■我未だ音速を超えず
という感じで前回までは、音速手前の速度で発生する翼面衝撃波の説明と、
その対策としての後退翼を見て来ました。
…来たんですよ。
つまり、いかにも音速超えっぽいサブタイトルをつけて置きながら、
実は未だ音速を超えておりません(笑)。
常識的に考えて、そろそろ記事の内容も音速を超えそうなもんですが、
ちょっとだけ待ってね。
もう少しだけ、音速前の話を見ておきましょう。
最初に一つだけ、前回の書き忘れを。
主翼の翼断面の形によって衝撃波が生まれると聞いて、
そういや水平尾翼も翼断面だよね、と気が付いた方はいらっしゃいますでしょうか。
お待たせしました(笑)。
その通りでして、実は水平尾翼でも、似たような問題が起こります。

音速以下の機体の代表的な水平尾翼。
前半部分が固定で安定性を担当し、後半部分が上下に稼動する昇降舵面となって、
機体を上下方向に傾ける力を生んでます。
(下に向けると揚力増で上向きの力が加わり、尾翼を持ち上げて機首が下がる。逆も同様)
普通に真っ直ぐ飛ぶときは、一枚板のような平面となるわけです。
そして、これも揚力を発生させる断面翼形状(翼型)になってます。
で、先に説明したように、衝撃波失速は、翼面後半の気流の流れが弱まる現象ですから、
これが発生すると、水平尾翼後部についてる昇降舵(エレベータ)に十分な気流が当たらず、
舵が効かなくなって操縦不能、という恐るべき状況になります。
一般に、急降下中の急加速で衝撃波失速は発生しやすくなります。
そうなると機体の引き起こしに必要な水平尾翼のコントロールが全くダメ、という状況は、
そのまま真っ直ぐ地面に突っ込んでゆく死のダイブに直結するわけです。
実際、この手の事故は多かったと思われます。
じゃあ、尾翼にも後退翼を付ければいいの?

はい、その通り。
そんなわけで、ジェット機の尾翼にも後退角が付きました。
が、実はこれだけでは不十分で、高音速になるにつれて、
どうしても舵の効きが悪くなってしまい、超音速飛行になると、さらに効かなくなってきます。
どうするか?
この件については、意外なトコから解決策がやってきます。
世界初の水平超音速飛行機として有名なベルの実験機、X-1は、
水平尾翼後半だけではなく、全体の取り付け角度を調整できるようになっていました。
で、例の音速飛行の最中、“チャック”イェガーが、昇降舵(エレベータ)が効かないぜガッデム!となりながら、
どうやら水平尾翼を丸ごと動かせば音速以降でも昇降舵が効く、という事を発見します。
この結果、音速手前の高速飛行時、その昇降舵の効きに悩まされていた
F-86がE型以降、水平尾翼全体を動かせるフライング テールを採用する事になり、
以後のジェット戦闘機ではこれが標準的な装備となります。
写真は世界初の超音速ジェット戦闘機、F-100のもので、
ちょっと逆光で見づらいですが、水平尾翼は分割なしの一枚板で
丸ごと動くようになってます。
さて、本題の主翼の問題に戻りましょう(笑)。
マッハ0.8前後から問題になってくる翼面上の衝撃波、
これの対策として、前回は後退翼を見ました。
が、人類と言うのは大したもので、それ以外にもいくつかの
対策を作り出しています。
ここでは、その後退翼以外の対策を見ておきましょう。
ただし、これも基本的にはマッハ1.2前後以下の気流の中の話で、
音速飛行以前が前提だと思っといてください。
さて、後退翼は主翼を傾ける事で翼断型に沿った流速を下げ、
衝撃波の発生を遅らせてるのよ、というのが前回までのお話。
そして理屈が判ってしまえば、頭のいい人がたくさんいる航空機設計の世界、
当然のごとく、同じ効果を得られる別の手段が考えられます(笑)。
その一つが、後退翼以外の方法で翼断面の上の流速を遅らせる方法、
もう一つは翼断面そのものを衝撃波の出にくい形状にしてしまえ、というものです。
で、前者のたどりついた結論がデルタ翼、
そして後者のゴールがピーキー翼型、そしてスーパークリティカル翼型となります。
まずは、デルタ翼から見て行きましょう。
だれも覚えてないでしょうが、この脱線は
そもそも、デルタ翼のためのものだったのですよ、はい(笑)。

地球環境にやさしい資料のリサイクル。
さて、これが前回見た後退翼の原理の図です。
後退翼上では翼断面から見ると、気流が余計な距離を移動する事になり、
相対速度が落ちるから、衝撃波の発生が遅れるのだよ、と説明しました。
…したんですよ。
が、ここで、視点を変えてみます。
じゃあ、逆に後退翼上の気流の移動ラインにそって主翼の断面を切り出してみたらどうなるの?

こうなります。右側がその断面。
当たり前ですが、移動距離が伸びてるのですから、本来の翼断面形に対して、
間延びした、長細い断面になっています。
つまり、前回のように翼断面から見た場合、気流の速度が落ちていたわけですが、
これを気流の側から見た場合、単に移動距離が伸びていた事になるわけです。
そして、この二つは同じ翼の断面を見る角度を変えただけ。
よって、主翼上面の衝撃波の発生が防げたのは、
“翼断面から見て気流の速度が落ちたから”と考えても
“間延びした長い翼断面形を気流が移動したから”と考えても、
どちらも間違ってはいない、という事になります。
よって翼断面形を引き伸ばす、つまり翼弦長を伸ばしても衝撃波は防げるわけです。
ならば主翼を縦方向に引き伸ばしちゃっても、
後退翼と同じ効果があるんだぜ、ハニー、という事になります。
つまり、縦方向に引き伸ばした(翼弦長の長い)主翼でも、後退翼と同じ効果がある。
主翼を縦に引き伸ばすって、なんじゃそりゃ、という感じですが、
この記事を書いてる私と、読んでる皆さんは、
すでにそういった主翼のスタイルを知っています。
ようやく、たどり着きました(笑)。
みなさんお待たせ、デルタ翼の登場です。
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