■時間が意味を持たない世界について



えー、というわけで、前回は
「株価の値動きは正規分布だから、そこには平均への回帰現象が発生するでゴザル」
という話をしました。したんですよ(笑)。大丈夫でしょうか。

ただし、厳密には正規分布ではありません。
微妙にズレるのです。
ここら辺、最先端の金融工学でも、結構問題になってる部分なんですが、
そこまで深いことには突っ込まない本稿では、
とりあえず「平均への回帰が期待できるデータである」という考えだけを採用しておきます。

でもって、この「ズレ」はどういった結果を引き起こすのか、
というと、一般に、理論値より大きなイレギュラーの発生が見られます。
例えば、確率的には数百万分の一、という現象が、年1回ペースで起きてる、
などというケースがあったりするのです。
なので「よりシビアなリスク計算」が要求される、と思ってください。
安全マージンは大きめに取っておいた方がいいよ、と。

これをやらないで、理論通りのリスクマージンだけ取ってしまうと、
かつてノーベル経済学賞を受賞したメンバーを抱えながら、
98年にあっさり崩壊してしまったファンド組織、LTCM の二の舞となります。
(この時のグリーンスパンの活躍は日本でももっと注目されていいような気がする)
余談ながら書いておくと、LTCM には金融工学の基礎の基礎、
ブラック・ショールズ式(私はまだ理解できてないけど)を生んだ一人、ショールズが居ました。
まあ、理論はしょせん、理論なんだよ、というお話。

ついでに余談ですが、以前に触れた「株価の上がり下がりの連続回数」はほぼ完全な正規分布となります。

さて、というような事をアタマに入れた上で、今回から、
それらをどうやって利用してゆくのか、という話をしてゆきます。
コアとなるのは、ようやく説明する「標準偏差」という考え方。
これを「平均への回帰現象」を予測する足がかりとします。
さらに、標準偏差から求められる偏差値も使って行く予定ですが、まあおいおいと。



基本中の基本となる考え方なので、もう一回載せておきましょう。
現実の株価の値動きは平均値(過去5年では約2円)から、標準偏差(同約172円)の3倍以内(516円)の
金額にその97.5%近くが収まってるんだよグラフ。
中心の0円が(実際は2円)平均値で、そこから遠ざかるにつれてサンプル数は減って行く。


さて。
株価は1日単位で見た場合、それが上がるか下がるかは常に1/2の確率です。
かつ、その値動き幅は99%近い確率で、標準偏差の3倍以内になる、という事も前回説明しました。
この二つは、原理的な法則に縛られてますから、絶対、動かせない数字です。

翌日の上げ下げの確率を1/2以上の精度で予測するのは不可能、という段階で、
これを未来予測の対象にするのは、純粋にギャンブルとなってしまいます。
それじゃあ、意味が無い。
そこで、1日単位の値動きの予測は諦め、もう少し長い時間を対象にして、
ある程度の期間における、おおよその値動きを予測しよう、
というのが今回のお話となって行くわけです。

まず、この原稿で何を説明しようとしているのか、
大体のイメージを掴んでもらうため、簡単な例え話を。



図のように、五つの四角からなるターゲットを地面に描いて、
数メートルくらい手前から石を投げてもらう、というテストを考えましょう。
この時、被験者には、中央枠の中心にある、赤い線を狙うように指示します。

テスト参加者は10人前後、右利き、左利きを半々くらいとしましょう。
一人50回前後投げてもらえば最低限度のデータが取れるはずです。

実験結果を予測すると、人間のやることですから、全ての石が赤い線に乗るはずもなく、
ある程度の範囲に広がって石は落ちているはずです。
この「被験者の投げた石がどのようにバラつくのか」を考えてみましょう。

実際に実験してないので断言は出来ませんが、ほぼ運任せになる以上、
この実験結果は正規分布になることが予想される、というところから話はスタートします。

全員が狙って投げてる以上、中央の枠の赤い線付近に石はある程度集中するはずで、
ここが正規分布でもっともデータが集中する部分、平均値にあたることになります。
で、中央の枠が標準偏差(今回こそ説明します)の数値範囲、
左右の枠が標準偏差からの2倍、3倍のズレと考えます。
前回説明したように、正規分布を見せるデータは、平均値から標準偏差の3倍以内の範囲に、
そのデータの99%が収まるはずですから、ほとんどの石は
この5個の枠の中に入ることが期待されるわけです。
(事前に標準偏差から3倍の広さを知ることはできませんが、話を簡単にするため、目をつぶってください)


実際に実験してないので断言はできないが、多分こんな感じになるはずだ、という図。
中央の枠を標準偏差内、その両隣が標準偏差の2倍の幅、一番外側を3倍の幅、と考えれば、
そのデータは、上のグラフと同じような分布の広がりになる、ということ。


この時、どこに石が落ちるのかは、ある程度まで運ですから、正確には予測できません。
しかし、全員が中心線を狙ってるのですから、その方向性はある程度わかります。
さらに調べて見ると、被験者が右利きか、左利きかでデータに多少クセがあるでしょうし、
あるいは特定のコントロールの悪い被験者が存在するかもしれません。
屋外なら、風向きなども考える必要が出てきます。

これらの要素を考えれば、石はココに落ちますよ、警部!と完全に落下場所を特定するのはムリでも、
大体の位置、上のイラストで言えばどの枠に落ちるか位は、予測できるのではないか…。
というのが、今回の話の意味するところです。

この考え方には「被験者は常に中央の線を目がけて投げている」という大前提が必要なのは分かると思います。
これが無い状態、みんなが好き勝手な方向に石を投げている状態では、この予測は当然、成り立ちません。
この「中央を狙う」という要素にあたるのが、正規分布における「平均への回帰」です。
株価の上下額のデータは常に平均値周辺に集まろうとする傾向があるのですから、これは上の実験における、
「皆が中心の赤い線目がけて石を投げてる状態」と同じわけです。
これを大前提とし、それぞれの時点での「クセ」を見つけられれば、
ある程度の「株価の未来予測」は可能になるのではないか、というのが今回の話。

 
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