■He-162A2

まずはロンドンのRAF博物館に展示されてる162A2から。
He162には、2種類の生産型があったとされ、
極初期に少数生産された30mm機関砲搭載のA1、
そして、この写真の20mm機関砲搭載のA2です。

普通は後から生産される方が武装は強力になるものなんですが(笑)、
この機体の場合最初に搭載した30mm機関砲の発射の反動に耐え切れず、
パワーダウンされた、とされます。
後に、機関砲周りに構造強化材を入れて、30mmの反動に耐えられるようにした
機体も計画されたようですが、計画倒れで終わってます。

積んでた30mm機関砲は銃身の短い(反動の小さい)Mk108だったようなので、
よほど機体の構造が弱かったんだろうなあ、と思われます。
(Me262なんて機首に4丁積んでるのだ)
まあ、いろいろと無茶してるんでしょうね…。

展示の機体は1945年4月に1/JG1に配属された機体、
という以外は詳細不明のもの。
終戦時にイギリスは11機ものHe162を押収して本国に持ち帰り
(これはイギリスが自国に持ち帰った全日本機の3倍近い数)
そのうち5機を飛行可能にして、テストを行ったようですが、
この展時機は飛行テストには使われてないものらしいです。



さて、まずは斜め前から。
この展示は真横に回れないので、とりあえずこの角度で。

とにかくビックリするくらい小さな機体で、それこそラダーも何もなしで、ヨイショとコクピットに乗れそうです。
機首下面に飛び出してるのが20mm機関砲で、左右で計2門搭載してますから、
このサイズからすると、かなり強力な火力を持ってますね。



反対側から。
この機体はなんとも不思議なボディラインをいくつか持ってます。

その1が、機体上のエンジンポッド。
単純にエンジンを一基入れてるだけなんですが、妙に猫背の有機的なラインになってます。
これはドイツのジェットエンジンは補器類をエンジン前半上部に搭載しているためで、
ユモ004を積んでたMe262は主翼下にエンジン搭載、というメリットを活かして、
主翼とエンジンポッドが繋がる部分に巧く埋め込んでしまってます。
が、背中の上に背負い込む形になったこの機体では、その部分がこんな形で残ってしまうことに。

で、その2は主翼全体。
胴体と主翼が接する部分の後ろのほうを見てもらうと、突然、下方向にめくれてるのがわかるでしょうか。
何らかの破損ではなく、元からあの形です。
あの部分にはフラップがあるため、この機体のフラップは、その端が内側に歪んだような、不思議な形状をしてます。
ここら辺りは、次の写真でよくわかるかと。



主翼を端から端まで見てもらうと判りますが、
胴体に近づくにつれて水平ではなくなり下方向にねじれてます。

あまり見たことの無い設計で、何を考えてるのかさっぱりわからんのですが(笑)、
普通に考えれば、主翼の曲がりを大きくして揚力を稼ぐのが目的でしょう。
(内側の主翼は水平飛行でも大きな迎え角になる)
が、当然、こんな事をすれば空気抵抗が大きくなりますから、速度は出ません。

無論、そんなことはハインケルの設計陣だって百も承知でしょうから、
なんらかの設計ミスで、主翼の揚力が足りないことがわかって、
急遽こうしたんじゃないか、と。
相当に致命的な設計ミスですが(笑)…

ついでに、この機体の謎、その2.5、主翼両端も見ておきましょう。
ご覧のように、翼端が下に曲がってます。普通はやりませんね、こういうの(笑)。

これによって考えられる効果は三つ。
まずは誘導抵抗の削減。
翼面の上下には気圧差があるため(だから浮くのだ)、
翼端では上方向吸い上げる気流が生じ、これが渦となって後方に伸びます。
で、渦が出来ればこれは誘導抵抗となり、飛行機の前進を阻む力になるわけです。
(説明はややこしいので、とにかく渦が出来たら抵抗になると覚えてください)

なので、現代の旅客機などでは、主翼の端に垂直尾翼のような板を付けて、
気流を遮断し、渦の発生を抑えて、抵抗を低減させるようにしています。
抵抗が小さくなれば、それに対する抗力も小さくてすみ、それは燃費の節約に繋がるからです。

が、先に書いたように、この機体はチョー局地戦闘機であり、
燃費なんざ気にしないで、パーッと上昇してパーッと機関銃をぶっ放す戦闘機なのです。
さらには、翼の端の誘導抵抗が問題になるのは一般に低速の巡航時で、
とにかく最初から最後まで全力で行くぜ、といった局地戦闘機には全く意味がない。
よって、この目的で付けられたものとは考え難いです。

で、可能性その2は、直進安定性の確保のための構造で、
これが一種の垂直尾翼の役割を果たしてる、というものです。
この機体の尾翼周りは、断末魔的にゴチャゴチャしてますから、
その補助として付けられた可能性はありますが、
機体の重心点である主翼付近に、こんな小さい板を付けただけで、
どの程度効果があったのか、といわれると、微妙な感じはします。

最後、その3は離着陸時の揚力増大を狙ったもの。
航空機の主翼からは下向きの気流が発生しており(ヘリコプターの下に行けばわかる)、
機体が地面付近に近づくと(主翼の全長より短い高度)、
これが地面で反射されて機体にぶつかり、一種の揚力として働きます。
いわゆる地面(水面)効果です。

で、この地面から反射してくる気流を効率よく揚力として活かすため、
両翼端を下に折り、その流れを逃がさないようにして、揚力を稼ぐわけです。
“カスピ海の怪物”を始めとする地面(水面)効果機が使う手で、
これはかなり効果があるとされます。

で、主翼の変な捻れとかを見てもわかるように、
この機体は全体的に揚力不足、さらにエンジンは単発でパワー不足に見え、
この離着陸時の揚力を稼ぐためのもの、というのが妥当なとこじゃないでしょうか。

ちなみに、この翼端が下に曲げられるのはテスト飛行後の不備修正時なんですが、
この時のレポートで指摘されていた重大な不備は高速旋回時に不安定になること、
ダッチロールの傾向があること、そして離着陸距離がやたらと長いこと、でした。

翼の端を下に曲げて高速旋回の安定性が良くなるかはわかりませんが、
離着陸距離は、揚力の増加で、ほぼ確実に短くなるだろな、と思うわけで。

ついでに、もう一つの不具合、ダッチロールの不安定性、
つまり機体を中心に主翼の左右がシーソーのように上下してしまう事の対策として、
主翼に下半角をつける(横安定性を殺す)目的で追加されたものだ、とする説もあります。
ドイツのちょっとアレな航空機設計屋さん、リピッシュ博士が
開発していたLippisch-Ohren (リピッシュの耳)という、
横安定性を殺すための小さな翼だ、という説です。

が、私の知る限りでは、このLippisch-Ohrenという呼び名は
He162の解説以外で見たことがないのです。
(恐らく出所は1960年代に出たドイツ機の古典本、Arming the Luftwaffeだが、
この本ではダッチロール対策だとは書いてない。
誰かが引用の時に勘違いしたんじゃなかろうか。
ついでにこの本によれはHe162の設計にリピッシュ博士が参加していた、
となっているが、確認はとれなかった…)

そもそも、リピッシュの設計した機体は後退角を持った全翼機ばかりで、
その翼の端についてる板は下に出てたり、上に出てたり、
さらには上下に付いてたりで、必ずしもHe162と同じ形状ではありません。

もし下半角効果を狙うなら、主翼全体に斜め下から吹き付ける気流を防ぐ、
あるいはその流れを変えるか、それに匹敵する逆向きの力を発生させる必要があり、
ちょっと、あの大きさの板では無理だと思われます。
なので、ダッチロール対策の可能性はとりあえず低いと考えていいんじゃないでしょうか。



やや正面から。
この独特な主翼形状にのおかげで“トレンチコートを広げてる変態のオジサマ”に
見えてしまうのは、私の心が汚れてるからでしょうか。

エンジンポッドの中にBMW003のセンターコーンが見えてますが、
あの中に始動用の2サイクルエンジンが積まれてました。
ユモ004と同じAK11というエンジンで、戦後はメッサーシュミットの三輪車の
原型となった車にも積まれたりしたものです。
(メッサーシュミットが量産した段階では別のエンジンになってるが)

ついでに、世界中のHe162の現存機は、ほぼ全てこの機首に赤い矢印が描かれてますが、
He162が配備されたのはJg1だけだったはずなので、その塗装なんですかね。


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