■今度こそ音を超えて行こうよ

さて、今回ようやく音速を超えるまで、エリアルール1号まで行きますよ(笑)。

最初にちょっとだけ、前フリを。
超音速飛行が技術的に困難だ、というのは世間でもよく知られていますが、
なんで困難やねん、という点は、実はほとんど知られてないに等しい状態です。
例えば、音速突破に必須の技術、エリア・ルールは有名ですが、
通常の航空機関係の書籍を見ても、これが音速周辺用と超音速用の
2種類存在することを書いてる本は10に1つもないでしょう。

なぜかを考えてみます(笑)。

コンコルドなき今、日本人で超音速体験が出来る人は、極めて限られます。
チョー大金持ちで自家用機は超音速機、
自家用車はバットモービルです、とかいう人を別にすれば
航空自衛隊のパイロット、しかも戦闘機&偵察機のパイロットだけでしょう。
あとはNASAに行って宇宙飛行士になる人くらいです。

日本で人が乗って超音速突破が可能な乗り物は
2011年末でF-15が約200機、F-2が約100機、
そして戦闘機&偵察機のF4ファントムが全部で50機程度。
日本中探しても、全部で400機前後しかないのです。

約1億2800万の総人口の内、音速を超える事ができる人は
せいぜい500人いるかいないか、という世界であり、
退役されたパイロットの方を含めてもせいぜい1000人前後、という世界でしょう。
数でいったら、国会議員の業界(?)と同人数でしかありません。
情報の出所としては、極めて狭い世界です。

そして、私の知る限り、日本人でもアメリカ人でも、戦闘機乗りのみなさんは、
超音速と言っても特別な事はない、で終わってしまうケースが多いのです(笑)。
特別な事がないのは、特別な事がおきないように設計された機体ゆえなんですが、
ここら辺りまで理解してる人は、テストパイロットクラスの人でも
ほとんどいないような気がします。

そして、その設計者となるとさらに稀少です。
超音速機の空力的な部分、構造設計とか、装備関係ではなく、
純粋に音の壁の向こうに行く機体のアウトラインを設計できる人間といったら、
おそらく日本中を探しても10人いるかいないか、下手すれば0じゃないでしょうか。

そもそも日本が独自に開発した超音速機は三菱のT-2&F-1だけで、
あれだって、もっとも困難な空気取入口以降のラインの設計はYS-11以来の伝統で
ヨーロッパ機、SEPECATのJaguarをパク(以下自粛)る上、そもそも大失(以下略)ですし。
さらにその後のF-2の基本ラインはいうまでもなくF-16であり、
どれだけ変更を加えたにしろ、完全にゼロから設計するのとは訳が違います。

それは人が解くのを見てから、同じパズルに挑戦するようなもんですから、
答えがわかってやってるわけで、仕事としての難易度のケタが一つ違う世界です。
当時の日本の状況を考えると非難する気はありませんが、
少なくとも褒められたモンでない、というのも事実でしょう。



三菱T-2練習機。日本が独自で造った超音速機は、これと派生型のF-1だけなのだ。
かなり譲歩して(笑)F-2まで含んだとしても、
データ、経験の蓄積なんて無いに等しい、と言うのが現状でありましょう。



もっとも、この点では世界中探したって500人と居ないだろう、という世界だと思いますが(笑)。
アメリカ辺りだと、ホンマに軍用機の設計をやってた連中が
機体設計の入門書を書いてたりするのですが、私が探せた範囲では、
音速以下のジェット機の話がほとんどで、
やはり超音速機は全くの別世界の話、となっていました。

そんなわけで、普通に日本で生活してる人間にとって、
この超音速から先の世界、というのはまさに未知の世界です。
深海生物並みに、現在でもほとんど知られて無い世界でしょう。
当然、私だって地球中心点に対する相対速度で(笑)音速を超えたことは一度も有りません。

そんなわけで、これは情報が極めて少ない世界となってます。
超音速の基本をキチンと理解して、必要な知識をほぼ網羅した日本語の本、
というと、1977年に出版された近藤次郎さんの「高速空気力学」くらいしか私は知りません。
さらにこの本は自費出版本であり、本屋じゃ売ってませんでした。
(現在はその手の古本屋で15000円前後の値段で取引されてます。内容からすれば格安です)

そういう世界なのです(笑)。
余談ながら、近藤さんは東大の教授で、その退官記念に出版されたのがこの本だったりする関係で、
東大の図書館に1冊だけ、この本は置かれています。
で、平成23年12月現在、最後の貸し出しの日付は平成14年7月8日となってます(笑)。
東大でこれですから、おそらくこの9年間、まともにこの本を読んだ人は、
日本中探しても10人も居ないような気がします。
まあ、日本の最高学府においても、かように人気のないジャンルなのです…。
ちなみに、縁もゆかりもない私が、なぜ東大図書館の蔵書を読んでるかと言えば、
そりゃ、もちろんコッソリと不(以下略)。

ついでに、超音速飛行の実際の展開については、2006年に出版された
久世伸ニさんの「形とスピードで見る 旅客機の開発史」という、とても良い本があるのですが、
これまた日本航空技術協会による発行で、本屋ではほとんど見ることができません。
(ただしこっちはネットで現在も購入可能。2011年12月現在 2940円)
ちなみにこの本は、旅客機をダシに(笑)航空機に関する技術のほぼ全てを網羅してる
というハラショーに素晴らしい本ですので、興味のある人は一読をオススメします。

まあ、そういった、情報過疎な世界にこれから入ってゆきます。
よって読む方も、それなりの覚悟を決めてくださいませ(笑)。
書くほうはもっと大変なんだから…。


**追記**
この記事をアップ後、永田雅人さんが「高速流体力学」という本を
2010年に出版されていたのを知る。
この本は未読ですが、永田さんの書いた解説は大変分かりやすいものが多く、
おそらく、この本も入門書としては十分な内容を持つと思われます。

上記の「高速空気力学」より入手しやすく、値段も手ごろなので(3360円)、
興味のある方は、こちらを読んでもいいかもしれません。


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