■音を超えて行くのだ

さて、そんな変な目的に使われていた後退翼でしたが、
これが主翼上の衝撃波対策に有効だ、と
最初に気がついたのが、ドイツのブーゼマンだったわけです。

実際は機体の進行方向に対して、主翼が斜め方向ならどっちでもいいので、
主翼が斜め前に向いてる前進翼でも同じ効果があります。

ただしこれは音速以下の飛行の話で、超音速飛行、特にマッハ2クラスを出す気です、
となると、後退翼の方が有利な条件が多くなってきます。
ここら辺りの説明も、また後ほど(多分…)。



NASAが2機だけ製作した前進翼実験機、X-29。
それなりに有名な機体でしょう。
この写真だと全くわかりませんが(涙)、胴体後ろ、エンジンの横から主翼が
前に向けて突き出してます。

とりあえず、最高速度でマッハ1.5あたりまでは出したようです。



まずは後退翼と前進翼がなんで衝撃波発生回避に効くのん?
という点を見てゆきますぜ。
ちなみに以下の説明は恐らくこっちの方が判り易いと思うので
ブーゼマンの論文とは異なる方法で説明してます。

注意して欲しいのは、今回の説明は、機体速度はまだ音速以下で、
主翼上にだけ超音速以上&以下の気流が混在してる時の話です。

さて、失速&抵抗増大の原因となる主翼上の衝撃波の
発生原因をもう一度確認しましょう。

主翼上の衝撃波は翼面上で気流が加速され、
その中に音速を超えた部分と、まだ音速以下の部分が別々に生じる事で発生します。

さて、この主翼上の気流の加速を生み出しているのは、主翼の断面形で、
主翼の上面が凸型に盛り上がっている結果、起きる現象です。
なぜ?ってのは、あと3回以上の連載を使わないと説明しきれないし、
私の知る限り、完璧、という説明はまだ見たことないので、
この点は、そういうもんだ、と思っておいてください(笑)。

で、ここで重要なのは、主翼の断面形にそって気流が流れる事で
その加速が起きる、と言う事。
この断面形は言うまでもなく主翼を真横から見た形状です。
低速飛行しかしないプロペラ機などでは、主翼は進行方向真正面、
ガチで気流と勝負したるで、という角度、直線翼で胴体に取り付けられてますから、
当然、気流は真正面からその断面形にそって流れ、その結果、普通に翼面上で加速されます。
当たり前ですね(笑)。

さて、ではこれが胴体に対して斜めに取り付けられた主翼ならどうなるか。
ここでは後退翼で考えてみましょう。
下の図は同じ長さと幅の主翼で、胴体に直角につけた直線翼(左)と、
斜めに角度を持って取り付けた後退翼(右)を示します。

赤い線が同じ速度の気流を示し、両方とも同じ長さを持ちます。
ここで直線翼、後退翼で、それぞれ主翼の前から後ろまで
気流が流れる速度を考えましょう。





仮に主翼の前後の長さを10として、これを時間10で通過したと考えると、
速度は距離÷時間ですから、左図の直線翼上の流速は1です。
ここまでは当たり前やんか、という世界。

さて、これを進行方向に対して斜めに取り付けられた後退翼で考えるとどうなるか。
ここでは右の図がそれになります。
最初に気が付いていただきたいのは、
直進で通り抜けちゃう場合に対し、斜めに進む事で余計な距離を移動するため、
同じ速度では主翼後端まで気流が届いてない、ということ。

これを真横から見ると、下の図のようになり、主翼の途中までしか気流は届いてません。

で、ここで思い出していただきたいのは、主翼上の気流の加速は、
あくまでこの翼断面の形に気流が流れた時にのみ起きる、という事。
つまり、翼断面の形の上をどれだけの速度で移動したのか、という点だけが問題になり、
その流速は翼断面形、つまり主翼を横から見た状態からのみ求められるのです。
なので、主翼上面での進行方向と移動距離は全く問題にならず、
主翼を横から見た時の速度、主翼の翼断面形の上を移動した速度のみが問題となります。

となると右の図、後退翼の場合、横から見たら気流は主翼の途中、
翼全体の9割辺りまでしか到達してませんから、
横から、つまり翼断面上から見た速度は、距離9÷時間10で0..9です。
直線翼に比べて、0.1、10%ほど翼断面上の移動では速度が遅くなってしいます。

これは、どういう事?といえば、
翼を斜めにすると、翼断面形に対する流速が低下する、という事にほかなりません。
上の図で言えば、機体がマッハ1で飛んでいても、後退翼なら翼の翼断面に対する気流速度は
その0.9倍、マッハ0.9にしかなりません。

はい、機体の速度が上がっても、主翼周辺の速度は
同じようには上がらない、魔法の完成です(笑)。
当然、後退角を大きく取れば取るほど、上から見た気流の移動距離は伸びますから、
横から見た翼断面上の移動速度は低下してゆくわけです。

なんだかパチモンの一休さんのトンチでダマされてるような気がしますが、
実際、これで多くの飛行機はマッハ0.8〜0.9の飛行時における主翼衝撃波の発生を
抑えてしまってるのですから、有効な対策となっているのです。

音速直前のマッハ0.9で飛行する場合、40度の後退角で
直線翼の1/4まで衝撃波発生による抵抗値が下がった、とするデータもありますから、
その効果は絶大と言っていいでしょう。
ただし、抵抗に関しては飛行速度が音速に近づくほど、その効果は薄れて行きますが、
それでも直線翼よりははるかにまし、という抵抗値になって行きます。

まあ、あまりに簡単な話なので、先に書いたように1935年の発表時には
学会からはほとんどシカトされてしまい(笑)、
10年後にアメリカとソ連はあわててその効果を取り入れるハメになるわけです。

ただし、翼断面に対して流速が落ちるわけですから、
当然、通常の直線翼に比べて発生する揚力は劣ります。
なので、音速を超える気がないなら、可能な限り小さな後退角が望ましい事に。
ジェット旅客機の後退角が、戦闘機などに比べて控え目なのは、
そういった理由があります。


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