■主翼に機銃を積む、という事

さて、今回はP-51における主翼機銃のお話を少し。
何度も書いておりますが、シュムード率いるムスタングの設計陣がこだわったのが、
とにかく余計な出っ張りを機体表面に造らない、という点でした。
これは当然、武装の機関銃にも適用され、可能な限り主翼から飛び出さないよう、
細心の注意をもって設計されてる、というのがムスタングの特徴の一つになってます。

まあ20o機関砲×計4門という豪快な構成となった無印P-51だけは例外ですが(笑)、
それ以外のあらゆるムスタングの主翼機銃はいかに余計な出っ張りを造らないか、
というその点に強くこだわって機銃の配置が決定されてます。
ある意味、空力設計に徹底的にこだわったムスタングシリーズの最も特徴的な部分が
主翼の機銃周りなのです。

特に開発の主導権がアメリカに移ったA-36から後の翼内機銃、
アメリカ機といえばこれ、というブローニングのM2 12.7o×2 装備となってからは
この辺りがより徹底され始めます。
この主翼武装はP-51A、そしてP-51B/Cのマーリンムスタングまで引き継がれ、
その後、D型で片翼あたり+1門、12.7o×3に変更されたものの、
最後まで可能な限りキレイに主翼内に機関銃を収めようとした設計になってます。
ちなみにH型でさらに変更が加わるのですが、やはり同じような努力はされてます。

さらに、機関銃を可能な限り主翼内にキチンと収容する、
という目的のため、ムスタングでは他の機体ではあまり見ない、
特殊な給弾ベルトの配置を行っています。
あまり知られてないし、ごく一部では知られていても誰も理解してないんですけどね(笑)。
この辺り、おそらく世界で初めてのまともな解説になるんじゃないか、と密かに考えてますが、
とりあえずマスタングの機銃の搭載事情を今回は見て行きましょう。
それはいかにシュムード率いる設計陣が空力に気を使っていたか、という話でもあります。

でもって具体的な説明に入る前に、
せっかくなので、P-51の主翼構造を見て置きましょうか。
まあ、ざっとこんな感じ。
先にも書きましたが、P-51の主翼は左右一体型で、その上に
プラモデルのように胴体が乗っかています。
このため、主翼の左右翼内タンクと言っても、中心部では
胴体下まで潜り込んでいるのに注意。



まず一番内側で大きな面積を占めてる赤い部分が翼内燃料タンク。
先にも書きましたが、P-51の主翼は左右一体型で、このため左右翼内燃料タンクと言っても、
中心部では胴体下まで潜り込んでいるのに注意。

でもって低翼(胴体下に主翼が付いてる)ですから
水平飛行時の姿勢安定用に上反角が主翼に付けられており、
このため翼の外側の方が少し上に跳ね上がる形になってます。
なので、燃料タンクの給油口は一番外側にあり、ここから給油すれば重力で
燃料タンクの底から順次満たされてゆく事になります。
これを知ってれば、燃料タンクの給油口を見つけるだけで、どこにタンクがあるのか、
凡その見当がついたりもするわけです。

その燃料タンクの前にある青い部分が主脚、脚の収容部で胴体下に車輪が収まります。
でもって燃料タンクの後ろはフラップですから、何も積めません。

その外側にある茶色い部分が機銃搭載部(Gun bay)で写真のD型では
片翼に各3門ずつの12.7o M2機関銃が入ってます。
ちなみにここは主脚と燃料タンクの外側であると同時に、
正面でグルグル回ってるプロペラの直径の外なのにも注意してください。
この位置なら通常はプロペラを撃ち抜く心配はないのです。
逆に、プロペラのサイズを大型化する場合、主翼機関銃の位置をよく確認して置かないと、
エライことになる、という事も判るかと。

最後、一番外側にあるのが機銃用の弾薬庫で、ここからベルト給弾で
機銃に弾が送られる事になるわけです。
ついでに、外側に行くほど翼内の重量物が減ってる、というのが見て取れると思いますが、
これは派手に回転する戦闘機の場合、テコの原理によって主翼には強い力が働くからです。
支点となる胴体の付け根にかかる負担は、力(重量)×長さ ですから、
主翼の外側に重量物があるほど、その負担は大きくなります。
このため、外側に向かうほど、主翼は軽い構造にしなければなりません。
でないと付け根部がその力に耐えられず主翼がもぎ取られてしまいます。

さて、では少し具体的にムスタングの機関銃事情を見て行きましょうか。


■Photo US Air force / US Airforce museum

アメリカが開発の主導権を引き継いだA-36からP-51A、さらに マーリンムスタングのB/C型まで
片翼12.7o機関銃×2という構成は変わってません。
そしてご覧のように主翼内の機関銃はキレイに翼内に収納されていて、余計な出っ張りとかは全くありませぬ。
この辺りがシュムードの空力へのこだわりの結果なのですが、銃身を外に出さない、という方針のために、
翼内の機関銃を斜めに傾けて搭載する、というちょっと変わった方法を採用してます。
なんで?というのは給弾ベルトの問題があるからなのですが、詳しくはまた後で。



ただし12.7o×3門に増えたD型では、これまた給弾ベルトの位置の関係で、
外側二門の機関銃は少し前にずらして搭載するしかなくなり、その結果、
主翼前部で銃口が外に出っ張ってしまってます。

とはいえ、そこはシュムード率いるノースアメリカン社の設計チーム、
その部分も徹底的に整形して滑らかなカーブで凸部が構成されるようになってます。
この機銃搭載部はいかに開発陣が空力抵抗の低下にこだわっているか、という
ムスタングの特徴がよくわかる部分の一つなのです。

D型の3門搭載主翼では一番内側の機銃だけ少し後ろに下がった位置に設置され
このためここだけ銃口が外に出てません。
なので本来なら、こういった出っ張り部は要らないはずなんですが、
なぜか3門セットで銃口部は揃えられており、ここには銃身まで続くパイプが入ってます。
ついでにH型はまたちょっと違う機銃配置なんですが、
凸部を造らない、という方向性に変化はありません。



でもって、逆にそんなの全然気にしてないよ、の代表例、P-47。
片翼あたり4門もの12.7o機関銃を積んでるのですが(すなわち計8門…)、
そのうち3門までがドカンと主翼の前方に銃身が飛び出してるのです。
一応、整流用らしいパイプカバーが付いてはいますが、空力的にはあまり褒められた設計ではないでしょう。
少なくともシュムードならこれは絶対に認めないと思います(笑)。

少しずつ銃身の出っ張りの長さが異なるのは、給弾ベルトの位置に合わせた搭載のためで、
普通にベルト給弾の機関銃を多数搭載すると、こういった構造になります。
なので、このように主翼の機関銃が少しずつズレて銃身が飛び出してる設計はごく普通のものでした。
大抵の設計者にとっては、これは仕方ない事、だったのですが、
これを単純に受け入れなかったのがノースアメリカン社の設計陣だったわけです



実際、海軍のF-6F減る猫、否、ヘルキャットなんかもこうです。
片側3門の機銃が搭載されてますが、外側から内側に向け
銃身が飛び出す長さが少しずつ大きくなってますね。



その先輩、F-4F-3も片翼2門だけの搭載ながら、同じような構造です。
ただし、折りたたみ式主翼になった新型、F4F-4以降ではキチンと主翼内に銃身を収めてしまいました。
折りたたみ翼にする時に、どうも主翼の構造を大幅に変更して
これを可能にしたようですが、その詳細は不明。
が、わざわざこんな変更をした所から見て、当時から、銃身は外に出てない方がいい、
というデータがやはりあったんでしょうね。

さて、話を戻しましょう。
なんで主翼に複数搭載されてる機関銃は少しずつ前後の位置がずれて置かれてるの?
そしていくつかの銃身が外に飛び出してしまうの?
というとアメリカ軍の戦闘機に搭載された12.7o M2 機関銃はベルト給弾であり、
機銃ごとにその給弾レールを少しずつズラして搭載する必要があったからです。
その辺りを理解するには、航空機関銃の構造を少し説明する必要がありまする。



とりあえず、真ん中が米軍の戦闘機などに積まれた12.7o(.50 cal) M2 機関銃。
その上も同じ12.7o  M 2ですが、爆撃機などの砲塔に積んで、銃手が引き金を引いて撃つタイプのモノ。
よく見ると銃身の根元にある筒状の部分の長さが両者で異なり、
手前の戦闘機搭載用の方が銃身全体が長くなってます。

作用反作用のため、より強い力で撃ち出した方が反動も大きくなるので
人間が直接撃つ方は銃身を短くしたのかもしれません。
(弾は銃身から出た直後に爆圧が拡散するため推力を失う。後は慣性で飛んでゆくだけだから、
より長い銃身で長時間強力な爆圧で加速した方が威力は上がる。
ただし銃身の摩擦力との兼ね合いによる最適解があって無限に長ければいいというモノでは無い)。

で、見れば判ると思いますが、給弾部、銃身直後の切り欠け部分は向こうまで筒抜けで、
とくに面倒な機構などは一切入ってません。
この横からリンクで接続した給弾ベルトで弾丸を次々に送り込むようになっていたわけです。
ついでに、ちょっとした改造でM2機関銃は左右どちらからでもベルト給弾が可能であり、
これは左右対称に機関銃を積まねばならない航空機関銃では重要なポイントでした。

ついでながら一番下はM2のご先祖、M1919機関銃の軽量版、
7.62o(0.30cal)口径版 M2航空機関銃。
7.62oは12.7oにくらべるとずっと短く、主翼などへの搭載も楽だというのが判るかと。
ちなみに手前に付いてる銀色の円筒状のものは給弾ベルトを巻き取るための
給弾装置用電動モーター(Solenoid)。

ついでに今さらですが、.50cal というのは1インチ(2.54p)の0.5倍の口径、
.30は0.3倍の口径の意味で、よってそれぞれ12.7mmと7.62oになるわけです。




さて、では給弾ベルトはどうやって設置されてるのか、というのも見て置きましょう。
写真は3門の機関銃が積まれたF4Uの機銃庫ですが(機銃は外されてる状態)、
単純に上から三つ、給弾ベルトのレールが平行に並んでるのが判るでしょうか。
あの給弾レールの位置に合わせ少しずつズラし3門の機関銃は搭載される事になります。
よって各機銃の前後位置はズレるのです。



ただし、このF-4Uはムスタング並みに空力に気を配って造られた機体なので、
機銃の銃身は外に出っ張ってません。
ややこしいな(笑)。

F-4Uでは、なんで銃身を出っ張らせないで搭載可能だったの、というと
主翼の機銃搭載位置に十分な奥行きがあり(約30〜40p前後、ムスタングより広い)
さらに主桁の位置など、いろいろ工夫してるからなのですが、
そこを解説してると新連載を始めるハメになるので、今回はパス。
とりあえず、空力にキチンと気を配って設計された機体では銃身は出っ張らせない、
という点だけ見て置いてください。


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