ここからは新しい写真で、機体全体を見て行きましょう。
ウドヴァー・ハジーセンターの機体は製造番号140312、
爆撃機型のB-2になります。

終戦時にイギリス軍がノルウェイの基地で接収した
9機のAr-234の機体のうちの2機がアメリカに引き渡され、
陸軍航空軍によって、1947年まで2年近くテスト飛行が行なわれました。
これは、そのうちの1機が1950年代にスミソニアンに寄贈されたものです。

以後、倉庫で眠っていましたが、
最終的に1984年から1989年にかけてレストアされたようです。
戦後、飛行試験に使われたものの、
コンディションは比較的いい状態だったと見ていいでしょう。

ちなみに残りの1機は海軍に渡されましたが、
試験後に飛行不能となってしまい、スクラップにされたようです。
ついでに先に書いたようにイギリス軍も、残りは全てスクラップにしちゃいました。



主翼下の銀色の壷型のものは離陸の際に使う補助ロケット、
いわゆるRATO用装置です。
ドイツ爆撃機では、多少重くてもこれで強引に離陸させてしまう、
という力技離陸に、よく使われた装置です。
基本的にはロケット戦闘機Me-163のヴァルター(Walter)機関と同じもので、
離陸後は切り離され、正面についてるパラシュートで
落下回収するようになってました。
空気取入れ口が要らないロケット機関ならではのパラシュート位置でしょう。

で、そのヴァルターロケットは離陸専用なので
強烈な下向きの角度を持ってますが、
よく見るとジェットエンジンも胴体に対して、
微妙に斜めに取り付けられてるのがわかるでしょうか。
この差はエンジンポッドの下の線と、
機体の前部下の線を見比べるとよくわかると思います。

これがこの機体の妙な特徴で、同じエンジンで同じ双発ジェット機の
Me-262は普通に両者はキチンと平行ですし、
他のポッド式のジェット機でも、こんな構造の機体は普通ありません。
これだと飛行中は胴体はかなり頭を下げた
オジギ状態で飛んでる事になりますが、普通に考えると
空気抵抗は大きくなるばかりで、メリットはないはずですが…。

このエンジンポッドの下に爆弾や増加燃料タンク(増槽)を積めたので、
もしかすると、そのバランス調整のためとかでしょうかね。

私の知る限り、水平飛行中の写真が残ってない機体なので、
どんな姿勢で飛んでいたのかは謎ですが、
なんともよくわからない部分ではあります。



正面から。
なんとも昆虫的な印象の機体。
こうして見ると、やはり主翼は長いなあ、というのが判ります。
その主翼の右端で赤いテープが下がってるのは
対気速度(=機体速度)や高度を測るためのピトー管。

前輪式の降着装置なので、
有機ガラス(アクリル)張りのコクピットとあわせ、
離着陸時の視界は良かったでしょうね。
コクピット上に飛び出してるのは潜望鏡(ペリスコープ)で、
後部視界の無いこの機体で後ろを見るのと、
緩降下爆撃のときの照準器を兼ねてます。

ついでに降着装置の脚が極めて短く、機体の背が低いのにも注意。
プロペラが要らなくって地上と胴体の隙間が小さくても接触の心配が無くなった
初期のジェット機は、それがうれしくてしかたない、という感じに(笑)
こういった背の低い機体がいくつか見られえます。

同じドイツのHe-162、イギリスのミーティア、ヴァンパイアなどがそうですが、
逆にそんなの知るか、と従来通りの背の高い機体として
Me-262、P-80などがあり、ここら辺りは設計者の好みでしょうか。

ちなみにジェット機は基本的に前輪式になってますが、
これは後輪式にはほとんどメリットが無いからで、
地面と接触する恐れのあるプロペラが無くなった以上、
好き好んで尾輪式にする意味がないのです。

例えば尾輪式で地面に接地している機体では
コクピットが空を向いてしまいますから、正面方向の視界が悪く、
場合によっては滑走路までの誘導員が必要です。

さらに思いっきり機首が上を向いてる姿勢、
つまり高い迎角を取った地上姿勢になってるため、
そのままだと離陸に大きな抵抗がかかってしまい、加速が大変です。
よって飛行に必要な速度を出すのに、エライ時間と距離がかかる、
場合によってはいつまで経っても飛び立てない事になるのです。

このため、第二次大戦中のレシプロ戦闘機の離陸映像を見るとよくわかりますが、
尾輪式の機体では、離陸滑走中に一度ケツを上げ、
(水平尾翼のエレベータを下げる。つまり離陸なのに操縦棹を前に倒す!)
機体を水平にして滑走、十分な速度を得たら、今度は操縦棹を手前に引いて
機体を上昇させる、という面倒な手順が必要になってます。
(ただし低速でも十分な揚力が出る羽生張りの複葉機などではこの限りではない)

最初から機体が水平になってる
前輪式の機体ではこれらの苦労がないわけで、
前輪式にできるなら、そうした方がいい、という事です。
ただし、降着装置の大型化で重量が増える、という欠点がありますが、
ハイパワーのジェットエンジンなら、さほど問題にはならないでしょう。



この機体も撮影しづらい置かれ方をしてるのですが、
辛うじて真後ろから撮影できました。
この角度から見ても、胴体の水平方向と
エンジンポッドの水平方向がズレてるの、わかるかと思います。

ついでに垂直、水平尾翼共に表面に大きく飛び出してるのは、
操作ロッドとそのカバーかと思ったら、
バタつき(フラッター)防止のために付けられた、
バランス取り用のオモリでした。

この角度からだと極めて細い胴体なのが見て取れます。
当然、胴体内に爆弾庫はありません(笑)。
Ju-87スツーカのように胴体下に爆弾を抱えて行く構造でして、
展示の機体でも、胴体下に爆弾が1個、搭載されてます。

ゆえに爆装すると、かなり速度が低下したわけです。
他にも先に書いたようにエンジンポッドの下にも搭載可能でしたが、
相当速度は落ちたでしょうね。


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