■宇宙船は赤道大好き

さて、そんなわけで地球周回軌道に宇宙船を載せるには
高度400qで秒速7.6q前後という、かなり大きな速度が必要なわけです。

スペースシャトルは打ち上げ時の全重量で2000t前後になりますから、
これをそんな速度まで加速するのは一苦労、というのは簡単に想像ができます。
でもって、この苦労を少しでも減らそう、という工夫が
先に見た赤道付近の発射基地、そして東に向けての打ち出し、という事になるのです。

なんで?というのを見るには、この速度は地球中心点(質量中心だ)
から見た速度だった、という事を思い出してください。
あれ?と思ったらしめたもので、そう、我々は地表で暮らしており、
地球中心点から地球の半径分、すでに距離が離れているのです。

そして地球は東向きの方向に自転してる…
ということは、地表に張り付ている我々も、
空の彼方の人工衛星や宇宙ステーションほどでは無いにしろ、
すでに一定速度で東向きに地球中心点に対して回転してる事になります。
つまり、そこには遠心力が発生してるのです。

ただし、その速度と受ける遠心力は地球上のどこで
ノホホンと暮らしてるかで変わります。



地球は私に無断で、1日24時間で東向きにぐるっと一回転する自転をしてます。
でもって、これは地球上のどこに居ても同じ、
極点付近でも、赤道付近でも、1日は24時間なのです。

ところがドンスコイ・ドミトリエフスキー、
赤道付近は約4万キロの円周の長さがあるのに、
極点近くに行くにつれて円周の長さはどんどん短くなり、
極点に至っては、その距離は0になってしまいます。

が、これらは全て24時間で1周してるのですから、
当然、それぞれの位置で回転速度は異なる事になります。
例えば赤道は約40075kmの長さがあって24時間で1周する、という事は
何とびっくり時速1669.8q、海面高度の音速を軽く超える速度て回ってるのです。
対して北極点、南極点は移動距離0ですから、速度も0で、
数学的には計算不能な0の割り算になってしまうほどの速度差があります。

これだけの速度差があると、当然、そこで受ける遠心力、
地球の外側に放り出されそうになる力の大きさも変わって来ます。
当然、赤道付近では強力な遠心力が働いてるわけです。

この結果、同じ質量の物体を計量した場合、
極点付近と赤道付近では0.5%の差が付きます。
北極点で100sの体重だった人は、赤道付近に行くだけで
その遠心力により99.5sに体重は減るのです。
物理ダイエットですね(笑)。

まあ、この程度ならほとんど差が無い、という感じですが、
先に見たようにスペースシャトルの全重量は約2000tにもなりますから、
たった0.5%とはいえ、なんと10t も軽くなってしまいます。
軌道船の貨物積載量が最大で25t前後されますから、この差は大きいです。

そもそも先に見たように、外付け燃料タンクがいろいろ苦労してやっと7.7tの
軽量化を果たしたのに対し、赤道付近で打ち上げるだけで10tも軽くなるんですから、
これを利用しない手は無いでしょう。

そして、赤道のもう一つの魅力はその回転速度です。
地表に居る限り、絶対認識することができませんが、先に見たように、
赤道付近は地球中心点に対し、東向きに時速1669.8qとかなりの高速で回転してます。
秒速にすると0.464q/s と第一宇宙速度(高度400q付近)の7.6q/s に比べると
決して十分な速度ではないのですが、それでもゼロからの加速からする場合に比べたら、
赤道から東向きに打ち上げるだけで
6%近い高速度が最初から機体に与えられることになります。

特に2000tもの重量があるなら、そこまで加速するだけでも相当な燃料を食いますから、
これだけでも、相当な燃料を減らす事が可能になるのです。

すなわち、赤道付近では、まず重量を0.5%軽くできるし、
さらに発射の際の初速でも6%ほどお得になる、という事です。
なにせアホみたいな超高速が必要なくせに極めて重くなる宇宙ロケットでは、
少しでも軽く、そして速く飛ばしたいので、この差は無視できません。

といったわけで、世界中の宇宙ロケットによって夢と希望の土地、
赤道付近にその打ち上げ基地が集中する事になるのです。

ちなみに東向きではなく、極点軌道、南北方向の軌道で回る人工衛星の場合、
前者の重量軽減の効果はあっても、後者の初期加速の効果は期待できない、
という事になります。



■Photo : NASA

そんなわけで、世界中のロケットに取って赤道付近は聖地となるのです。
ちなみに同じ東側に打ち上げるのに海に面した土地を選ぶのは、
打ち上げ後にいろいろ落下させるロケットの場合(最悪本体が事故で落ちてくる)
人の住んでる土地の上を飛ばすのは危険だからです。

といった感じで大脱線でしたが、今回はここまで。


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