■ムスタングの穴

さて、最後はちょっと脱線。
掲示板で質問をいただいて調べてみた所、
私も初めて知った、というムスタングの秘密を少し書いて置きます。

現存するムスタングのD型には冷却装置の空気取りれ口後部左上に、
妙な穴が開いてる機体があるが、何のためのモノでしょ?と質問をいただいたのがきっかけです。
が、そもそもそんな場所に穴なんてあったっけ?と思い出せず、これまでの写真を見直して見ると、
この辺りを撮った写真は驚くほど少なく、自分のマヌケさを呪うハメに。
で、ようやくフランスの航空宇宙博物館で撮影した写真でその存在が確認できました。



白い矢印の先にあるのが、その謎の穴です。
すぐ右にあるカバーは主翼の左右接合部なので、
中心から見て右側(向って左)に、確かに小さな穴が開いてます。
……なんだ、これ(笑)。
世界中で10機を超えるムスタングを見て来たはずですが、全く気が付いてませんでした。

すでに見たように、冷却周りの装置にこんな穴から空気を取り込んでるものはありません。
何らかの空力対策だとすると、片側にしか穴が無いのは変です。
じゃあなんだろうと、整備マニュアルを見てみると、
どうもこの辺りからコクピット冷却用の空気を取り入れてるらしいと知る。
死ぬほど寒い高高度を飛ぶムスタングのコクピットに冷却空気?と思ってしまいますが、
ムスタングはラジエターの排熱を利用してコクピットの暖房を行ってるため、
暑くなりすぎても温度調整ができず、このため外部から冷たい空気を取り込んでこれを冷やすのです。

ちなみに後から例のP-51D-5飛行操縦説明書にも同じ図があるのを発見したので、
ここでそれを掲載しておきます。




ここで機体下の空気取り入れ口の上にあるのが、その冷却空気取り入れ口(Cold air intake)。
この図からだと位置がやや微妙ですが、こんな位置に開いてる穴は他に無いので、
おそらくこれが正体だ、と判断して間違いないと思われます。

ついでに冷却空気は床下から背もたれの後ろに直結なので、これを調整するバルブが付けられず、
このため床下を縦断するロッド(棹)があり、これがコクピット下部の調整用スイッチに繋がっています。
ちなみに特にポンプ等は無いので、
冷却空気の取り込みには飛行中の空気圧を利用してると思われます。
なのでどうもあの位置に取り入れ口があるのは最も気流が遅い部分(流れが穏やかな場所)、
すなわち胴体の表面の境界層から冷却空気を取ろうとしたためでしょう。

さらについでにその後ろ、ラジエターを通過して加熱された空気を
コクピットに送り込む管があるのも見て置いてください。
よく見ると途中で左右二本に送風管が分離してますが、
手前のは正面風防防弾ガラスの曇りと凍結の防止用です。
奥に向かうのがコクピット暖房用で、暖気なので床下から出るようになってます。

これが果たしてB型からあったのか、当時の鮮明な写真が見つからずよく判らないのですが、
現存機のB型でこの穴が確認できるので、マーリンムスタングになってからの改造、
と思ってほぼ間違いないようです。

といった感じで今回はここまで。
次回は、冷却装置周辺の空力的な工夫を見て行きます。


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