■衝撃波減速装置

最後に、通常、超音速で飛ぶ機体は尖がったクサビ型の形状なのに、
シャトルが昔の新幹線みたいな丸っこいのはなぜ?
という部分を少しだけ触れておきましょう。



燃料を食うアフターバーナーなしで、
長時間の超音速飛行が可能なのが売りのF-22とかだと、
こんな感じの先端が尖がった、いかにも空気抵抗の少なそうな形をしてます。

ただし800q/hの速度くらいまでなら、
先端を尖がらせる必要は特に無く(ジェット旅客機を見ればわかる)、
さらにマッハ1.5くらいまでなら、こんなに尖らなくてもなんとかなります。
この尖がりぶりは、より高い(マッハ1.5辺りから上)を飛ぶ時に発生する
接触衝撃波対策でしょう。



■Photo : NASA

対してシャトルの軌道船は、モスラか0系新幹線か、という世の中ナメテるような
丸っこい面構えとなっています。
マッハ20とかの極超音速で飛ぶのに。

これは自ら音速まで加速し、そのエンジンの力で速度を維持する必要がある超音速機と、
逆にすさまじい高速から一気に減速しなくてはいけなシャトル軌道船の違いが原因です。
つまりF-22はより高速が欲しい、逆にシャトルは高速から減速する必要がある、という事です。
その点を、少しだけ解説しておきます。

先にも書いたように、秒速で約7.66q、分速ですら約460qという凄まじい高速で
宇宙空間を飛んでるシャトルなどの宇宙船は、
多少の減速を行ってから落下して来るとはいえ、
それでもケタ違いに高速のまま、大気圏に突入して来ます。
これを地上に到着するまでに300q/h前後、すなわち秒速約0.083q、
約1/100の速度まで減速させるのは一苦労です。
そもそも突入角度を間違えると、重力で加速されてより高速になって落下して来る事になります。
(その落下速度は第一宇宙速度を超える場合もあるが、
速度のベクトルが下を向いてるので宇宙には飛び出ない。
実際、隕石の多くは地表近くでは第一宇宙速度より高速となる)

摩擦の少ない空中にある航空機の減速は意外に難しく、
旅客機のようのエンジンの逆噴射ができるとかでないと、
後は空気抵抗に頼ったエアブレーキ(空気抵抗板)くらいしか手がありません。
が、マッハ20とかで飛んで機体がエアブレーキを展開したら、
速攻で吹き飛ばされてしまうでしょう。
(戦闘機などでは上昇する事で速度を位置エネルギーに変換して減速するが、
とにかく降下してたいシャトルでそれをやってたら効率が悪すぎるし、
最悪、再度宇宙空間に飛び出してしまう)

ただしシャトルも着陸時にはエアブレーキを使います。
上の写真をよく見ると、垂直尾翼の後ろの舵部が開いてるのがわかりますが、
これは着陸後に舵部がパカっと左右に開いてエアブレーキになってるもの。
といってもこれでは十分でなかったようで、最終的にドラッグシュートが付くのですが。

話を戻します。
なので、より効率よく減速するにはどうするかというのは意外に重大な問題なのです。
それには高速で飛んでるシャトルを押しとどめる力を何かで発生させねばなりません。
その強力な力を、衝撃波による造波抵抗で発生させよう、
というのがシャトルの丸っこいデザインの秘密です。

基本的にマッハ1.5を超えた辺りからの超音速飛行では、
接触衝撃波と呼ばれる、機体に密着した衝撃波が発生し、
これは機首の先端が鋭角である、つまりシャープにとがってるほど、
通常、造波抵抗(運動エネルギーを奪って抵抗力にしてしまう)は下がります。

逆にシャトル軌道船のように丸っこい形状だと、
より大きな衝撃波の造波抵抗を伴います。
すなわち、それは大きな抵抗力の発生を意味するわけで、
この強烈な造波抵抗の力によってシャトル軌道船は減速してるのです。
よって、シャトルの軌道船はあんな丸っこい形状となります。
ここで尖がらせてしまうと、超音速飛行からの減速効率が悪化してしまいます。

そして、それだけ大きな力を発生させてる、という事は、
それだけ大きなエネルギーを消費してるわけで、
そのエネルギーの一部が熱に変換される結果、
シャトル軌道船が受ける背後熱もまた、最高1500度とかの凄まじい温度になるのです。

見方を変えれば、位置エネルギーと運動エネルギーを、
熱(=エネルギーと等価)に変換する事で、速度を落としてる、とも言えます。

ちなみに、丸っこいから単純に空気抵抗が大きい、というわけでなく、
あくまでこの形状から発生する衝撃波による抵抗力と、
そこで発生する熱に運動&位置エネルギーを変換する事で、
速度を落としてるのだ、というのに注意してください。
あの形状から生じる通常の空気抵抗なんかで、マッハ20で落ちてくる機体を
減速させる事なんてできませぬ。

とりあえず、この丸っこい形状で、超音速飛行時に、
より大きな造波抵抗と熱を生じさせ、
運動エネルギー、位置エネルギーを奪ってゆくのです。
この減速手段により、シャトルは5000q近い距離を飛行しながら、
徐々にその速度を落としてます。
これは無動力でパラシュートもなしに、落下しながら減速、
という冷静に考えるとスゴイ事をやってるんですよ。

といった感じで、今回はここまで。


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