■スペースシャトル 耐熱装備 黒の場合

さて今回はシャトル軌道船のTPS、すなわち耐熱装置の内、黒の場合編、
すなわち、より高温に耐える黒い耐熱装備の部分を見て行きますよ。

こちらは後期型軌道船以降でも大きな変更は無いので(ゼロでは無いが)
最初からディスカバリーの機体で見て行きませう。

ついでにこの軌道船の黒い下腹部を現地で見て、
スペースシャトル軌道船は腹黒い、というネタを思いついたのですが、
異国の地、ウドヴァー・ハジー 一人旅ではこのハラショーに素晴らしい
ナイス ギャグを周辺に伝える事もままならず、大変無念な思いをしたことを、
ここに記し積年の恨みにかえたいと思います、はい。



機体下面、腹を下にして大気圏に突入してくるスペースシャトル軌道船は、
先端部に次いで機体下面が強烈な衝撃波背後熱にさらされるため、
より高温に耐える黒い耐熱タイルを付けてます。

ついでに前回、コクピット周りと後部のOMS/RCSポッド正面にLRSIタイルが残ってる理由が
はっきりしないと書きましたが、今回の記事のためNASAの資料を見てたら、
この部分はより高温になるため残した、とはっきり書かれてました。
となると、やはり耐熱繊維、FIBは耐熱性でLRSIタイルに若干劣る事になりますね。

まず最大温度となる先端部、機首と主翼前縁は溶鉱炉内部に近い高温、
摂氏1500度近くまで耐える強化炭素炭素(RCC)が使われてる、
というのはすでに以前説明しました。

今回は、機体下面をびっしりと覆った黒いタイルから見て行きます。
黒タイルは、これもケイ土(Silica)を主原料としたもので、
再利用可高温断表面熱材、HRSIと呼ばれ
(High-temperature reusable surface insulation /HRSI)
こちらは1260度前後までの耐久性を持ちます。

ただしこのHRSIは大きく2種類在り、低密度(軽い)のLI-900という素材を使ったものと
高密度(重い)で耐圧能力が高いLI-2200という素材を使ったものが存在します。
ちなみに前者は1立方フィート(インチではないのに注意)あたり
9ポンド(約4s)、後者は22ポンド(約10s)と2.5倍もの重量差があります。
少しでも軽くしたい宇宙船では、
基本的にはLI-900製のHRSIを使うようにしており、LI-2200は極一部、
極めて高い圧力が加わる部分にのみ使われてるようです。
恐らく後者は例のタイル危機対策のために開発されたのではないかと思いますが、
ここら辺りは確認できず。

ちなみにNASAによるとLI-900製の軽い黒タイル、HRSIは2万枚(!)が
使われてるのに対し、より重いLI-2200製のモノは
全部で525枚だけが使われてる、との事です。

ちなみに白タイルこと再利用可低温断表面熱材(LRSI)の名前とは
高温(Hight)、低温(Low) の部分が違うだけ、略称だとHとLだけの違いで、
両者よく似てますので要注意。

さらに1996年以後の軌道船の改修から新たに搭載された断熱装置として
酸化アルミニウム(Alumina)を素材としたTUFIがあります。
(Toughened unipiece fibrous insulation /TUFIなのだが
Unipiece という単語の意味が正確にはわからぬ。
堅牢化単一片断熱繊維、といったところ?)

これは耐熱性も高く、強度もあるのですが、NASAの説明によると熱伝導性が高く、
周囲の構造に簡単に熱を移してしまうため、メインエンジン周辺と、
胴体フラップの上面だけに使われてるようです。

ただし英語圏の他の資料などでは、機体下面の一部にも使われてる、
とするものがあるんですが、確認できなかったので、
ここではNASA本人の説を採用しておきます。



このエンジン回りで、HRSIタイルになってない黒い部分、
すなわちメインエンジン周辺の壁と、胴体フラップ上面、
これがTUFIによる耐熱部らしいです。

この辺りは大気圏突入後の高温にはほぼ無縁なので、おそらく発射時の
ロケット噴射による高熱に耐えるためのものだと思います。
ついでにその噴射によって、大気圏内では結構強烈な圧力がかかるようで、
その耐圧対策として、このTUFIが採用されてるみたいですね。

さらに以前にもちらっと触れた垂直尾翼の方向舵&エアブレーキの周辺、
ここも黒くなってるのに注目。
この内、その後縁部は普通にHRSIの耐熱タイルなんですが、
尾翼内側の黒い部分、つまり舵の軸部、可動部は明らかに素材が異なります。
で、NASAの資料を見る限り、ここの素材は単に金属、
とされてるだけで、窓ガラスなどと同様に、
特に耐熱素材を使ったものではない事になってます。

この辺り、まさか熱に弱いジュラルミンむき出してではないと無いと思うので、
チタンか、少なくともステンレスじゃないかと思うんですが、詳細は不明。



耐熱装置の嵐、機首部をアップで。

鼻っツラのRCC部は、先端部なだけではなく、
斜めの突入姿勢に合わせ、下側にも一部が伸びてます。
ついでに先端部は一体成型ですが、付け根部分は
幾つかの部品に分割されてるのも見て置いてください。
(取付け時には下部の延長部以外、組立て済みの1つの部品になってるが)

その後ろからが高温用の黒タイル、HRSIですが、
様々な形状があり、決して単純に同じタイルをペタペタ貼ってるわけでは無いのに注目。

ついでに機首部上部に意外に豪快な段差部があるのにも注意。
ここは例の姿勢制御装置、RCSがある部分ですが、その装置の収容のために
こんだけ豪快に出っぱってるのだとしたら、盛大な設計ミスですから、
何らかの目的があって段差を付けたんじゃないかと思います。

おそらく機首直後のこの位置で再度衝撃波を引き起こし
2段目の衝撃波の背後壁を造り、
気流の速度を落として、この後ろのコクピット部を
保護してたんじゃないかと思いますが、この辺りの詳細は不明。

ただしエンタープライズの段階ではここに段差は無かったので、
実際にRCSを積み込んだら出っ張っちゃった、テヘ、
の可能性も完全には否定できませぬ…。



機体下部(厳密には前脚横の下部横)の高温用耐熱タイル、HRSIをアップで。
これらのタイルはシリコンを主原料とする接着材で機体に固定されてます。
ついでによく見ると、気流の流れの後が残ってます。

先にも書いたように同じ形状のものはあまり無く、バラバラの大きさのものが
ギッチリ貼り込まれてます。
江戸城や大阪城の石垣を連想してしまうのは私だけですかね?

ちなみに一枚ごとに番号があり、それが書き込まれてるのですが、
よく見ると別に連番にはなってないようで、この法則性はよくわかりませぬ。

地球帰還後には、これらの内、傷んで次の飛行に耐えないもののみ交換します。
多少の損傷なら表面から修復用の硬化剤などを流し込んで修理するだけだとか。
NASAによると、1回の飛行で平均50枚前後が交換になるとのこと。
2種類合わせて20525枚も使われてる事を考えると、全体の0.025%ですから、
思った以上に耐久性は高いようです。

手前に見えてるネジはタイルを固定するものでは無く、
おそらく先端のRCCキャップ固定用じゃないかと思います。、
ただし、ここは機首直後ですから、大気圏突入時には
軽く1000度近くまで達するはずで、
こんなむき出しの状態で大丈夫なんでしょうかね。
…と言っても実際に使われてるんだから、まあ、大丈夫なんでしょうけども。

これらのHRSIの黒タイルは前回見た白タイル、LRSIとほぼ同じ製法で、
ケイ土を主原料に造られてるのですが、
より厚みがあって、さらなる高温に耐えられるようになってます。

ちなみに高温用の耐熱装置が黒いのは、前回説明した白タイルの反対で、
電磁波による熱の放射、すなわち輻射による冷却の効率を高めるため。
赤外線などの高周波の電磁波の輻射によって効率よく
熱を放出して冷却するには黒色が優れてるのです。
(こちらはNASAの資料にも明記されてる)
空気の無い宇宙空間では熱は電磁波による輻射によってのみ
機体から熱が奪われるため、この要素は重要です。

さらに大気圏突入後の超高温の場合、高高度では
大気によって熱が奪われる伝導冷却より、電磁波による輻射冷却の方が
奪われる熱量が高いらしく、その意味でも重要なようです。

ちなみに大気圏外で太陽が当たってる地球面(昼)の上空を飛ぶ時、
軌道船は黒い腹面を太陽に向ける、つまり地球から見て背面飛行に入るのが普通です。

が、黒は輻射にも優れますが、電磁波の吸収にも優れてますから、
むしろ高温になってしまうはず。
それでも機体の耐熱構造上、白い部分より
こちらの黒い部分の温度を上げた方が有利みたいなのです。
とりあえず地球の影(夜)に入ってしまえば、一気に冷却されるんでしょう。


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