■三角の祝福
もう誰も覚えてないでしょうが(涙)、
後退翼でおなじみのブーゼマンが、終戦直前には
デルタ翼の研究を行っていた事は既に書きました。
この段階では世界でただ一人、まともに後退翼理論理解していた
彼が最終的にたどり着いたゴールがデルタ翼だったわけです。
デルタ翼そのものはリピッシュの考案ですが、
彼はあくまで普通と違う主翼が造りたかった人で(笑)、
高速飛行時における、衝撃波の問題とかはあまり興味があったように見えません。
デルタ翼が翼面上の衝撃波対策のために使える、
と見出したのは、おそらくブーゼマンだと思います。
ボーイング727のコクピット横から見た後退翼。
胴体横はほぼ何も無く、主翼の前後幅は極めて短いモノとなってます。
カモン!衝撃波!
同じような場所から見たコンコルドのデルタ翼。
同じ主翼と言っても、大好きと犬好き位に異なってるのがわかるでしょう。
お前は主翼オバケか、という感じで胴体後部までひたすら主翼です。
こんだけ長い距離で衝撃波なんて起せるもんなら起してみやがれ、
てやんでえちきしょうベラボウめ、ってな世界です、はい。
余談ながら、主翼の端が少し下を向いてるのは、いわゆるワープ構造ってやつだと思うのですが
よう知らんので見なかった事にしましょう。
そう、デルタ翼も音速飛行手前で起きる翼面上衝撃波発生に有効なのです。
そして、この翼面形は、後退翼にない多くのメリットを持ちました。
が、主翼を縦長にすればいいのなら、
短冊を機体横に貼り付けたような長細い主翼でもいい、という事になりますが、
それだと、主翼上の衝撃波の発生は防げても、それ以外のデメリットが多すぎる…
と言うか、揚力が低すぎて恐らくまともに飛べなくなります(笑)。
この世に衝撃波なんかなければ、普通のプロペラ機のような、
横長の直線翼が一番いいわけです。
後退翼もデルタ翼も、妥協の産物に過ぎないわけですから、
あまり奇抜にしても意味はありません。
そもそも後退翼のところでも説明したように、翼面上衝撃波の発生を防ぐ、
というのは結局、気流の流速を落すことに他なりませんから、
これは揚力の低下に直結します。
つまり、高速飛行の翼のデザインの最重要点は、
揚力を採るか、衝撃波対策を採るか、のバランスとなります。
なので、高速飛行に向いて、かつ最低限常識的な運用が可能な形状、
というバランスのいい結論が、デルタ翼の形なわけです。
ついでに、ここまで読んでいただければわかるように、
デルタ翼の後退角は、通常翼の後退翼とは全く意味が異なり、
あれで直接衝撃波の発生を防いでるわけではありません。
で、現代の超音速機では、ほぼ後退翼は消えてしまい、
水平尾翼付き&無尾翼デルタ翼、あるいはその派生型ばかりになってしまいます。
これにはいくつかの理由がありにけり。
後退翼世代の最後を飾る機体の一つ、
イギリスのライニング迎撃戦闘機。
1957年に初飛行したマッハ2クラスのジェット機です。
後退角は実に60度あり、この角度じゃ、主翼後ろのエルロン(補助翼)、フラップの効きも悪くなるでしょうし、
こんだけデカイ主翼を付けながら、揚力的には相当な損をしてるはずです。
まあ、いろいろ無理してるなあ、というのが判ります。
ライトニングの同世代機、こちらは1956年初飛行のフランスのミラージュIII。
ここまで来たなら、主翼端と胴体を結んで、
こういったデルタ翼にしちゃった方が現実的でしょう、とは誰もが思うところ。
おなじ主翼上の衝撃波対策なら、どう見ても、こっちの方が合理的。
もっとも、後退翼とデルタ翼は、まったく構造も原理も違うのでそう単純でないのは
すでに説明したとおりですが。
が、この手の無尾翼デルタには利点もあるけど、いろいろ欠点もあり、
その結果、アメリカやソ連は、いいとこ取り、という感じの水平尾翼つきデルタ翼へと流れてゆくわけです。
上の2枚の写真を見ると、後退翼のライトニングでは主翼付け根は極めて短く、
これだけの主翼を支えるには相当な無理があるのに対し、
デルタ翼のミラージュの方は、てやんでえちくしょうベラボーメ、
といった主翼付け根の長さを誇ってます。
当然、デルタ翼の方が、容易に強度を稼げ、これだけの長さがあれば
その付け根はもちろん、主翼全体を薄くしても容易に強度が維持できますから、
これまた高速飛行に有利となります。
逆にあの面積しかない後退翼を薄くして強度を確保しようとしたら、
相当な重量増加を招くでしょう。
十分な強度をもって軽いまま主翼を薄くできる、というのは
余分な重量を兵装に振り分けられる、という事ですから、重要です。
さらに戦闘機は高機動してナンボ、という飛行機ですから、
単に水平飛行してるのに比べ、機体に数倍の過重が懸かって来るのは普通で、
これに耐える、と考えると後退翼の構造は相当にキツイものがあるのです。
参考値ではありますが、30%の後退角を主翼に与える場合、
強度確保のため、直線翼より1〜2割重くなるとされます。
もう一つは、翼端失速の問題。
翼端失速は突然発生しやすく、その回復も困難です。
後退翼機はこれを起し易く、特に離着陸の時に危険なのですが、
三角翼ではこれが無く、むしろ離着陸時には安定性を増す傾向があります。
(ただし前縁部の後退角が小さいと、その効果は小さくなる)
ちなみに戦後アメリカに連れてこられたリピッシュによれば、
アスペクト比(主翼の縦と横の長さの比)が2.5以下、
という縦長のデルタ翼なら、決して翼端失速をしないそうな。
ただし、翼端失速しづらい、と言ってもデルタ翼には揚力が低い、
という特徴があるので、かならずしも離着陸がラク、というわけではありません。
後は説明が面倒になってきたので(最低)軽く触れておくと、
後退翼にあるダッチロール(進行方向を軸にシーソーのように機体が左右に揺れる)や、
ピッチアップ(急に機首が持ち上がり、あまりに急角度なら失速する)の
悪癖が抑えやすい、といった面もデルタ翼にはあります。
ついでに、無尾翼デルタなら、先に書いた、水平尾翼の面倒な問題も
避けて通ることが可能です。
後は、単純に主翼がデカイといろいろ便利だから(笑)
というのも、意外に大きな理由でしょう。
上の豪快な後退翼のライトニングは主翼下に何も積めなくなってしまい、
増槽を主翼の上に積む、というビックリドッキリメカになりましたが(笑)、
デルタ翼なら、これだけの下面があるんで、なんでも積み放題でございます。
そして、主翼下がでかけりゃ中もでかいわけで、ここに燃料タンクを詰め込んで、
航続距離の延長だってできるわけです。
まさに、やりたい放題ですね(笑)。
ちなみにデルタ翼は翼面過重が有利、つまり同じ位の重さで
より大きな主翼があるから、飛びやすそうという印象がありますが、
そもそもデルタ翼は揚力的には有利ではない形ですから、
ここら当たりはどうかな、という気がします。
第二次大戦までのみんな同じ直線翼、と違い、
面積だけで、そう簡単には判断できないでしょう。
そんなわけで、高速で、高機動が必須のジェット戦闘機においては、
デルタ型の主翼が主流になってゆくわけです。
が、当然、逆もまた真なりで、そんなに高速でも高機動も要求されないなら、
通常の主翼に近いほうが望ましく、
この結果、ジェット旅客機などは最低限の後退翼をつけるだけで、
主翼上の超音速発生に対処してるわけです。
この“最低限の後退角”が時代と共に、じつはどんどん小さくなってるんですが、
この点は次のページにて。
ちなみに縦長(アスペクト比が低い)の主翼では通常の主翼に比べると
揚力の発生位置が“最初から”前方にある、という妙な特性が出るのですが、
これがデルタ翼では、超音速飛行時のメリットとなってきます。
この点は、音の速度を超えた後でまた(笑)。
ボーイングの737、767、777、747-400辺りは、よく見ると主翼の付け根の後部は胴体に対して
直角に近い角度で接しており、この部分だけ見るとデルタ翼に近いものがあります。
本来は主脚の収納部の確保、といった目的だったかも知れませんが、
実は翼面上衝撃波の発生し易いのは、胴体横の翼なので、
これによって翼弦長を伸ばし、結果的には、その発生防止にも役立っているはず。
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