■東京測距許可局局長
最初に軍艦の主砲による射撃では、どうやって照準するのか、
つまりどうやって相手に狙いをつけるのか、を考えておく必要があります。
例えば水平線の向こうに敵艦の艦橋だけが見えた時、
「よし、ターゲットスコープ ロックオン!フハハ、馬鹿め!発射ァ!」
「いやーん、沈んじゃいました」
といった簡単な(?)話にはなりません。
長距離飛ぶ砲弾は山なりの弾道、放物線に近い形(空気抵抗の関係でゆがむ)
を描きながら飛んで行きます。
ピストルやライフルからターゲットに向けて
バキューンと弾を撃ち出すのとはちょっと違うのです。
水平に向け撃ちだされた弾は、実は砲身を飛び出た瞬間から
少しずつ地面(の先にある地球中心点)に向けて落下し始めています。
けっしてまっすぐ真横に飛んでは行きません。
近距離ではそれほど影響はありませんが、徐々に緩やかなカーブを描いて
地球中心点に向けて落下してゆきます。
でもって、通常、地球中心点に突っ込む前に(笑)地面や水面にぶつかって
そこで止まるわけです。
これを避けるには、飛行中にも横方向への力を与え続けるロケット弾、
あるいはジェットエンジンなどを付けたミサイルを使うしかありません。
火薬で最初にドカンと蹴り出して、その後はひたすら惰性で飛んでゆく
つまり、横方向の力が減衰してゆくだけの火砲では、どうしようもないわけです。
水平方向の弾丸飛翔距離は2000mくらいまでが限界と思われ、
これを超えるには火薬を使っただけの火砲ではかなり厳しいでしょう。
よって、弾丸を遠距離まで撃ち込む場合、
多少落下してもそう簡単に地面や水面にぶつからない、
余裕を持った高さを飛ぶように、斜め上に向けて撃ち出してやる必要があります。
つまり放物線を描くような方向、上向きに撃つわけです。
野球で、内野の守備は直球で素早くボールのやり取りをするのに、
外野からは山なりの遠投で投げてくるのと、基本的に同じ理屈です。
このため、長距離砲では「見えた!狙え!」とは行きません。
砲をそっちに向けて撃っても、弾が届かないのです。
よって、まずは相手の居る位置を測量で割り出します。
具体的には相手のいる方向と、そこまでの距離です。
で、そこに弾が落下するように撃ちだすための各要素を計算し、
その数字通り、砲の角度をセットし、必要な炸薬をつめ、
ようやくドカンと発射します。
実際には、ここに気温や風向き、コリオリの力の影響などを考慮するようです。

第二次世界大戦期に量産された輸送船、
リバティシップの艦首に搭載された76.2mm(3インチ)砲。
対空砲、あるいは浮上したUボートをケチョンケチョンにする砲ですから、
これには照準器がついており、直接相手を目視して狙います。
すなわち砲弾は直線を描いて飛んで行くように発射されます。

同じ船の艦尾にある5インチ(127mm)砲。
これにはもう照準器はありません。
なので相手位置を計測し、そこから出てきた指示された方向、
そして飛行距離を決める上下角度をセットしてぶっ放します。
その結果、砲弾は放物線に近い弾道で飛ん行き、
目標には斜め上方向(空気抵抗の関係で放物線にはならず、最後はかなり急角度で落下する)
から命中することになります。
余談ながら、リバティーシップに射撃管制所はないので、
おそらく手持ちの側距儀(簡易測量器)をこの場で使って
目標までの距離を測ったはず。
方位は敵が見えてる方向に砲身を向けりゃいいので、
結構なんとかなるみたいですね。
でもって、長距離砲のもう一つの特徴は、
なんせ長い道のりを砲弾さんは飛行して行くので、
到達までにえらく時間がかかること。
「食らえ!」
バキューン!
「イヤーン食らちゃったー!」
というような簡単な話(?)にはなりません。
平均時速2000kmを超えているといわれる戦艦の主砲弾ですが、
それでも戦艦艦橋から見える水平線付近まで、
25km前後を飛んで行くのには、約40秒かかります。
実際は数千メートル上空まで達してから落下する、
放物線に近いルートを通って飛んでゆきますので、もっと時間がかかるはず。
(正確な計算はご容赦ください…)
その結果、静止目標でないかぎり、
ターゲットは射撃時にいた場所から、かなり動いてしまいます。
戦闘モードに入ってる軍艦なら、時速60km近く出してますから、
700〜800m、艦の全長の約4倍近い距離を移動してしまいます。
元居た場所にナンボ砲弾が落下しても、カスリもしないのです。
なので、発射時にはその予測される移動地点に向けて撃つ必要があり、
それには敵艦の進行方向、そして移動速度を知る必要があります。
これらの計測は、正確な照準に絶対必要不可欠な要素です。
言い換えれば、相手の移動予想ポイント、未来位置を正確に予測する事が
戦艦クラスの主砲の照準をつけりるという事なのだ、
と思ってかまわないと思います。

第二次大戦期に建造されたイギリスの重巡洋艦ベルファストの主砲砲塔内部。
3つ見える白い箱型のものが主砲の尾部。3連装です。
で、ご覧のように外部を見るための窓等は一切なく、
あくまで指揮所(あるいは計算所)から指示される(電話でかかってくる)データ通りに
各砲をセットし「ほいじゃ撃ちますぜ、ダンナ」と発射していたのでした。
一応、この写真撮影位置に「主砲責任者(?)」の席があります(電話だらけ)。
当然、撃った弾が当たったかどうかなんてここではわかりません。
そして、戦闘指揮所が砲弾くらって消えてしまうと、
この主砲の戦闘能力も、ほとんど奪われてしまう事になります。
ちなみに相手の未来位置を予測する、というのは、
高速で飛行する戦闘機同士の空中戦でも重要になってきます。
が、航空機の場合、弾丸の到達時間はせいぜい数秒でしかなく、
しかも最悪、停止することすらできる艦船と違い、
移動方向の限られる航空機ですから、その未来予測は、戦艦主砲よりかなり簡単で、
確率問題的には児戯にも等しいでしょう(笑)。
よって、第二次大戦期のアナログコンピュータでも、
かなり高性能な未来予測を行う光学照準器が登場していました。
対して軍艦の位置の未来予測は、不可能ではありませんが、
あまりに幅が広く、最後はギャンブルになります。
これはどんなに技術が進んでも、原理的に避けられません。
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