■虚構における破壊と創造 脱線編

リアルタイムで読んでる読者さんはお気づきのように、一部で予告していたOODAループの記事の再開の時期が来たのですが、現状、本格再開のメドが立ちませぬ。書くことは決まってるんですが、確認すべきことが多すぎて時間が足りんのです。

そこで最低限の繋ぎ記事として、メールでもらった要望に最低限の応対をするという苦肉の策に出る事にしました。
とりあえず以前取り上げた虚構に関する「破壊と創造」の手法でエヴァンゲリオンに関しても見て欲しい、というメールを複数もらっていたので、これを取り上げます。ただし私は特撮やSFに疎いので、残念ながらこの件に関しては最低限の記事しか書けません。この点はご勘弁を。

そして前回も述べたように、あくまで私個人の独自判断ですから、この点もご了承のほどを願います。
また、今回の話は最初のTV版と、二本の旧劇場版「まごころ」編までの話で、二度目の映画版であるヱヴァンゲリヲン編の四本は含みませぬ。あれは完全に別物で、今回取り上げた内容とは別にキューブリックや2010年代の漫画、そして恐らく監督さん以外の人達の発案が複雑絡んでるように見え、ちょっと取り上げるのは無理なのです。

とりあえず私の判る範囲で分解再構成の形で取り込まれているのは主に二作品、ウルトラマン、そしてロボットアニメの先輩、伝説巨人イデオン、特にその劇場用作品でTV版とは大きく異なる物語で制作された「伝説巨人イデオン 発動編」ですね。

それらを要素に分解すると以下のようになります。
ちなみに今回はすで読者の皆様方は「破壊と創造」の話を理解されてる、という大前提のため、破壊&分解後、その情報の海から必要な要素だけを予め抽出した状態から始める事にします。はい、明確な手抜きです。

ちょっと説明を追加すると、イデオンの五番目の要素、宇宙のステキ謎技術に関する女性の専門家としてエヴァンゲリオンに登場するのがリツコさんですね。

六番目、当初のエヴァンゲリオンは電動ですが、その主兵器であるATフィールドは精神力の強さの発動によるものでした。イデオンの場合、動力からバリアまで、ミサイル弾幕以外は何から何まで人の心を源とする無限力、イデの力由来なのでより明快ですが、エヴァンゲリオンもまた、人の心で強くも弱くもなるロボットでした。

最後、無限エネルギーはウルトラマンから取り込んだ要素、活動エネルギーの限界による時間制限と矛盾するのですが、物語の途中でエヴァンゲリオン初号機さんは使徒の持つ無限エネルギー機関、S2機関を生で食べて取り込んでしまい、この面倒な設定を捨ててしまいました。後はやりたい放題。
これがエヴァがウルトラマンからイデオンに進化する瞬間で、これによってどちらのロボットも無限エネルギーを動力源として持つことになりました。

ざっとここまでの要素を見る限り、確かに多少の共通点はあるかなあ、という感じに過ぎませんが、これに劇場版のイデオン「発動編」に置ける類似点を加えると、よりその関連性が明確になります。この辺りは要素に分解すると逆に面倒になるので、文章で説明してしまいましょう。

〇敵であるバッフクラン軍の指揮官ドバは自分の子供を射殺してもオッケーの非情なヒゲのパパで、その助言者で後見人、オーメ財団の総裁ジンムは白髪で面長でアゴが尖った老人だった。
二人は「発動編」では最後までバイラル・ジンの艦橋で一緒だったが互いを同志と認め合ったような丁寧なタメ口で会話しており、ゲンドウパパと冬月おじさんの外見及び人間関係とよく似ている。

〇そのドバとジンムは宇宙の素敵な無限力、イデを主人公たちから奪った後、本国の最高権力者、ズオウ大帝を出し抜いて自分たちの野望のために使う気だった

〇ドバとジンムが指揮を執っていた巨大宇宙船バイラル・ジンの艦橋は深い吹き抜け構造であり、その一番高い場所に指揮官席が、そして正面に巨大なモニター(らしき映写装置)があった。「発動編」では最後にイデの力の誘導でイデオンさんが敵包囲網を一点突破し、その指揮所の正面外壁を外からパンチでぶち抜いてトドメを刺す

〇ネルフ本部の指令所も同じような構造を持ち、実際、使徒ゼルエルが一点突破でまっすぐそこを目指した後、その正面の壁をぶち抜いて侵入するというイデオン式の司令部襲撃を物語の終盤でやってる

〇エヴァンゲリオンの旧劇場版「まごころ」編では最後に敵兵力がネルフ本部に突入、白兵戦で殺戮が行われた挙句にみんなイデ、じゃない、エヴァの発動で死んじゃう

〇同じく「まごころ」編では終盤に突然、実写映像が出て来て最後は浜辺の光景で終わる(最後はアニメに戻るが)。
もう説明が面倒なので直接見てもらいたいがこの辺りはソロシップでの白兵戦からイデの発動、突然の実写映像の登場、そしてラストの場面が浜辺の所まで、まさにイデオンの「発動編」。ただし発動編は実写映像のまま終わってしまうけど。

〇人間を根こそぎ消し去ってしまう作品中の概念、「サード・インパクト」も皆死んでリセットなるイデの発動と本質的に同じ。ちなみにイデさんも以前に一度、生みの親である第六文明人を滅ぼしてるので、劇中の「発動」は二回目だった。迷惑な無限力である。

といったところですね。

ただし両作品の世界観には主人公がアフロヘアである、ない、という、大きな断絶が存在するのに注意が要ります。
エヴァンゲリオンは運転手の美少年や美少女がヘルメットを被らなくて済む設定を産みだし、戦闘中もその美男美女ぶりをいかんなく発揮できる画期的なロボットアニメでした。エントリープラグやらLCL液やらはそのための方便に過ぎませぬ。

これはエヴァンゲリオンは鉄人28号に次ぎ大宇宙で二番目にアフロヘアに優しい運転系統を持つロボットである、という事も意味します。
せっかくのアフロがヘルメット被るたびに台無しにされていたら、パイロットの給与は美容院代で消し飛ぶからです。

よって、これだけの設定を造りながら、そのパイロットに一人もアフロヘアが居ない点は個人的に理解に苦しむところです。アンドロー梅田を超えるアフロキャラ誕生の最大のチャンスだったはずなのに…。何かこの辺りに物語の核心に迫る秘密がある気もしますが、私には詳しいところは判りませぬ。

ちなみにヘルメットを被ったキャラクターを一目で誰なのか分かるようにする演出は大変だし、ヘルメットを被ったキャラの絵は描くのも大変なので、エヴァの運転席はまさに画期的でした。

さらにちなみにイデオンの「発動編」ではカララがヘルメットを被らない理由を延々と会話で説明する、という無駄に長いシーンがあります。あの辺りがせっかく主人公を鬼のように識別しやすいアフロヘアにしたのに、という冨野監督のヘルメットへの恨みつらみなんだろうなあ、と思って観てました。その結果が主人公コスモの男の子なのにピンクの宇宙服なんでしょう(アフロと同じ色)。

もしイデオンがリメイクされる時が来るなら、操縦席はエントリープラグにするか、ヘルメットをアフロヘア型にすることを期待したい所です。

最後の蛇足

最後に完全な筆者の「推測」を蛇足として付け加えておきます。
そもそもエヴァンゲリオン、福音書という変なタイトルはイデオンへの関連性を暗示した謎かけじゃないの、というお話です。

イデオン「発動編」のラストに登場する重要なキャラクターが「メシア」でした。皆死んじゃった後の地球人&バッフクラン人の魂を導き、やたらと広い大宇宙を元気に横断して二つの月を持つ水の惑星へと連れて来たのが、この「メシア」と名付けられた赤ちゃんだったのです。すなわちイデオンの最後では、メシアが新たな惑星に降臨して終わります。

本来「メシア(Messiah)」という名詞は聖別された者、選ばれしもの、といったセム語&ヘブライ語系言語の単語で、預言者(予言ではない。神の言葉を聞く神子である)や聖人を指す名詞でした。これが後にキリスト教ではイエス・キリストご本人を指す言葉になるのです(というかメシアのギリシャ語訳、χριστόςの音を拾ったのがキリスト(Christ))。

マタイ、ヨハネ(この二人は最後の晩餐に参加した十二使徒とされるが証拠はない)、そして、ルカ、マルコ、を加えた四人がその最後のメシア、すなわちキリストの誕生から死までを記録した四つの書物をまとめたのが新約聖書です。
そして新約聖書が当時の標準言語のひとつ、ギリシャ語に翻訳される時、ついにホントのメシアが地上に降臨したよ、それがイエスなんだよヒャッホー、よかったねみんな、という事で「良い知らせ」という意味のギリシャ語「エヴァンゲリオン/Evangelion」が書名に当てられました(厳密にはもう少し複雑だが本題からズレるので省く)。

これがヨーロッパ圏、特に正教系の教会で新約聖書の写本を指す古語、エヴァンゲリオンの語源であり、日本に導入された新約聖書が「福音書(良い知らせの書)」と呼ばれた理由です。ちなみに通常は旧約聖書と合わせて一冊とし、そちらは普通に聖書(Bible)となります。聖書からユダヤ教時代の記述を省き、最後のメシアであるキリストの生涯を述べたマタイ、ヨハネ、ルカ、マルコ、の四書だけを抜き出したのが福音書、すなわちエヴァンゲリオンなのです。ちなみに英語だと普通は Gospel と呼ぶのですが、Evangelionでも通じる事が多いようです。

よって「新世紀エヴァンゲリオン」を直訳すると「新世紀 福音書」、または「新世紀 良い知らせ」となります。
 
さて、前置きが長くなりましたが「新世紀 良い知らせ」ってなんだよ、という点を個人的な推測から少し説明します。
既に見たように、本来、エヴァンゲリオン、福音書という名は地上に降臨したメシアの物語を指す言葉です。

よって庵野さんによる「エヴァンゲリオン」というタイトルは、イデオンの最後において新たな惑星に降臨した「メシア」の物語である、という暗喩ではないかと思っております。要するに遠回しながら、これは庵野監督なりのイデオンなのだ、あの「メシア」と滅びた異星人たちの新たな物語なのだ、という事を宣言してるんじゃないの、という事です。故にこれだけの共通点があり、ついでにどっちも名前の末尾が「ON」なんだろうと。
まあ、この辺り、実際のところはご本人にしか判らないのですけども。

さらなる蛇足

もう少しだけ続けましょう。

庵野さんの虚構制作の根に影響を与えた二人、まず宮崎さんの系統の物語を踏襲したのがナディア、次に冨野さんの系統を踏襲したのがエヴァだったと思われ、結果は後者が大ヒットでした。ただしご本人のダメージも甚大でしたが…。もちろん、ホントのとこは造った本人以外には判らないのですけども(宇宙戦艦ヤマトには明確な虚構創造者が居ないので、ここでは省く)。

そしてこれも完全に私個人の推測ですが、庵野さんは虚構制作という無限に続く地獄の地雷原に率先して突撃し、自ら新しい道を切り開くタイプでは無いように見えます。

言葉は悪いですが、他の人が歩いて地雷を踏むまで待つ、あるいは歩かせて地雷を踏ませ、正解ルートをはっきりさせた後、その屍の上を越て目的地までの道を歩いてゆくタイプに見えます。これは良い、悪いではなく、創作のスタイルの問題で、おそらく宮崎駿さんも同じタイプであり、分野は違いますがスティーブ・ジョブスなども多分、同じですね。いわば「無から新を産みだす神業」ではなく、「既存のものから選び出す人の子」タイプの創造です。そういった意味では「破壊と創造」の最高峰の人達でもあります。

ちなみにこう書くと誰にでも出来るように見えますが、あくまで地雷の位置が判るだけであり、無数に残った正解の道の中から本当の正解を選ばねばならぬ、という点で凡人には無理で、やはり一種の天才ではあるのです。

この点、行くべき道を判断するのに利用できる先行者が居なくなってしまった後の庵野さんの苦悩が、いわゆるヱヴァンゲリヲンの映画四本の迷走なんだろうなあ、と思ってます。ただし天才系の虚構制作者で未知の地雷原に自ら飛び込むタイプは極めて珍しいので、それが普通なのかもしれません。その他の世界ではソニーの盛田さんとか、本田宗一郎総司令官とか貴重な例外が存在するんですけどね。

最後に、さらに蛇足ですがエヴァンゲリオンのヒロインが長髪と短髪の美少女二人である点の元ネタは1991年に出た島本和彦さんの漫画、「燃えよペン」第二話5P目のセリフ、「女の子は長い髪とショートカットの二本立て、読者は必ずどっちかにつきます!」でしょう(「吠えよペン」では無いのに注意)。おそらく読んでたと思うので。

はい、という感じで、今回はここまで。


**2023.02 追記

記事掲載から1年半近く経ってから、知人よりあれは石川賢による漫画版を含むゲッターロボの影響もあるよ、との指摘を受けました。
そういう事はもっと早く言えよと思うのと同時に確認して見ました。ただしゲッターロボ作品全部を見る気力も時間も無いので最低限のみですが、確かに影響が見られるので追記します。例によって「破壊&分解後」の要素だけを上げて置きます。

■三種類の明確に色分けされた主人公ロボットが登場し、性格の異なる三人のパイロットが居る。

■主人公のロボットに先行試作機が存在する。試作機パイロットは第一話で戦闘不能に(こっちは死亡するが)。

■最初の敵の名はサキ。エヴァンゲリオンではサキエル。

■石川賢さんによる漫画版ではパイロットには特殊な適性が必要で誰もが操縦できるワケでは無かった。

■同じく漫画版の第一話では問答無用でパイロットにされる事に主人公が反発し指揮官である早乙女博士と対立する。ちなみに漫画版の早乙女博士は目的のためになら手段を選ばない冷酷な人物という面がある。

■漫画版では主人公以外のパイロットは第一話では揃わず、話の進行に連れて合流して来る。

■主人公が戦えない状態でパイロットの一人が強行出撃、敵の強力なロボットを巻き込んで自爆し死亡する。

といった所ですが、特に漫画版は色々と微妙な形で強い影響を与えてる印象があります。
 


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