■ウドヴァーハジー展示機

今回紹介するのは世界で唯一の現存機で、
スミソニアン航空宇宙博物館の
ウドヴァー・ハジー別館で展示されてるもの。

ただし私の見学時には先に述べたような状態だったので、
完全な機体ではありません。
それでもHe-219は戦中の実機写真すらほとんど残ってない機体なので、
それなりにいろんな発見があると思います(多分)。

この機体はHe219 A-2/R4、290202号機で、
A-2というのは初期型ですね。
ただし、A-7じゃないか、という話もあるそうなんですが、
これはエンジンを見れば直ぐに判別が出来るため、
エンジンまでレストアしたスミソニアンが
これはA-2だと言ってるのでA-2なのでしょう。

この機体はアメリカが戦争末期に実行した
「ドイツ空軍の秘密を調査しちゃう大作戦」ことルスティー計画
(LUftwaffe Secret TechnologY の略でLustyだが、Operation Lustyと書くと
「元気モリモリ大作戦」といった感じの意味になる。米軍おなじみのダジャレ作戦名)
で鹵獲された3機のHe219中、唯一の生き残りです。

ちなみにHe-219はイギリスも鹵獲、
本国に持ち帰ってるんですが、あのイギリス人が珍しく
これを保存せずに破棄してしまってます。
ドイツ夜間戦闘機の相手はイギリスの夜間爆撃機でしたから、
イヤな思い出がありすぎたのかしらむ…

とりあえず、まずは全体の形状を確認できる写真から。



主翼がない胴体を横から見た状態。
妙にひょろ長い印象ですが、実際に全長は15.6mもあり、
同じドイツの双発戦闘機のMe-110より約3m、
イギリスのモスキートよりも約2m長くなってます。

これは最初爆撃機として計画され、
当初は胴体に爆弾庫を組み込んだ設計だった名残かも知れません。
実際、同じく爆撃機から転用されたJu-88もほぼ同じ全長ですし。

下が真っ黒なのは夜間戦闘機に典型的な夜間迷彩で
下から見上げると夜空に溶け込むような色になってます。
その分、上が派手ですが、これは上から見下ろした場合、
雲に溶け込むための迷彩。
夜でも雲は明るいので、ヘタに暗い色を塗ってしまうとかえって目立つのです。

逆に普通に地上の上を飛んでる場合は、
ちょっと目だってしまいそうですが、
ここら辺りは実際に夜間に上空から見た事がないので
何とも言えませぬ…。



後ろから見てもなんともひょろ長い機体です。

尾翼が二枚板なのは、
実戦用の機体として世界初の射出式脱出座席を搭載してたため、
それがぶつからないようにしたからだ、と言われてます。
ただしMe-110とかは後部機銃の射界確保のために双尾翼にしてるので、
もしかしたらこの機体も最初は後部に銃座を積む気だったのかも。

この時代の射出座席は圧縮空気で押し出す程度のものであり、
機体の上を転がるように脱出するため、こういった工夫が必要だったようです。

同じくハインケル社製で、同じような射出座席を搭載したHe-162でも二枚尾翼ですが
あれは背中にしょったジェットエンジンの排気を避ける、という意味もありました。
ついでに、このV字型に傾いた水平尾翼は
そのHe-162にも引き継がれてますから、
ハインケルの機体の特徴の一つになってます。



真後ろから。

この機体の展示の周囲には、いろいろなものが置かれてるため、
意外に撮影がムズかしく、これが精一杯。
主翼の展示が始まったら、もう少しなんとかして欲しいところです。

V字型の水平尾翼と、それと一緒に傾いてしまってる垂直尾翼を見ておいてください。



真正面から見るとこんな感じ。

なんとも独特な面構えですが、
実際はこの四隅に四本のレーダーアンテナが付きます。
この時代の航空レーダーのアンテナは八木アンテナ、
つまりTVアンテナと同じタイプのものですから、ここから蛾の触角のように
それらが飛び出していた事になるわけです。
(場合によっては中央にさらに一本追加で五本となる)

よく見ると胴体下に何か出っ張っていてそこに穴が2つ開いてますが、
あれは武装パックで中に20mmのMg151機関砲2門が入ってました。
主翼にも20mmの固定機関砲があったはずなので、かなりの重武装でしょう。

さらに夜間戦闘機お馴染みの斜め上銃、シュレーゲ・ムジークとして
30mmのMk-108を胴体に2門搭載してましたから、
武装を見る限りでは、極めて強力な機体となっています。

まあ、相手は重爆撃機ではあるんですが、
夜間に飛んでくるのは、アメリカに比べてやや貧相といっていい
イギリスの爆撃機ですから、そこまでやらんでも…という気も。


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