■悲劇の3号機

●OV-099 チャレンジャー



宇宙飛行可能なスペースシャトル2号機がチャレンジャー号です。
シャトルとして6回目の飛行任務であるSTS-6で1983年4月4日初飛行。

その名はイギリスの探検船、HMSチャレンジャーより取られてます。
19世紀末、日本の幕末期に活躍した蒸気帆船で
挑戦者による探検計画(Challenger expedition)という船名と引っ掛けた計画によって、
世界初と言っていい海洋学のための航海を行ったイギリス軍艦です。
船内に各種研究室まで造ってあった船で、現在の海洋調査船の走り、ともいえるのですが、
なぜかアメリカはこの名が大好きで、アポロ17号の着陸船もチャレンジャ―号でした。
挑戦者、という響きがいいんでしょうね。

ちなみにこの写真に見られるような夜間打ち上げを最初にやったのがこのチャレンジャーで、
その後、最初の夜間着陸にも成功してます。

が、最終的にチャレンジャー号は1986年1月28日、
打ち上げから73秒後にロケットブースターの破損により損失。
シャトル軌道船最初の事故損失機となります。
これはチャレンジャーにとって10回目の打ち上げの事でした。
さらに事故後は原因究明と対策のため、シャトル計画全体が
2年半以上に渡り中断される事になります。

ちなみにこの早期の喪失のため、チャレンジャーはコロンビアと並んで、
国際宇宙ステーションを訪問したことがないスペースシャトル軌道船の一つになってます。
ただしこちらは単に時期の問題で、技術的な問題があったわけではありませぬ。

この機体は最初からオレンジ色の断熱塗料むき出しの燃料タンクとなってますね。
ちなみにマニア向けの情報として(笑)、この機体からNASAの文字と機体名が
右主翼上面に入るようになりました。
コロンビアでは単に左翼に国旗、右翼にUSAの文字だったのですが、
これらは左翼にまとめて描かれるようになってます。

ただし、この辺りは後にまた変更があって、最終的に全ての軌道船は
左翼にNASAのラウンデル(青い丸のロゴ)右翼に機体名とアメリカ国旗、
という表記に統一されます。
この辺りで写真の撮影日時が判るようになれば、
ご町内のスペースシャトル博士の称号はもはや手に入れたも同然でございましょう。

ちなみに、なんでこの辺りの表記がコロコロ変わったのかよく判りませぬが、
通りすがりのアンドロ梅田星人とかが、たまたま宇宙でシャトルの軌道船を拾った時に、
ちゃんと持ち主のところに届けてくれるように、といった配慮ですかね。

ついでにコロンビア、すなわちOV-102の次の機体なのに、機体番号が、
エンタープライズの101より若い099に戻ってしまってるのにも注意。

これはチャレンジャーは、もともと先行地上耐久テスト用に造られた機体であり、
その機体フレームの着工はエンタープライズより2年近く早い1972年7月だったからです。
が、当初はあくまで試験用の機体で、このため与えられた識別番号は
軌道船のOV番号ではなく構造試験用品(Structural Test Article,)
を意味するSTA番号でありSTA-099と呼ばれてました。
ただし、なぜか建造中にエンタープライズの作業が先に進められてしまい、
その完成はエンタープライズより2年近く遅い1978年月となってます。

が、この遅れのおかげもあって、コロンビア号に加えられた変更点の反映もでき、
さらに耐久テスト後もまだ機体は使用可能と判断されたので、
エンタープライズと違って、こちらは宇宙船に転用可能、と判断されます。

このためエンタープライズの代わりに1979年1月からその改修工事が始まり、
1982年6月までかかって宇宙飛行が可能な状態にされます。
この時、機体番号を新たに与えず、STA番号の099をそのまま持ってきて
OV-099としてしまったため、こんな変な順番の番号のまま
最終的にチャレンジャーの名前を与えられ完成する事になったのです。

ちなみにこの建造中に早くもいくつかの変更点が加えられました。
まず機体の一部の白い耐熱タイルが、以後のシャトルで主流となる
耐熱繊維に置き換えられ、機体の軽量化に成功してます。
これによってチャレンジャーの貨物搭載能力はコロンビアより1.1t増えた、
とされますから相当な進化です。

ついでに、主翼と機体の構造もコロンビアより強化され、
さらにHUD、計器情報が正面のガラスに投影される
ヘッド アップ ディスプレイも最初に搭載されており
(ただし完全なグラスコクピットでは無い)、
その内容は実質的に新世代スペースシャトルとなってました。
(この内いくつかは先に描いた1984年1月からの改修でコロンビアにも後付けされた)


このチャレンジャーが失われる事になる1986年1月の事故は、
右の固体ロケットブースターを燃料タンクに固定する器具が破損、
その結果、固体ロケットブースターが固定位置から外れてしまい、機体の制御が失われ、
超音速で飛行する機体が高速気流による巨大な力でバラバラに破断されたのが原因でした。
が、後で見るように、この事故は多分に人災の要素を持ちます。

とりあえず最初は、事故の概要を見て置きましょう。




■Photo : NASA

チャレンジャー事故 大統領諮問委員会
(PRESIDENTIAL COMMISSION on the Space Shuttle Challenger Accident)
の報告書に掲載された打ち上げ後の連続写真。

左上から右下方向に時系列順に並んでます。
まず左上の打ち上げから58.8秒後の写真に、右の個体燃料ロケットブースター(以後SRB)下部から
炎が漏れ出してるのが見えます(白矢印の先)。
写真右上の白い線画は諮問委員会が不鮮明な映像から、
正確な事故箇所を割り出すために制作した3DモデルのCG。

打ち上げ角度は厳密に決められており、さらに追跡カメラの設置角度もわかってますから、
両者のデータから割り出した角度にCGを置くことで正確な炎の場所の判定が可能となり、
これによって右SRBと燃料タンクをつなぐ接合部の根元から炎が出てると確認されたわけです。

時間がたつにつれ(写真順で右方向)炎はどんどん大きくなって行き、
発射から約60秒後の左下の写真では
外部燃料タンクにまでその炎が届き始めてるのが判ります。
この結果、燃料タンクとSRBを固定している金具が破損し固定ができなくなりました。
さらに燃料タンクからの燃料漏洩が始まり(約66.8秒)、
ほぼ同時に右SRBの下部が吹き飛ばされて破損したと考えられてます。

これによって右SRBが激しく振動を起こして正しい位置からズレてしまい、
推力が大きくズレた機体は想定外の動きに見舞われます。
(この高度ならSRB1本で全出力の40%近くを負担してるはず)

この時、すでに超音速で飛んでますから、姿勢を崩したことで
凄まじい速度の気流による想定以上の力が各接続部と機体にかかり、
スペースシャトルは一気に空中分解してしまうのです。

このため最終的にこの約15秒後、打ち上げから73秒後に機体は
想定を超えるねじれの力で分解、破損、
おそらく最初に燃料タンクが分解して内部の液体燃料が飛び散り、
爆発が起きたように見える白い煙の塊に包まれる事になります。

この白煙のため、軌道船の破損の状況は地上から見えなかったのですが、
ほぼ同時にこちらも強烈なねじれの力で引きちぎられ、バラバラになったと見られます。
(報告書の見積もりでは瞬時に20Gを超える力が加わったとみられる。
これは地上に居る状態で自分の20倍の重量が加わるのに等しい。
体重60sの人なら、1.2t、乗用車並みの重さ(力)を受ける事になる)



映像などを見るとチャレンジャーは爆発してるように見えますが、
実際には外部燃料タンクが破断された結果、内部の低温燃料、
液体酸素と液体水素が噴き出して飛び散ったもので、燃焼を伴う爆発ではありません。
火球が見えてるのはおそらくSRBの炎と、
それによって着火した液体酸素の一部の燃焼で、あくまで小規模なものです。

その白い蒸気から上方向に飛び出してる二本の太い煙は、
爆発後も飛び続けたSRBのもの。
さらに右下に少し太い煙を引いて落下して行く物体が見えますが、
これは別の拡大映像で、軌道船の主翼とメインエンジン、
さらにコクピット周辺なのが確認できます。

このSRB下部からのジェット噴流の漏洩の原因は、その接続金具の根元につけられた
ゴム製のOリングと呼ばれる密閉器具の不備によります。
(厳密にはもっと複雑だが、結果的にはそう言ってしまって間違いではない)
が、これも実は事前に予測されていた事態だった事に、この事故の根深さがあります。

この時は1月の打ち上げだったため、前日からの低温にさらされたリングが固まってしまい、
キチンと動作しない可能性がありました。
この点は、打ち上げ当日、メーカーであるサイオコール社からNASAに対して警告が出されてます。
(フロリダでも1月には氷が張るほど寒い日がある)
ところがこれを受けながらNASAの上層部は打ち上げを強行、
その結果がこの事故につながるのです。

これは当時かなり過密スケジュールとなていた上に、
この打ち上げはすでに計画から5日以上遅れていたため、
NASA幹部が安全性を無視しても打ち上げを焦ったため、と言われてますが、
後のコロンビア号と合わせ、防げたはずの事故だったのは間違いありません。

なんとも後味の悪い事故であり、先端技術も運用する人間が適当だと、
決して安全とは言えないのだ、という教訓を残してます。
…同じような悲劇は、日本だと福島の原発というさらに最悪の形で現れる事になるのですが…

といった感じで、今回はここまで。


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