■アドルフに告ぐならヘンリーにも告げねば

さて。今回までが脱線だよ(開き直り)!

今回のお話の冒頭で登場した、ヘンリー フォード。
彼の業績である大量生産システムがいかに戦争に貢献したか、
を見ているわけだが、もう一つの大きなポイントを見ておこう。
すなわち、ヒトラーに影響を与えた重要な人物の一人、と言う点である。
彼らは「反ユダヤ」という点で、強烈なまでの連帯感を持っていた。
(反労働組合、反共産党もあるが…)



ロンドン中心部のちょっと南にある帝国戦争博物館。
ここにはナチスの虐殺に関するかなり立派な展示コーナーがある。
そしてアメリカのワシントンDCには独立したホロコースト博物館がある。
ああ、戦争の惨禍を繰り返さないために、イギリスもアメリカも立派だな…
などと考えるようだと、あまりに日本人的で人が善すぎる(笑)。

上に挙げた博物館たちは入場無料、
その運営資金は基本的には募金と国からの補助金に頼っている。
なので、年単位の運営資金を寄付できるなら、
自分の気に入った展示をさせるなんて、簡単にできる。
それが「ユダヤ人の悲劇を繰り返さないため」
という大義名分付きなら、なおさらだろう。
お金の力は偉大である。

ユダヤ人を襲った悲劇は疑う余地がない。
繰り返してはならないことも、間違いない。
悲劇を繰り返さないために、あらゆる手を打つ、という気持ちもわかる。

だが、アメリカの大統領候補に誰がなろうと、
真っ先にイスラエル支持を外交政策で打ち出すことになる、
この現代の状況は、あきらかにやりすぎだ。
これもナチスのゆがんだ遺産の一つだろう。
あの悲劇で、彼らは異常なほど強くなった。

悲劇は繰り返してはならないが、
過去を人質にとるなら、それは卑怯だ。



突然、話が飛ぶ。
さまざまな呼び名が存在するのだが、一般的には
「シオン長老たちの議定書」
というタイトルで知られる偽書、まあオポンチ本がある。
(Protocols of the Elders of Zion:
Zionは「ジオン」じゃないよ「シオン」だよ。ユダヤだからね。
ちなみに昔はジオンの綴りはZionだったのに、
サンライズは後に変えてしまうんだよ、ベイビー。最初からやるなよ…)

基本的に、その内容のほとんどは、でっち上げ、と見てよい本だ。

「歴史上の大きな戦争は影でユダヤ財閥が糸を引いているニャー」
「ユダヤ財閥が世界の征服を目論んでいるワン」
といった被害者妄想的ユダヤ人話のルーツは、ほぼこれだ。
ある意味、この手の話は100年以上、進化も変化もないのである。
…まあ、実は私、この本まだ読んだことないんだけど…。

1903年前後にロシア人によって造られた、とされる書物で、その内容は
ユダヤの長老(賢者)と呼ばれる人々が1897年、
ユダヤ代表会議で、世界征服の陰謀を進めることに合意した、というものらしい。
(読んでないので断言はできんが、まあ、細かい内容はどうでもいい)
とりあえず、世の中に出回っている
「ユダヤ人に警戒せよ!」という思想のほとんどが、
何らかの形で、これの影響を受けていると思われる。

余談ながら、ロシアにおけるこの本の製作時期と出回った時期が、
日露戦争と一致するのは偶然じゃないはずでヤンス。

で、これをアメリカで最初に大々的に紹介したのが
我らの愉快なおじさんことヘンリー・フォード閣下だ。
ヘンリーのユダヤ人嫌いは有名なのだが、それがこの本の影響なのか、
元からの彼の思想なのか、ちょっとわからない。
が、この本から強い影響を受けているのは間違いない。
そして彼がナチスとラブな関係になるのも、
基本的に反ユダヤ的思想によるところが大きい。

1919年に行われたニューヨーク ワールド という雑誌のインタビューで
「あれゆる戦争の影にはユダヤ人財閥の暗躍があった。
ドイツの、フランスの、イギリス、そしてアメリカのユダヤ人…
ユダヤ人は世界の脅威である」とヘンリーは述べている。
あきらかに「シオン長老たちの議定書」の影響が見れるだろう。

で彼は、同年に地元ミシガンの新聞社を買収、
「ディアボーン インディペンデント(ディアボーンはフォード本社のある場所)」
と名付けたその新聞で、執拗なまでの反ユダヤキャンペーンを展開し始め、
ここに「シオン長老たちの議定書」を連載したようだ。
(ただし新聞といっても“weekly newspaper”で、週刊誌)
後に単行本にまとめ
「国際的ユダヤ組織(The International Jew)」
というタイトルで出版した。

この本、1920年代に50万部発行を発行した、というから、相当な量である。
(だだし4分冊で、その総数だと思われる)
アメリカでこの本が本格的に紹介され、
かつ注目されたのは、多分、これが最初のはず。

どうもヘンリー、根が単純なだけに、「シオン長老たちの議定書」
をアタマっから信じてたフシがあり、
「この事実を全アメリカ国民に知らしめるのがワシの仕事じゃけん」と
完全にドタマに血が上っていたように見える。

もっともさすがにやり過ぎたようで、この新聞は1927年に廃刊となった。
とはいえ、その後もヘンリーは反ユダヤの発言を繰り返したりしてるので、
あまり懲りた様子はない…。

ついでにこの新聞、一節には90万部を超える発行部数を記録した、
との事だから、1920年代のマスメディアとしては、けっして侮れない。
しかも名前からしてデトロイト周辺の地方紙か、と思ったら大間違いで、
ヘンリーはフォードのディーラー網を通じて、全米にばらまいていたのだ。
1部5セント、という表示があるので、タダで配っていたわけではない。
とすると、当時のアメリカの草の根では、ナチズムに対する意外なまでの理解、
反ユダヤ主義というのが存在したことが想像できる。
アメリカ人が本気でナチスを憎むのは、戦争でアメリカの敵にまわってからだろう。

余談ながら、1921年にはイギリスの「タイムズ」紙が「シオン長老たちの議定書」が
でっち上げの偽書である、とほぼ断定する詳細な記事を載せるのだが、
ヘンリーも、ヒットラーも、ぜんぜんその点は気にしてなかったように見える(笑)。

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