■そこにはいろいろ付いている

さて、そんな高熱用の黒タイル、
HRSIが敷き詰められたシャトル軌道船の胴体下ですが、
一種の航空機である以上、降着装置、すなわち脚があります。

さらに、腹に抱えてる外部燃料タンクからロケットエンジンに燃料を送り込むための
注入口もあるわけで、意外にいろんなものが付いてるのです。
そのあたりもちょっと見て置きましょう。



軌道船の下面を覗くとこんな感じ。

左下から説明すると、まず撮影の瞬間に飛び込んで来やがった子供、その頭上の緑の穴が
外部燃料タンクからの燃料取入れ口(Umbilical door)で左右で二つあります。
当然、燃料タンクを切り離した後は、これを閉じますから、
実際の運用で脚とここが同時に開いてる事はあり得ず、展示上の演出です。
その両脇は主脚。でもって、はるかかなたの機首下に在るのが前脚ですね。
こうして見ると、主翼から前の胴体下が丸みを帯びてるのが判るかと。

ついでにところどころシミのように黒くなってるのが、新しく貼り換えらえたHRSIのタイル。
先に書いたように、飛行後に新規に張り替える枚数は意外に少ないので、
ほとんどが使い込まれて白っぽくなったタイルなのに注意しといてください。
安全上は、これでも大丈夫なんでしょうね。

ちなみに最後の飛行の後は当然、貼り換えてないと思われるのですが、
この辺りは確認できず。



まずは前脚を横から。
前脚は耐熱タイル付のフタが左右に開くようになってます。

でもって大気圏突入中に、このフタの隙間から高温ガスが内部に入り込んで来たら、
最低でもタイヤがパンク(というか燃えてしまう)、さらにブレーキパイプが破断、
最悪の場合は機体内部に高圧、高温のガスが一気に流入して機体の内部構造が破壊され、
墜落へと直結します(コロンビア号の墜落事故と同じような形になる)。
このため、脚部の扉を閉めてるときは、隙間を埋めるためのシール材、
一種の断熱材が嵌め込まれ、打ち上げられるのです。

展示の機体にはこのシールが付いてないようですが、
NASAによると、耐熱材で作られた、冷蔵庫や自動車のドアに付いてる目張り
と同ものと考えてくれれば基本的に間違いない、との事。

このため着陸時に脚のフタを開くときにはこの密閉用シール材の拘束に勝ち、
さらにドカンとぶつかって来る外部空気圧にも打ち勝つ必要があります。
(着陸姿勢はやや機首を上げるので胴体底のフタを押さえつけるように気流が当たる)

が、重量制限の関係か、
扉を開けるにはやや非力な油圧装置しか軌道船にはないため、
フタを開ける瞬間だけ強烈な力で押し出すバネ式の押し出し装置が
前脚、主脚ともに積まれてます。
(Bungee assemblies。聞いたことない用語だが普通に考えるとバネ装置だと思う)

さらにはそれでも失敗した時のために、
発火式(火薬?)のドア開閉装置まで積まれてるそうな…
ちなみに一度押し開けてしまえば、後は重力の力を借りてなんとかなるようです。



主脚を正面から。
脚部分に照明を当てて見やすくする、というのはウドヴァー・ハジー展示の得意技(笑)。
ちなみにこの前輪収納部のすぐ後ろに外部燃料タンクを固定する
円形の接続部があるはずなんですが、見つけられず。
タンク投棄後は閉じられるはずなので、ひょっとして展示ではその状態?

左右に開いた扉の内側に分厚い板がありますが、おそらく断熱材でしょう。
その扉の縁に何かテープみたいのがズラッと貼られてますが、
これがシール材の取り付け部でしょうかね。

向かって右側の扉手前に飛び出してるガスの元栓みたいなのは固定具。
形状は異なりますが、後部にも固定具はあります。
ちなみにこの前部固定具の横にバネ式の押し出し装置があります。
(収容部手前側で、この位置からでは見えない)

ちなみに軌道船の脚の出し入れは全て油圧動作になってます。
ついでながら油圧で折りたたみ収容も可能ですが、
この状態から離陸する事はあり得ないので、基本的は整備工場でのみ使います。
このため正面からの風圧を押し切って、すぐに脚をたためるような
強力な油圧装置は必要ありませぬ。
なので最低限のものになってるようです。

ついでに前輪、後輪とも車輪を前から後ろに降ろす形になってますが、
これは正面から受ける風圧を利用して車輪を一気に下まで降ろすため。
先に書いてるように軌道船の降着装置の油圧はやや非力なようで、
このため、こういった工夫がされています。

これは最悪、油圧がだめになったら、フタを開けたあと、
脚の固定具だけを強制解除して、
後は重力でゆっくりと下に下げ、途中からは正面からの風圧を利用して
脚を展開できるようにする、という目的もあります。
ついでにシャトル軌道船の着陸を見てると、ホントに着陸直前まで脚を出しません。
あまり早く出しすぎると、機体にかかる力のバランスが崩れるんでしょうかね。

ちなみに軌道船の着陸速度は350q/h前後で、
大型機としてはかなり高速です。
(大型旅客機では時速140ノット、250q/h位が相場となる)



後部主脚。
エンジンなど重量物は全て後部にあるため、
これを支える主脚はより頑丈そうなものになってます。
とはいえ、旅客機や軍用輸送機などに比べると、やや貧相な感じ。
着陸時は軽くなってるから、なんとかなるんでしょうか。

こちらのフタも飛行時には目張りのシールを貼るんですが、展示には付いて無いようです。
ついでにこちらも裏側に断熱材らしきものが入ってますね。

ついでに写真上、一番手前の主翼前縁部、強化炭素炭素、RCCパーツの根元に
やはりネジが見えてますので、機首部のキャップと同じく
RCCパーツは接着剤やリベットではなく、ネジ止めのようです。




主脚の後ろ側。
色んな配線、配管はブレーキ関係のもので、旅客機のブレーキなどに見られる
複数枚のディスクを使ったディスクブレーキを搭載してます。
車輪ごとに9枚のディスクが入ってるようです。

駆動形式は電動油圧式ブレーキなんですが、近年の自動車に積まれてるような
一種のフライ バイ ワイア、ペダルから入力される電気信号に合わせ、
コンピュータが最適な油圧でブレーキをかけるのか、それとも信号だけが電気で、
後は単純な油圧式なのかはよくわからず。
ただしABS、自動スリップ防止機構は搭載済み。

ついでに油圧は3系統あり、2系統が通常用、最後の一つが緊急時のバックアップのようです。



最後は燃料取り入れ口と、後ろから見た主脚。
主脚の支柱裏にはブレーキ関係のものと思われる配管がびっしりと見えてます。

でもってシャトル軌道船内部にはメインエンジンの燃料タンクは無く、
外部タンクからの供給に頼ってますから、当然、その取入れ口があるわけで、
それが手前の緑色の部分で、左右に分かれて計二つあります。

燃料用の取入れ口とタンク固定具の差し込み部を全て含むのですが
どれがどれだかはよく判らず。
ちなみにこのパイプ部の固定には爆砕ボルト(Explosive bolts)
と呼ばれるものが使用されていて、
燃料を使い切った後は、小規模な火薬の爆発で、
外部燃料タンクを強制的に切り離します。
ちなみにエンジン停止後、軌道船内に残っていた燃料は全て捨ててしまうようです。

タンク投棄後、このドアが閉じられるのですが、通常はパイロットが手動で閉めてます。
ちなみに、こちらは電動ですが、大気抵抗のない宇宙空間でしか動かさないので、
それで出力的には十分なんでしょう。
ただし完全に閉じるまで24秒もかかるそうな。

でもって、当然、こちらは打ち上げ前から目張りのシールを貼ることができませんから、
写真で見えてるようなオレンジのパッキンがフタの内側についてます。
こんなので十分なのか、と思ってしまいますが、
例によって実際、無事に運用されてたのだから、大丈夫なんでしょう(笑)。

といった感じで今回はここまで。

次回、いくつかの落穂ひろいをやって、おそらく最終回です。


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