてるのが判ります。
垂直尾翼の舵面がかなり大きく取られてるのは、細かい操縦性が重視される機種だからでしょうか。

胴体横でラウンデル(国籍章)まで伸びてるレールは後部キャノピー(天蓋)を
開けるときのためのレール部。
上の写真では下を向いてたエルロン(補助翼)がコッチでは上に跳ね上がってるのも注目。
胴体進行方向を軸に機体を回転させるための装置がエルロンです。
この状態だと左の主翼の揚力が低下して沈み、右の主翼の揚力が上昇して持ち上がり、
機体は胴体を軸に左に傾きます。
その結果、翼の揚力も左に向きますから、そっちに引っ張られ、機体は左に曲がってゆくわけです。
なので機体内の操縦桿は左に倒れてるはず。

ついでに尾翼前の胴体に開いてる穴は、もはやおなじみ、ここに棒をさして機体を持ち上げるもの。
タイ空軍博物館ではホーク75Nがこれを使用した展示になってたので、参考までに載せときます。



こんな感じで、穴に棒を通し、それを三脚などで支えて持ち上げるわけです。
こうするとエンジンの高さが低くなって整備が楽なのと、
機銃が正面を向くように位置が設定されてるので、
この状態で機関銃の射線調整を行うわけです。



ほぼ真正面から。

主翼の下に出てるのはフラップで、意外に複雑な構造をしてます。
後で見るように主翼周りはT-6テキサンから強い影響を受けてるのですが、
フラップはより大きくなっており、元は直協機ゆえに短距離離着陸を意識したのかもしれません。

ちなみに98式直協機も、その派生型であるこの99式高等練習機も
機首部に7.7mm機銃を積んでるはずなんですが、
ちょうどプロぺラの影になってしまっていて、見えません。

機体を安定させるための上半角(低翼機の主翼を上に跳ね上げる)が脚から外にのみ付いてるのは、
1930年代前半に流行したノースロップ流の機体構造だからでしょう。
主翼は主脚までとそこから外で完全に別バーツとなっているのです。

全翼機に走る前のノースロップがアルファやガンマで採用、
その後、DC-3(これも主翼の基本設計は彼)や
後で見るT-6テキサンなどにも使われてる構造です。



ノースロップのダンナが1932年に開発したガンマ。
ええ、当然、日本も“研究用”に(笑)これを2機購入しております。

わずか60機前後しか造られなかった軽輸送&軽爆撃機ですが、
主脚の外、主翼の外翼だけが別パーツになっており、そこにのみ上半角が付いてる
ノースロップ式の主翼を採用してるのがわかるかと。

この先輩にあたるノースロップのアルファ、
そして後に彼が主翼の設計だけに関わるDC-1、2、3も同じ構造を持ちます。

で、後で見るようにT-6テキサンも同じ構造なんですが、この機体にノースロップが関係していた、
という話は私は見たことがないので、模倣設計の可能性が高いです。
当然、この98式直協機もそうなります(笑)。




これで構造的に簡略化できて軽量化できるのと、
胴体と一体化されて繋がってる内翼(主脚より内側)に燃料タンクを搭載できる、
というメリットがあったようです。
ただし、1930年代も終盤以降、あまり見ないスタイルになってしまうので、
意外にメリットは少なかったのかもしれませぬ。

ちなみに後のF6Fも脚から外の外翼が完全別構造で、そこだけ上半角が付いてますが、
あれは折りたたみ翼の構造上、脚から外にしか上半角がつけられなかったからで、
ノースロップ式構造とは別ものです。




真後ろから。
主翼両端のエルロンが左右で別方向に跳ね上がってるのに注目。
内部の操作索はキチンと生きてる状態ですね。
さらに尾翼の舵面が上に跳ね上がってますから、
操縦桿は左手前に倒れてるようです。
非常にスマートな印象の機体で、やはりその任務を考えると、とても贅沢な印象があります。

尾部に開いてる穴は、おそらく尾灯が付いていた場所。

98式直協機は、先にも書いたように近接航空支援、
つまり敵部隊を爆撃する、という任務も期待されていたからか、とも思いましたが、
どう考えても、そんな任務に機体のスマートさはあまり意味がないので、
ここら辺りの理由はよくわかりませぬ。
どうも設計者の趣味じゃないかなあ、という気が。

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