この展示の最大の恩恵は飛行状態の機体を真正面から見れた事でした。

上向き上反角の付いた主翼、細めの胴体、主翼よりかなり上にあり上反角の無い水平尾翼などを見といて下さい。
胴体下で向こう側が見えてる穴は冷却装置系の空気取り入れ口。この機体ではラジエターなどの装置は全て失われており、御覧のように筒抜けになってますが、当然、実際の機体では冷却系の装置がぎっちりと詰まっていて、向こう側なんて見えませぬ。

ついでにプロペラ下に見える赤いフタは本来、エンジンの二段二速スーパーチャージャー、すなわち過給機に繋がる空気取り入れ口ですが、これも塞がれてしまってます。ここを塞ぐ意味は無いはずで、ぶら下げちゃってから外し忘れたのに気が付いた?

この機体はD型、イギリス式に言えば無印のMk.IVなので、プロペラはハミルトンスタンダード製、すなわち楕円の赤いマークが貼ってあるはずですが、見当たりません。さらに言えば、D型に搭載されたハミルトンスタンダードのプロペラも幾つか種類があり、これは先端が角型のモノ…だけどこれ、ホントにハミルトンスタンダード?という気も…。

ちなみに何度か説明してますが、プロペラの先端が警告色のオレンジなのは回転時にこの部分が円を描き、近づくと危険な範囲をはっきりと見せるため。



ちょっと角度を変えて見るだけで意外に印象が変わります。



真後ろから見る。

かなり高い位置に水平尾翼があるのが見て取れます。プロペラ後流や主翼から生じる吹きおろしの気流を避けた結果だと思いますが、この辺りに関する設計の説明は見たことないので、断言はしませぬ。

垂直尾翼と後部の舵面が胴体に対し少し左に傾けて取り付けられているのに気が付いたでしょうか。これは修復に失敗したからではなく、元からズラした(Offset)状態、1度の角度で左側に傾けて取り付けられているもの。竜巻のように胴体周辺を回りながら胴体後部に到達するプロペラ後流の影響で機体が横を向く力を相殺するため、常に右向きの力を尾翼に発生させ続けている構造です。これはムスタングだけでは無く、他の機体にも見られる構造となっています。

ちなみに回転するプロペラの力(トルク)で生じる反作用の結果、機体が逆向きに回転してしまう対策、という説明をよく見ますが正しくないでしょう。プロペラの回転軸に対して機体が回ってしまうなら、それは尾翼の舵(ラダー)では対応できず、主翼のエルロンで回転を相殺しなければ、力学の原則に反します。



正面やや斜め下から。
D型以降のムスタングは主翼前縁部の胴体付近が前方に張り出しているため、怪鳥のような印象を受けます。この張り出し部が出来た理由はいろいろな説明がされてますが、個人的には機銃と弾薬が増えて重量が増えた主翼の取り付け部を補強したのでは…と思っています。
よく見かける車輪収納云々説は、B型以前も主脚周りは同じ構造なので考えにくいです。

個人的にはこの角度のムスタングはカッコいいなと思います。


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