■いよいよ宇宙へ

さて、スペースシャトル計画は、
先行試作機ともいえるエンタープライズ号によりさまざまなデーターを取った後、
いよいよ実際に宇宙に飛んでゆく軌道船、OV-102 コロンビア号が完成します。
ちなみに今さらでですが、軌道船の形式番号のOVは
Orbiter Vehicle(軌道船)の頭文字を取ったものザマス。

ちなみにスペースシャトルと呼ぶ場合、軌道船、外付け燃料タンク、
2本のロケットブースター、これらすべてをまとめた状態を指し、
実際に宇宙まで行って帰ってくる機体はその中の軌道船だけです。

そのコロンビア号の起工はエンタープライズの製造開始後、
約1年たった1975年の7月の事でした。
完成は1979年3月となりましたから、約3年半かかった事になります。
この間に、いろいろ設計変更があってエンタープライズとは
かなり異なる機体になってしまったのは既に書いた通り。

滑空試験などはエンタープライズで既に確認済みだったので、
コロンビアはさっそくNASAの打ち上げ施設、
フロリダのケネディ宇宙センターに運び込まれて各種機材の確認試験に入り,
最終的に翌1980年1月に全てのテストが終了、
そこから打ち上げの準備に入ります。

そして1981年4月12日(アメリカ時間)、
ついに最初のスペースシャトル打ち上げが行われる事になるのです。



■Photo : NASA

1981年4月12日早朝(フロリダ現地時間)に打ち上げられたコロンビア。
まだ薄暗い青空へと飛んでゆく姿は美しいです。
つーか、後で見るようにNASAの公式写真は見事なものが多いんですよね。
この辺りは大戦時のアメリカ海軍、陸軍航空隊などの写真も同様で、
いい写真撮るなあ、アメリカ人、と思います。

これがスペースシャトル最初の飛行、フライト番号STS-1の打ち上げであり、
以後、アトランティス号による最後の飛行、2011年7月の、
STS-135まで31年間で135回の打ち上げが行われる事になります。
(先にも書いたが飛行回数は134回。STS-51のチャレンジャー爆発事故は
地球周回軌道に入る前であり、飛行回数に含まれないのが普通。
対してコロンビア墜落事故のSTS-107は地球周回後なので飛行回数に含む)

ちなみにシャトルのフライト番号に使われる記号、STSは最初の計画名、
宇宙輸送交通網(Space Transportation System)計画の頭文字です。

こうして見ると軌道船本体のロケット噴射なんてオマケみたいな感じで、
左右の固形燃料ロケットブースターの盛大な炎が目に付きます。
実際、打ち上げからその切り離しまでの全体推力の内、
2本のロケットブースターが80%近くを担当してますから、
むしろ軌道船本体のロケットの方が補助動力、という感じなのです。

固形燃料推進ロケット(Solid Rocket Booster)の頭文字を取って
SRBと呼ばれるこのロケットの推力は1本あたり最大で13,800 kN前後、
すなわち約1400t とほとんど狂気のような推力を持ちます。
これ、単体のロケットエンジンとしては、未だに世界最大出力だったはず。
(実際は安全マージンを取って1200t前後の出力で運用されてるらしいが
この辺りのキチンとした資料が見つからず)

最大出力で2本合わせたら2800t ですから、大戦期の駆逐艦を括り付けても、
これを垂直に空の上まで持ち上げてしまう力を持つわけです。
(さすがに宇宙空間までは持って行けないが)

そもそもアメリカの有人ロケットで液体酸素、水素を使わない
固形燃料の採用はこれが初めてなんですが、
固形燃料の方が出力を稼ぎ易いんでしょうかね。
その代わり、点火したら最後、止める手段が無いというスゴイ構造なんですが(笑)…。
ゆえに先にも書いたように、軌道船のメインエンジンを先に点火、
キチンとこれが作動してる事を確認してからSRBに点火されるわけです。

ついでによく知られてるように、このロケットブースターは、
大気圏脱出前に切り離されてしまうので、
その後、パラシュートを開きながら落下し、海上で回収されて
再利用される、という段取りになってます。

対して軌道船の外付け燃料タンクの方は大気圏外まで
持ってゆくため、投棄後は高速落下で生じる衝撃波の背後熱により
破壊されてしまい、よって使い捨てとなってます。



同じ打ち上げを別角度から。
ちなみに最初の打ち上げでは、まだ例の衝撃波反射防止用ウォータースクリーンは
その発射台に設置されてません。

ちなみにこのコロンビア号の打ち上げは
ケネディ宇宙センターにある39複合発射施設(Launch Complex 39)
の中の39A発射台 (Launch Pad 39A)で行われたのですが、
これはアポロ11号を始めとする月着陸船が打ち上げられた発射台でした。

この時は中央の外付け燃料タンクが白いのにも注目で、
これは最初の2回だけ使われた珍しいタイプのモノ。

太陽光を反射してタンク内の温度上昇を防ぐための工夫だったのですが、
あまり効果が無く、コストと重量削減のため、その後は無塗装のオレンジのタンクになります。
ちなみに以後おなじみになるオレンジの色はタンク表面に吹き付けられた断熱材の色です。
氷点下の燃料、液体水素、液体酸素を維持するため、
その表面には断熱材が吹き付けられてるわけです。

ちなみに、これだけ巨大だと塗料の重さも馬鹿にならず、
この塗装をやめただけで200s近く軽量化された、という話もあります。
地球の引力を振り切って宇宙まで行かなくてはならない宇宙船にとっては
1sでも軽くしたところですから、これは大きいです。

ちなみにこの燃料タンクも、シャトルの歴史の中で
地味に進化し続けたものの一つでした。
とくに軽量化は徹底され、この最初の飛行に比べて、
最終型は17000ポンド、約7.7tも軽量化されてたとされます。
シャトルの打ち上げ能力はロケット推力から
全重量を引き算したものになりますから、
これは7.7tも、その運搬能力が向上したことを意味します。
相当な能力向上、と言っていいでしょう。

ロケット出力の性能向上だけでなく、重量軽減も
その性能向上に直結します。
この辺りは航空機も同様なんですが、最近のアメリカ空軍は
とにかく重い機体ばかり作りたがりますね…。


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