■シャトル軌道船 白の場合 最終型

さて、シャトル軌道船の低温用(と言っても最高700度前後になるが)の
白い耐熱タイルLRSIは、主に重量軽減のためもあって、宇宙船2号機のチャレンジャーから
FIB、柔軟耐熱毛布(Flexible Insulation Blankets/FIB) に置き換えられ始め、
最終的に3号機のディスカヴァリーでその形態は完成を見ます。

ただし実際には単純に両者を置き換えただけでなく、
おそらくコロンビの運用で得られたデータを元に、思った以上の変更をやってます。
この辺り、あまり資料がないのですが、とりあえず判る範囲で見て置きましょう。

とりあえず白い部分の耐熱装置が全て使用されてる機首部の写真から。
最終的にこの3つの素材が、ディスカヴァリー以降、
すなわちシャトル後期型(チャレンジャーも一部含まれるが)の
白い低温用耐熱装備となってます。



まず1番は、従来の白い耐熱タイルLRSI。
全てがFIB、柔軟耐熱毛布(Flexible Insulation Blankets/FIB)
に置き替えられたわけでは無く、このコクピット前、そして後で見るように
機体後部のOMS/RCSポッド正面など、一部には残されていました。

この辺りは低温部の中でも特に高温になる部分なので、
もしかするとFIBはLRSIより耐熱性が低かった可能性もあります。
が、同時にこれらは曲面で構成された場所なので、温度の問題ではなく、
FIBでは上手く加工できず、LRSIタイルがそのまま残された可能性も考えられるのです。
この辺りは正直、判断が付きませぬ。

で、2番のややツルッとした表面なのが、コロンビアからすでに使われていた、
最も温度が低い部分(それでも200度近いが)に使われる
再利用可繊維表面断熱材、FRSI(Felt Reusable Surface Insulation /FRSI)です。
コロンビア号と同じように機体の屋根周辺と、
胴体後部、主翼上面中心部など、
衝撃波背後熱、そして高温の気流にさらされない場所に使われてます。

で、最後の3番がチャレンジャーで使われ始めた軽量耐熱素材、
ケイ土を線維化して造られたFIB、
柔軟耐熱毛布(Flexible Insulation Blankets/FIB) で、このディスカヴァリーから
ほぼ全面的にこれが採用されてるわけです。
(詳細な写真がないので断言できないがチャレンジャーは半分くらいだけが
このFIBに置き換えられていたらしい)
FIBは近くで見ると、なんだか柔道着みたいな印象があります。



機体全体で見るとこんな感じ。
よく見ると、まだら模様で白い部分とちょっと焦げた部分が入り混じってますが、
これは新規に貼りなおされた耐熱装備と、貼りなおされなかった耐熱装置が入り混じってるから。

注目は機体後部、OMS/RCSポッドで、表面がごわごわしていて、
高温用のFIBが使われてるのが一目で判ります。
が、実はコロンビアでは、ここはより低温用のFRSIが貼られてました。
実際に運用して見たら、意外に高温になるのが判明したのでしょうかね。
ちなみに、ポッド下の一部は、これもLRSIタイルのままとなってます。



ちょっとアップにして。
OMS/RCSポッド表面とその下の動力供給線接合部(Umbilical panel)周辺を見ると、
明らかに質感が異なるのが見て取れます。
胴体後部の表面は低温用のFRSIが用いられているからで、
両者を見分けやすいポイントの一つです。
同様に主翼の前縁部も中心部と色が違いますが、
この部分だけより高温用のFIBが使われてます。

ついでに胴体横のアメリカ国旗辺りからstatesの文字上あたりまでの
胴体横が高温用のFIB、その後ろからが低温用で表面が滑らかなFRSIなんですが、
この写真だとちょっと判りにくいですね。
(垂直線でキレイに分かれてるのではなく、斜め30度くらいの線で斜めに分割されてるのだが)



胴体後部を正面から。
OMS/RCSポッドの正面は先に説明したようにLRSIタイルのまま、
さら一部はより高温用の黒タイルです。
ここもわずかながら、機首部の衝撃波壁からはみ出すのでしょう。

ちなみにこの黒タイルも初期型コロンビア号には無かったもので、
おそらく実際に飛ばしてみて、意外に高温になるのが判明、
後から追加したものだと思われます。

ついでに左下、states の文字のあたりを境目に
FIBとFRSIが使い分けられてるの、判りますかね。

何度も書いてるように、シャトルは機首を上に向けて
迎え角を持って大気圏に突入するので、主翼の陰になる胴体後部は
それほど高温になりません。
なので主翼で遮られる胴体後部では、このような形で
やや高温用のFIBと低温用のFRSIが斜めに区切られて使用されてます。



胴体側面のFIB。
近く見るとガーゼというか柔道着というか、何か地上の生活臭あふれる印象で、
こんなんで宇宙に行ってたのか、とちょっと驚きます。

ついでに主翼前部のLERX部のエッジに嵌め込まれた「く」の字型の黒タイルも観といてください。



耐熱繊維、FIBをよりアップで。
いろんなサイズのシートが切り貼りされてるのが判るかと思います。
何の予備知識もなしに、これが宇宙船の機体表面写真です、と見せられたら、
俺が千葉県出身だと思ってバカにしやがってと、一発ぶん殴ってる感じですな。

個人的にはスターウォーズのXウィング機に
ルークの白い胴着(?)を着せたらこんな感じになるのかなあ、と思いました。
ついでにこれ、模型で再現するとなると、ドイツ戦車のツィンメリットコーティング以上に
厄介なことになりそうですね…。

黒いヒンジから上が貨物室の扉なんですが、よく見ると一番上はFIBではなく、
より滑らかな表面のFRSIとなってます。
これは上面は胴体の陰に入ってしまって高温の気流にさらされないからで、
つまり貨物室の扉は横だけがFIBで、上面はFRSIと別の耐熱材が混在してます。

ちなみにヒンジの黒い部分はケイ土素材による耐熱タイルではなく、
おそらく垂直尾翼の舵部周辺と同じ素材だと思いますが、この辺りはまた次回。

 

FIBは金属製(この辺りは普通にジュラルミンのはず)の機体表面に接着材で固定されてるため、
機体表面に出して置く必要があるいろんな装置用に、各種切り欠きがあります。
これは機首部右側、操縦室の下辺りにあるものたち。

簡単に説明すると、左端のF/CとあるのはFuel Cell Purge Port、燃料電池放出口。
シャトルの電源が酸素と水素を反応させ水になる時に生じる電気を使う
燃料電池(電池と言っても発電してるんだけど)なのは既に書きましたが、
そこで生じる水は、乗員の飲用に使用してもまだ余ります。
このため、必要なくなった水は、ここから宇宙空間に放出されるのです。
なので、これが塞がれてしまうと燃料電池がまともに動かなくなるので、
絶対に塞ぐな、という注意書きが付いてます。

その右のRESCUEと描かれた矢印の先にあるのは
緊急脱出口を外部から開けるためのボタン。
ボタンそのものはFIBの下に埋まってるため、一部が剥がしやすくなっていて、
そこからFIBをめくって押さないとなりませぬ。

さらに脱出口もFIBの下に埋もれてしまってるため、
右上にある、ここを切断せよ、と書かれた四角い部分のFIBを切り裂いて、
その下にある脱出口を表に出す必要があります。

普通に考えて地上の発射台にある間に何かあった場合、
これで救助する、という事なんでしょう。

といった感じで、スペースシャトル軌道船断熱材、白の場合、はこれまで。
次回は黒の場合編です。


BACK