■ウクライナ軍戦車部隊への集団インタビュー

開戦からほぼ一年経った2023年2月16日に掲載された戦車部隊兵へのインタビュー記事。2022年秋以降の激戦地となったバフムート地区に展開する戦車部隊を記者が訪れて話を聞いた内容となっています。

〇バフムート地区における我々の任務は歩兵の援護射撃だ。要請があれば出動する。ただし最近は出動回数が減っている。
〇ロシア側は適当に多くの砲撃を加えて来る。対してウクライナ側は目標を正確に狙い、そこに砲弾を集中させる。
〇部隊はカモフラージュを施した上で林間に配備され、弾薬庫や退避壕も造られている。
〇リアクティブアーマーは走行中に木などに当たると破損してしまう事がある。

〇部隊は昨年(2021年)の四月、イジューム周辺で戦っていたが、敵の砲撃は激しく物量で圧倒された。戦車の数では4対1の比率で敵が圧倒的に優位だと推測された。
〇当時はロシア側の装備も良好な状態だった。現在のバフムート地区のロシア軍とは全く異なる。

〇ロシアから鹵獲したT-80で部隊は戦っている。ウクライナの主力だったT-64と同じ系統の戦車なので操作を覚えるのは難しくなかった。
〇ロシアのT-80には赤外線暗視装置が積まれて無いモノがあった。部隊の中の一台はそういった戦車だ。
〇砲手の操作はT-80でもT-64でもほとんど変わりがない。ただし運転手はちょっと対応が必要だった。
〇T-80のメリットは速度の速さ、光学照準系の優秀さだ。そして武装も強力である。さらに騒音も静かだ(筆者注・どうもエンジン音だけでなくキャタピラの出す音なども意味すると思われる)。

〇T-64はより信頼性が高いが速度が遅い。これは意外に重要。ただしT-64は扱いやすく、丈夫で信頼性が高い。
〇部隊のT-64は初期の戦闘で失われてしまったので、ロシアから鹵獲したT-80しか選択肢が無かった。
〇現在、どの中隊にもほぼロシアのT-80があるが旧式だったT-64の方が信頼性の高さから好きだったと言う隊員もいる。



■Photo: ARMY INFORM

インタビューを受けた部隊が使用していたロシアからの鹵獲品であるT-80戦車。細かい型番は筆者には判らず。車体の白十字はウクライナ軍の識別用。周囲の風景にモザイクを掛けて場所を特定されないようにしてあるのは、引用元による。冬の雪に合わせ車体を白く塗る冬季迷彩などが施されて無いのに注意。どうせ赤外線で探知される現在の戦争では不要と判断したか。


〇数字の上ではとっくに我々は壊滅していたはずだが、ロシアの戦車兵の練度が低く助けられた。
〇以前には二両の戦車でロシア軍の戦車二十両以上と戦い、足止めに成功したことがある。二両とも最終的には撃破され、部隊長は戦死してしまったが、それ以外の乗員は脱出して生還した。

〇ハリコフ近郊の戦闘では待ち伏せれ、至近距離からT-80に砲撃されたが二発連続で外れ、敵は三発目を撃つ事さえ出来なかった。まともに訓練されてない召集兵が運転していたのが、機材の故障か、とにかく原因は不明である。

〇最近のロシア戦車兵の練度は低い。まともに訓練していないのではないか。
〇鹵獲した戦車の内部塗装は何度も塗り直されてキレイに維持されており驚いた。きっとそのペンキを塗るのに忙しくて戦闘準備はして無かったのだろう。
〇ロシア軍の特徴は榴弾砲の膨大な量の砲撃と、大量の歩兵である。バフムートでは特にそれが目に付く。
〇とにかく膨大な歩兵を攻勢で突入させて来る。実際問題として数で飽和されると打つ手が無くなる事がある。
〇それでもなぜあんな人命軽視の作戦を取るのか理解できない。第二次大戦時の戦法から何も進化していない。敵を自分たちの血で溺れさせる気なのか。
(筆者注・人命軽視の人海戦術は朝鮮戦争の中国軍もまた得意としたので共産党の兵の特徴とも言える戦術である(共産党の支配する国は建前上は国家では無いから共産党の私設軍)。この点がロシア軍に引き継がれてるのは70年間何やってたの、という所である。核戦争以外、考えて無かった1970年代までのアメリカ軍のような状態だったのか)

〇この取材中、記者は「歩兵は戦車を愛してるぜ!(ПІХОТА ЛЮБЕ ТАНКИ!)」という落書きを目撃している。

https://armyinform.com.ua/2023/02/16/tankist-did-ya-pomer-drugym/


戦車は未だに戦場の女王である、というのと同時にそれを使って21世紀に電撃戦をやってしまったのが今回のウクライナ軍の凄みなんですが、その辺りはまたいずれ。そしてドローンと戦車の融合戦術、という興味深い進化にも注意が要るでしょう。

今回の記事はとりあえずここまで。次回はドローン戦を中心に見て行く予定です。
 


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