タルナフスキー将軍

お次は個人的に注目しているウクライナ軍の指揮官の一人、オレクサンドル・タルナフスキー(Олександр Тарнавський)将軍のインタビュー記事。 2023年2月に公表されたもの。

開戦時に東部軍管区司令部の参謀長兼副司令官を務めていた人物であり(2015年以降、ウクライナ軍の軍管区は東西南北の四つに分かれている)、すなわち2022年4月、ハルキウ州北部からのロシア軍の大潰走を引き起こす事になる開戦直後の防衛戦闘を指揮した将軍です(ただし首都キーウ周辺は北部軍管区なのでこの人の功績ではない)。後に、ウクライナ軍の最高司令官であるザルジニー将軍によって抜擢され、ヘルソン方面の作戦司令官に任命されています。ここでもロシア側の補給路を締め上げる事で一帯のロシア軍を撤退に追い込み、事実上の無血占領に成功したわけです。すなわち戦わずに勝つ系作戦のウクライナにおける頭脳と思われる人物となります(ただし本人は戦闘をやる気だったと述べている)。ちなみに筆者はこのインタビューで初めて秋のハルキウ電撃戦にも参加していたことを知りました。硬軟織り交ぜた作戦に対応できる人物、と言えるかもしれません。

現状はOSUVタブリーア(ОСУВ «Таврія»)の指揮官になっています(OSUV/ОСУВО=б'єднане стратегічне угруповання військ は統合戦略軍集団(The Joint Strategic Force Grouping)の意味。2022年の開戦後に設立された軍の作戦単位。未だに正確な説明を見たことが無いが、四つの軍管区から独立して、独自に各軍を統合し作戦を遂行できる能力を持つ軍集団らしい。第二次世界大戦のドイツ軍における軍集団に近いモノか。現状、タブリーアはヘルソンからサポリージャに掛けての南部一帯を担当してる。他に現場の最高指揮官、先のスィルスキー将軍が率いるOSUV、フォルティッツア(ОСУВ «Хортиця»)がある。こちらは激戦地であるバフムート周辺で戦闘中。筆者が確認しているOSUVのはこの二つのみ)

個人的には恐らくスィルスキー将軍とこのタルナフスキー将軍がウクライナ軍の頭脳では無いか、と推測しています。よって、そのインタビューの要約を掲載しておきましょう。



■Photo UKRAINE MILITARY MEDIA CENTER


質問
司令官の一日はいつも多忙なのですか(筆者注・インタビューに遅刻した上にひっきりなしに報告が入る状況を見た事による質問)。

〇はい。接敵地区の作戦状況、後方の敵の活動、つまり人員や装備の移動に左右されるが。今日も敵はドネツク地方の攻略を試みている。戦車、迫撃砲、ロケット砲、大砲、戦術航空機、陸軍航空部隊(筆者注・ヘリの事か)を駆使している。しかし、突撃作戦は成功しなかった。ザポリージャ方面ではロシア側の攻撃的な行動は少ないが、利用できる全ての武器でウクライナ軍の陣地を常に砲撃している。

一方、われわれは自信をもって地盤を固め、敵の戦闘能力を低下させるための措置を講じている。特にロケット砲や砲兵の部隊は、敵の指揮所、燃料や潤滑油の貯蔵所、武器や軍備の集積所などを攻撃し、さらに敵の野砲相手に戦闘を展開している。特定の地域では、反攻作戦を行い、それに対する敵の反応を分析もする(筆者注・こいうった武力偵察はロシア側からも報告があり、その度にウクライナ軍の大規模反攻作戦ではないか、とロシア側を警戒させている。敵を緊張から疲労させる効果もあると思われる)。

同時に訓練も行っている。まずは武器を使いこなせるようにし、一発で目標に命中させることを目指す。そして、起こりうる状況を想定し、その対応を学ぶ。戦争は、かつて孫子が書いたように欺瞞の技術の集大成である。私は作戦における欺瞞や狡猾さは、軍の訓練によって強化されなければならないと思っている。私が管轄する部隊の指揮官たちは、これを理解し実践している。

質問
ハルキウ作戦に参加されたとのことですが、この電光石火の攻防を成功させた要素は何だったとお考えでしょうか。
(筆者注・開戦直後の防衛戦では無く、秋のハルキウ電撃戦の事)

〇作戦の秘匿、隊員の訓練、立案した指揮官の信念、そして火力と機動性の巧みな組み合わせだと思う。
(筆者注・私が立案したと言ってるのかスィルスキー将軍を指すのか、それとも別の人物なのか、もうちょっと具体的な話が欲しかった。ただし火力と機動性の組み合わせに言及している事からアメリカ海兵隊の「機動戦」の概念に影響を受けているのが判る。さらに作戦の秘匿はOODAループにおける「敵の観察」への妨害と考えいいだろう。ついでに先の孫子への言及から、孫子好きのボイドの影響もありうると筆者は考えている)

作戦の成功のためには、通常、大規模な準備と参戦部隊側の大変な量の作業が必要となる。まず、敵の攻勢を止め、その予備戦力を破壊することが必要だった。さらに主力部隊の進撃方向を誤認させること。そのために実際に攻撃を行って、特定の地域でウクライナ軍の活動に関する誤った考えを植え付けなければならなかった(筆者注・事前に欺瞞作戦を行い、敵の注意を本来の目的からそらす、という事)。同時に、作戦部隊や支援部隊の準備と戦意の高揚を密かに行わさせることも必要だった。

作戦部隊が前進可能か否かの判断は、非常に重要だった。なにしろそれまで、私たちの戦争は塹壕の中で戦う防衛線だったのだ。しかし兵士たちは決意し、成功した。敵の第一防衛線を突破した攻勢集団の前衛部隊の任務は明確だった。ロシア軍の防衛拠点を迂回し被害を抑えながら、素早く敵の後方に侵入する事だ。これによって敵は撤退を強いられる事になった。ロシア兵は我々が敵陣奥深くに侵入すればするほど、包囲される危険性が高くなる事を理解していた。そのため敵は退却し、場合によっては武器、装備、私物を残してただ逃げ出した。
(筆者注・高速機動で敵の背後に侵入、パニックから敵軍を崩壊に追い込む、まさに電撃戦である。グデーリアンによるドイツ軍電撃戦そのまんまで、よく研究していると言っていい。狙ってやった電撃戦としては他に1991年の湾岸戦争地上戦があるが、ここまでの成功は無かった(現地指揮官が無能だったゆえ)。ただし狙わずにやった結果の電撃戦である朝鮮戦争開戦時の北朝鮮の機甲師団はさらなる成功を収めている。国境突破、敵の首都占領、さらには朝鮮半島最南端に達し、一時は韓国軍と米軍を釜山の一帯の狭い地区まで追い込んでしまった)

質問
その後、ヘルソン地区はあなたの指揮のもとで解放されたのですね。どのようにして実現したのですか?

〇指令を受け、私が指揮を執った。攻勢を準備する際、ハルキウ作戦の経験やそれに先立つ出来事を考慮して立案し、一部はヘルソン方面で直接実施された(筆者注・ロシア側の勢力圏内に侵入し密かに行動した、という事か)。

再び、進撃可能か否かという問題に直面した。一帯の兵の多くは破壊工作や陣地からの砲撃は出来ても攻勢作戦の訓練は受けて無かった。大げさに言えば、破壊と攻撃を二つ同時に行うことはできなかった(筆者注・電撃戦はとにかく速攻で攻め込む機動戦が必要があり、従来の砲撃戦しか訓練を受けてない兵では不可能、という事か。そうだとすると一連の機動戦の展開は開戦後にウクライナ軍に持ち込まれた戦術と言う事になるが…)。そこで、あらゆる訓練が実施された。機械化歩兵旅団や自動車化歩兵旅団の部隊行動を、単独で、あるいは砲撃の支援を受けながら訓練したのです。攻勢に転じる準備が整ったという答えが出て初めて、作戦の活動段階が始まった。

その間、迫撃砲、多連装ロケット砲、野砲の特定部隊が敵陣地に絶え間なく砲撃を加え続けた。これで敵の支援物資の補給路は事実上破壊された。その結果、敵の指令部からロシア軍部隊の撤退という、彼ららしくない決断が発表された。全兵力を失うか、戦闘能力を維持できるかの選択である事を理解した上での、やむを得ない決断であったろう。当時、ロシア軍空挺突撃部隊の精鋭がヘルソン方面に駐留していたからだ。

砲撃と反攻作戦を予感させる圧力によって敵が部隊を撤退させたのだろう。これを受け、我軍によるヘルソン地区への積極的な侵入が始まったが、天候の影響で進行が遅くなることもあった。それでも各部隊は、与えられた任務に対処した。(敵が自主的に撤退したので)損失が少なかったと点は良かったと思う。ただしこれらは我々の研究不足を示している。一帯のロシア軍を徹底的に研究せず、敵がより狡猾だった事を意味するからだ(筆者注・本来は敵の撤退前に攻勢を仕掛け、包囲殲滅を狙っていた、という事か)。しかし、すべての部隊の働きには感謝している。仕事は終わった。私たちは先に進む。

質問
2022年2月(筆者注・開戦時である)のウクライナ軍と現在のウクライナ軍はどのように変わったのでしょう?

〇我が軍は変化している。これは、戦術的な作戦においても、支援国から受け取った武器の使用においてもだ。既にに述べたように火力と機動力を組み合わせることを学んだ。 これは攻勢における成功と同時に、究極的にはあらゆる種類の戦闘に繋がる。今日、ウクライナ軍は、数に頼る軍隊では無く、訓練と利用できるあらゆる兵器と手段を用いて効果的に敵を倒す軍隊になりつつある。
(筆者注・やはり開戦後に機動戦を採用したとしている。事実ならいきなりぶっつけ本番で戦史に残る大成功をやってしまった事になる。この辺りの事情は戦後に出て来る情報に期待したい。それは腕力だけでなく知力で勝つ軍隊なのだ)

現在使用している兵器が、我々が既に持っていて利用していたロシア製のものより優れていることは周知の事実だ。私は、このような支援をしてくれる協力者に感謝している。砲兵だけでも効果は大きいが、各種レーダーや電子戦装備が並行して働き、その結果、砲兵が巧みに武器を使いこなせば、その効果は何倍にもなる。特に122&152ミリ口径に代わる西側の兵器には感謝している。
(筆者注・西側の野砲やロケット砲の正確性の成果は大きいようだ。逆に言えばこれを持たないロシア側の火力の効果も想像できる事になる)

質問
戦争において、どうやって冷静さを保っているのですか?

〇…いや、苦痛は感じている。最も辛いのは戦友を失った時だ。しかし、それが勝利の代償であり自由で独立した国で生きるための代償なのだ。もし私たちが戦わなければ、明日には国が無くなってしまう。そのことを意識することで、力が湧いてくる。

質問
「孫子」への言及がありましたが、彼の書に影響を受けているのですか?

〇孫子の戦術論『孫子の兵法』は読んでいる。興味深く、学ぶべき点が多い。特に自分に自信を持つ事に関して参考にした。「敵を知り己を知る者は負けぬ」と書いてあったと記憶する。

質問
「戦闘で勝つことは、戦争に勝つ事を意味しない」という言葉もありますが、どう思いますか。
(筆者注・「孫子」にそんな言葉は出て来ない。ヨーロッパの格言かもしれないが、当たり前な話で何が言いたいのか判らない。この後の将軍の回答が混乱してるのは恐らく彼も意味が判らなかったのでは無いかと思う)

攻勢の成功のためには、何よりも兵士の士気を高める必要がある。三人の兵士のうち二人が強く自信を持てば、三人目もそれに続く。信じて欲しいが、これはどんな場合にも言える。この場合、前向きな情報があるならそれに越したことはない。そして勝利した戦闘は前向きな情報となる。これは勝利への前進である。

質問
あなたはどんな夢を持っているのですか。

全てののウクライナ人と同じく我々は勝利を夢見ている。最小限の損失でウクライナの国境まで敵部隊を撤退させること。そのために部隊を集積し、武器を習得し、さまざまな演習や訓練を行っている。結局のところ、塹壕の中の防衛線では戦争に勝てないのだ。

https://armyinform.com.ua/2023/02/26/sogodni-my-stayemo-vijskom-yake-ne-kilkistyu-a-navchenistyu-ta-vminnyam-vykorystovuvaty-nayavni-syly-j-zasoby-efektyvno-gromyt-voroga-brygadnyj-general-oleksa/ 
 

以上、今回はここまで。筆者の余計なコメントは控えます。というか必要ないでしょう。次回はザルジニー将軍とレズニコフ国防長官を取り上げます。


BACK